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宝石箱なんていらない  作者: 天嶺 優香
四、迷路をまわる
26/41

6

ようやくヘイムスの出番だーい!ヘイムスお仕置きタイムというより、ヘイムスのターンって感じです。


    ***


 うう、とアレクサンダーがうなり声をあげて威嚇している。エミリアは椅子に座り、朝の紅茶を飲んでいる──けれど、その視線はまっすぐ部屋の隅に置かれている家具の隙間へなんとか体を埋めて隠れようとしているヘイムスを捕らえている。

 ヘイムスの顔は青白く、終始ぶるぶると震えている。

 個人的な話なので侍女達は部屋の外へ待機させている。

「……それで、なにか言い残す事はありまして?」

「い、言い残す事って、なんだかこの世から抹消する前みたいな……」

「それでももちろん構いませんわよ」

 がう、とエミリアの足元で牙を見せるアレクサンダーの背を撫でて柔らかい触り心地に少し心が癒される。

「いや、エミリア様が無謀な事をされるから、思わずフェドルセン様に……」

「……お前の主人は誰なの?」

「もちろんエミリア様ですよ!」

 そこは疑われたくなかったのか、家具の裏から飛び出してヘイムスが言い放つ。

 けれど、エミリアはそれを一瞥して紅茶を飲んだ。

「……ではなぜ主人であるわたくしの意思を無視しましたの?」

「……エミリア様がそんな事をされる必要がないと思ったからです」

 ヘイムスは俯いて服の裾をきゅっと掴む。しかし、アレクサンダーが怖いのか、徐々に後ろへ足を動かして下がっていく。

「お前も、わたくしが王妃になる事がどれだけ重要かわかっているはず」

「……そうですけど」

「なら、必要がないとなぜ思いましたの?」

 エミリアはこの国の王妃にならなくてはいけない。世継ぎとなる王子を身ごもり、この国の母になる。それが、エミリアに与えられた仕事だ。それだというのに、なぜ肝心のところで、しかも自分の侍従に邪魔されなくてはいけないのだろう。

「王妃にならなくちゃいけない事はもちろんわかっています。けれど、ルドベード様の寝所に忍び込んで閨を共にする必要はないでしょう」

 やけに口答えをする。長年ヘイムスはエミリアに仕えてきたが、彼がこんなにはっきりとしつこく口答えするのを、エミリアはあまり聞いたことがない。

「ルドベード様には妃に迎えたい女がいるのにどうして?」

 しかし、慣れていない口答えにどんどん苛立ちが募る。結局ヘイムスは何が言いたいのか。なぜそこまで頑なに否定するのか。

 思わずエミリアが紅茶の入ったカップを掴む手に力が入った時、ヘイムスが顔を上げた。

「ルドベード様ではなく、フェドルセン様を落とせばいいではないですか」

 そんな、エミリアにとっては突拍子もない事を言われ、思わずぽかんと口を開けて間抜けな顔をしてしまう。

 先ほどまで募っていた怒りも一気に吹き飛び、やがてむずむずと全身を掻きむしりたくなるような心地がエミリアの中を駆け上がる。

「な、なななにを言っていますの!?」

「フェドルセン様に国に残ってくれと言えばいいではないですか!」

 動揺してしまったエミリアに畳み掛けるようにヘイムスが追撃の一言を落とす。

「なぜ! わたくしが!!」

 アレクサンダーがきょろきょろとエミリアとヘイムスの間で視線をさ迷わせている。ひとまず落ち着こうと、アレクサンダーの背をなでるが、思わずぎゅっと犬の余った皮を掴んでしまう。もちろんアレクサンダーは痛がったりしないが、全然冷静になれない。

「ヘイムス、わたくしに何年仕えていますの? あんな男を選ぶなんて節穴なの?」

「エミリア様こそプライドの高さで前が見えていないのではないですか? 政治手腕を考えても、フェドルセン様こそ適任ではないですか!」

 ここまでヘイムスが強気に出ているのを見たのは何年ぶりか。ふとエミリアはヘイムスと出会った時の事を思い出した。

 エミリアの姉であるアランシアを崇拝するあまり、彼が起こした愚かで、だけどエミリアが初めてこの男を賞賛した時の事を。


 まだアランシアもエミリアも幼かった。けれど、アランシアの容姿はその時から人々を騒がせ、もてはやされていた。

 ヘイムスは、さる高貴な貴族の三男で、丁度城へ挨拶に来た折にアランシアに惚れ込んだ。

 騎士になる素質もなく、ならば臣下として側にと考えた。

 そうして城にやって来てはしつこく臣下になるだの、侍従にしてくれだの、エミリアの前でアランシアに散々言っていたが、ある日を境に来なくなった。

「ようやく騒がしい虫がいなくなりましたわ」

 それくらいにしかエミリアは思っていなかったが少し気になり、様子を探ってみると、どうやらヘイムスは男が常に側で仕えることが出来ない事を知ったらしい。

 愚かだと思ったし、これで諦めもつくだろうと思っていたのに、ヘイムスは更に愚かな事をした。

 彼は、自分の性器を自分の手で切り落とし、そのまま失神。見つけた家族によって急いで医師を呼ばれ止血と処理をされたようだが、とても見れた状態ではなくなったらしい。

 後から本人に聞いた話だと、

「東の方の商人が教えてくれまして。その人にやり方を聞いて、あとは自分で実践しました。腰布を下半身に巻き付けて止血して消毒し、あとは一気に振り下ろす。あ、でもきちんとうまくはやっぱりできてなかったみたいで、かなり危ない状態だったみたいです。まあ意識なかったんで生死の境さ迷ってたなんて全然わからなかったですけどね」

 と、あっけらかんと言っていた。

 けれど、やはりよく知りもしない事をしたせいで彼の下半身はかなり醜いらしい。

 それをヘイムスと同世代の男の子達が面白がり、何人かで陰に隠れて彼に服を脱げと強要していた所に、エミリアは出くわした。


過去編っぽくなってますが、次話の前半くらいで過去編は終わります。

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