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森に暮らす少女 2




 ルルは自身とヴィリーの手脚の汚れを井戸水で落とすと、台所に向かった。


 今朝のルルの献立は、にんじんスープ。

 もちろん、ヴィリーは別メニューだ。


 といっても、新たに作るわけではなく昨日の残りなだけなのだが……。

 けれど、そのスープは母が遺してくれたレシピノートと、子どもの頃に食べた記憶を頼りに練習を重ね、やっとのことで再現することのできた少女にとって数少ない自慢できる料理のひとつでもある。


 どこか懐かしくて優しいその思い出の味に、ルルは思わずホッとする。

 こんなにふうに料理を味わえる余裕が出来たのも、この森の家に移り住んだおかげかもしれない。


 実は、16歳になったばかりの彼女は一ヶ月前に住み慣れたルグミール村の家を離れ、近くにあるこの森の家にひとり暮らし始めたのだった。


 ここは村の家とは別に、ずいぶん昔に両親が仕事場として建てた家だった。

 仕事熱心だった両親はしばしばこの森の家に訪れ泊まり込む事も多く、ルルも小さい頃から連れられてよくこの家で一緒に過ごしたものだった。


 しかし、数年前に両親が亡くなってからは、自然と足が遠のいてしまっていた。

 その時のルルの年齢を考えると、さすがにひとりで森に入るのは無理があった。


 しかし一ヶ月前、ルルは再びこの森の家を訪れることになった。

 数年間放置された状態の家は、少し周りの緑に飲み込まれかかっていたが、こじんまりとしながらもしっかりとした造りだったことも幸いして、部屋の中を大掃除しただけで問題なく住めるようになった。


 そうして、最初こそ大変だったけれど今ではここでの生活もだいぶ慣れ、新たな暮らしの習慣も徐々に出来はじめていた。


 朝食の後片付けを済ませると、今度はその習慣のひとつである手紙に目を通し始めた。

 以前住んでいた村の長と親友からの便りには、自分を心配する内容ばかりでルルの心をほんのり暖かくすると同時に、その優しさに胸が締め付けられるような思いもしていた。


 正直、森での生活は決して楽な暮らしでもなく、想像よりも不便で大変な事の方が多かった。

 愛犬のヴィリーが常に寄り添ってくれているとは言え、16歳の少女が森でひとり……寂しくないと言ったら嘘になる。


 ふいに、ルルは足元で寝そべるヴィリーの頭にそっと手を伸ばし優しくなでなですると、それが心地良いのかふりふりと振り回す尻尾の毛先が、ルルの脚をくすぐる。


「ふふっ、くすぐったいよ、ヴィリー」


 そんなほっこりとした触れ合いが、気を抜けばたちまち沈んでしまいそうになるルルの心を慰めてくれる。


 ぎりぎりの状態でなんとか繋ぎ止められている状態にも関わらず、ルルがそうまでしてこの森に移り住まなければならなかったのには、やはり止むに止まれぬ事情があるのだった。




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