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宝石箱なんていらない  作者: 天嶺 優香
三、穏やかな日常と、
16/41

1

 謝罪の場というのは人目がある方がいい。もちろん、それはあくまで謝罪を受ける側だった場合に限るけれども。

 エミリアはゆったりと椅子に腰掛け、目の前で深く礼をするアンネに視線を向ける。

 周りにはたくさんのシュゼランの重鎮達と、エミリアの公式な婚約者であるルドベード、そしてその弟のフェドルセン。

「この度は申し訳ありませんでした」

 納得できない、と思っていることがよくわかる声音だ。もちろん顔は伏せているが、きつく床を睨んでいる事がわかる。怒りで肩が震えているのだ。

「……あら、ごめんなさい。今なにかおっしゃいました?お声が小さくて聞こえませんでしたわ」

 エミリアは力なく眉毛を下げ、不安の表情を浮かべ、おろおろと周りを見渡す。

 はしたないと思われてもいい。あんな謝罪、エミリアは受け付けない。

 エミリアの後ろで控えているヘイムスが呆れた顔をしているだろう事は予想できる。

 そして、シュゼランで最もエミリアの事をわかっているフェドルセンは、アンネに追い打ちをする。

「そうだな。俺にも聞こえなかった。みなは聞こえたか?」

 アンネにはこの機会に己の立場をわからせるつもりなのだろう。今までアンネの横柄な態度に嫌気がさしていただろう重鎮達も「いえ、私には」「はい、私にも」と応戦する声が上がる。

 アンネは連なるその声にぱっと顔を上げ、重鎮達を睨みつける。

 威勢の良い娘だ。しかし、それも立場があればこそだ。

 重鎮達が睨んでも怯まないことに気づいたアンネはルドベードに縋るような視線を向ける。

「……少し声が小さかったようだ。アンネ、もう少しはっきりと」

 ルドベードも周りを伺うように視線を巡らせた後、渋々といった様子でアンネに催促した。

 その時の、アンネの顔に思わずエミリアは口元が緩んでにやつきそうになった。

 表情が崩れそうになり、慌てて自分の掌を強く握りこみ、爪を立てる。

 そうでなければ、とてもではないが顔がもたない。この世の終わりかという程アンネは顔を引きつらせたのだ。

「な、なぜ……わたしが……っ」

 屈辱に耐えきれないのか、アンネが声を絞り出す。

 しかし、重鎮達にも言われ、フェドルセンにも、頼みの綱であったルドベードにまで言われてしまっては逆らう事は許されない。

 アンネは、ぐっと拳を握り、頭を下げる。

「この度は申し訳ありませんでしたっ!」

 やや投げやりな、耳にきーんと響くような謝罪ではあったが、今度はしっかり耳に届いた。

 エミリアは一連の流れに満足し、立ち上がる。

 なにをするのかと周りが驚く中、エミリアはアンネに近づき、その手をとって立ち上がらせる。

「はい、許しましょう。わたくしこそ聞き取れなかったとはいえ、何度も言わせてしまってごめんなさい」

 にっこりと微笑んでやる。アンネはぽかんと口を開けて呆けていたが、やがて顔を怒りで真っ赤に染めた。

 ここまで馬鹿にされた上、優しくされるなど、彼女のプライドが許さないのだろう。

「今回の事はもう忘れて、これからは仲良くしましょう?」

「は⁉︎」

 アンネが耐えきれず声を上げる。しかしエミリアは気にせずにこやかに言葉を続ける。

「わたくし、お友達が欲しかったのですわ。だから仲良くしてくださいね?」

 表面上だけでも取り繕えばいいのに、アンネは顔を歪めたままだ。ここで断ればまた自分に非難が集まると、どうして考えられないのか。

 ここまで自分の保身を忘れる人間も珍しいが、頭が足りないのだろうか。

 しかし、ルドベードが助けるように咳払いをし、アンネもようやく気づいて笑顔を作る。もちろん引きつった笑みだ。

「え、ええ!そうね!もちろんよ」

 アンネにいきなり手を握られる。しかし、握るにしては力が強い。ぎりぎりと握り込まれ、エミリアは小さく悲鳴を上げる。

「きゃ!……ごめんなさい、男性みたいに思い切り握られて、びっくりしてしまいましたわ」

 申し訳なさそうな顔を作ってちくりと言葉で刺しておく。アンネがまた怒りで顔を赤くさせているうちにエミリアはルドベードの方を向く。

「もう解決しましたわ。今日はこのような場を設けてくださり感謝します」

 ルドベードは少し疲れた様子で返事を返し、全員の退室を許可した。ぞろぞろと周りが出て行く中、エミリアはアンネの耳元で囁く。

「……強がるのも大概になさいな。今度なにかしたら今度はうちの番犬に噛ませますわよ」

 と、脅しをかけ、にこやかな笑顔を再び貼り付けてヘイムスを連れて部屋に戻った。

 部屋に戻って早々にヘイムスに淹れてもらったお茶は、気分のせいか格別な味がして、エミリアは自然と笑みをこぼす。

「エミリア様って本当に性格が悪いですよね」

 ヘイムスが呆れながらもそんな事を言う。

「そうですわね。でも誰でも性格が悪い部分ってありますわよ」

 もちろん、ヘイムスやエミリアが崇拝するアランシアにも。エミリアの姉である彼女だって、もちろん人間なら性格が悪いと思える部分もあるだろう。

「そんなに皆、完璧じゃありませんもの」



え、エミリア性格悪すぎますか?わたし基準だとやられたら倍返しって感じなんですけど、ちょっと主人公にしては……と思わなくもないので。不快だったらすみません!!

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