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苛々とした感情のままエミリアは部屋を出る。
廊下を渡り、途中で兵士を一人捕まえてアンネとルドベードの居場所を尋ねる。
引き止められた兵士はエミリアの気迫に顔を引きつらせながらも、二人が今庭で仲良く過ごしているという情報を教えてくれた。
「まあ、ではとても丁度いいですわね。どうもありがとう」
礼を言って兵士を解放し、再び歩き出せば、後ろをついてきているヘイムスが慌てて駆け寄ってくる。
「エ、エミリア様!顔!顔!」
ヘイムスに言われて一度足を止め、自分の顔に手を当ててみる。口元が引きつっているのがわかる。頬が口角を上げているせいで不自然に上がりすぎている。
いつもの猫かぶりが、綺麗にかぶれていない。
「……あら」
「落ち着いてください、エミリア様」
「ええ、大丈夫ですわ。これくらい……でも、つい怒りで我を失っていたようですわね」
ふう、と自分を落ち着かせ、再び歩き出す。今度はゆっくりとした歩調で。先程のように怒りで周りが見えず急いで早歩きなど、愚かな行いはしない。
そうして景色でも楽しむかのようにゆっくりと庭を目指せば、すぐに笑い声で探し人を見つける事ができた。
エミリアが二人の前に現れると、途端に笑い声が止まる。
それは近くにいた側近達も同じようで、国同士の問題が勃発しないかヒヤヒヤしているようだ。
もちろん、エミリアはその国同士の問題の勃発を、起こしにきたのだが。
「ごきげんよう、ルドベード様」
「ああ……なぜ君がここに?」
ルドベードは東屋に座っている。暑い日差しに絶えられないのか、隣には侍女が大きな扇で扇いでいる。
「今日は申し上げたい事がありまして。実はここ数日、わたくしの部屋の前に誰かが悪質な嫌がらせをしていきますの」
「嫌がらせ?」
さすがにルドベードは知らなかったのか、首を傾げている。しかし、ルドベードの近くで花を見ていたアンネはエミリアの言葉に途端に顔を青くした。
「はい……ヘイムス、ここへ」
エミリアが命じると、ヘイムスが抱えていたものを地面におろし、その場にいる全員に見えるようにくるんでいた布を取って中身を見せた。
「うっ!」
濁った赤い色に塗れているのは、恐らく兎。可哀想に、酷く傷つけられて殺されている。
「い、一体なんのつもり!? 無礼だわ!」
アンネが耳障りな高い声で怒鳴ってくる。周りの側近達、もちろんルドベードもあまりに惨い姿と、それが放つ異臭に顔をしかめている。
もちろん、エミリアのしている事は無礼に違いない。──けれど。
「わたくしだって好きでこのような残酷な姿を皆様に見せているわけではありませんわ。だからこそ、この数日、絶えてきたのです……けれど、もう限界です」
ひくり、と喉を振るわせて、エミリアの瞳から涙が溢れる。
「毎朝、異臭で目が覚め、残酷な姿を目にして……このような暮らし、とても絶えられません。祖国にいる弟が聞いたらなんと言うでしょうか」
眉を寄せて涙をぽろぽろ流す儚げなエミリア。周りにはそう見えているに違いない。もちろん、全て演技だ。
「そ、祖国に頼らずとも我が国で!我が国で解決してみせます。そうですよね、ルドベード様!」
側近の一人が慌ててそう言う。小さなエミリアの祖国とはいえ、敵に回したくはないのだろう。今は特に、姉がルクートに嫁いでいるので、戦になればシュゼランとしては更に頭を痛める事もあるはずだ。
「も、もちろんだとも!ならば私が君の部屋の護衛を増やそう」
「……ルドベード様の優しいお言葉に感謝致しますわ。けれど、犯人が捕まらないうちはきっとこの嫌がらせも治まる事はないでしょう」
「う、それは……」
ルドベードも、側近達も、この嫌がらせが誰によるものなのか、もう察しているだろう。アンネも嘘は得意ではないらしく、先程から怒りで顔を赤くしている。
「アンネ様……もしかして、あなたではないのですか?」
エミリアがそっと尋ねれば、アンネは更に怒りで顔を歪ませた。
「なにを馬鹿な事を!」
「アンネがそのような事をするはずがない。なにを根拠に……」
ルドベードがアンネを庇おうと口を挟む。エミリアは瞳から溢れた涙を拭い、ルドベードに視線を向ける。
「でもルドベード様、先日のスポーツハンティングの時……アンネ様はわたくしの馬を撃ち、わたくしは落馬しましたわ」
「……それは」
側近達、そして周りにいた護衛兵や侍女達からも驚きの声が上がる。それは非難が交じった声で、アンネに突き刺さるような視線がいくつも集まる。
「あ、あれは!間違えて……その、撃ってしまったのよ」
「でもそのせいでわたくしは怪我を負い、暫く歩けませんでした。それについて、正式な謝罪もありませんわ」
「…………」
ルドベードも押し黙ってしまった。この状況で、なにかを言える口も、頭もないのかもしれない。
「その後すぐに今回の件です。アンネ様を疑いたくもなりますわ」
「……そう、だな。アンネには正式な場で謝罪させる」
ルドベードの言葉にアンネがぱっと顔を上げる。
「ルドベード!」
アンネはルドベードに駆け寄り、その腕にすがる。
「私に皆が立ち並ぶ中で謝れというの!?」
「アンネ」
強くたしなめる様な声がエミリアの背後から聞こえ、思わずエミリアは振り返る。そこにはフェドルセンが顔をしかめて立っていた。
続きはまた明日。




