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83:ガルド大陸 川越え③ ~イザ・ジーク~

*** *** イザ目線 *** ***



しまった、やられた!

そう思った。

敵がシカを襲った時俺は体が動かなかった、いや動けなかった。

相手が浸食シリーズではなく人だから危険だと判ってもすぐには体が反応しなかったのだ。

だがシカは無事だった。


「ご無事ですか?お怪我はございませんか?」


現れたのはアリアンだった。

アリアンは腰を抜かし動けないでいるシカに手を差し伸べたが

シカは ヒッ と声を出して仰け反っていた。

それはそうだろう。

アリアンはシカを襲った奴に絡みつき吸収しようとしていたのだ。

さすがにその姿には俺達も、敵の集団も固まってしまった。

アリアンは少し眉を下げ寂しそうに微笑んだ。


「私は、レイスでございますから・・・」


いつも穏やかに笑うアリアンを見ていたので忘れていた。

レイス・・・

ゲームであれば、人を喰らう魔物だと言う事を。


「この場は私が引き受けます。

 ですから皆様は川の対岸まで全力で駆け抜けて下さい」

「俺達も」


カズラが言葉を発しようとする。


「今のあなた方に何ができると言うのです。

 まだわかりませんか?

 同族である () を殺せますか?

 躊躇なく、体が強張る事無く。

 そしてその後罪の意識にさいなまれずにいる事が出来ますか?」


グッ・・・


俺達は返す言葉が見つからなかった。

こうなると・・・

俺達が斬れないとそれすらも判っていたのか?・・・

だから早く逃げろと・・・

なぁグレン・・・


「行きなさい! 行かないのであれば・・・」


アリアンの体から殺気が発せられブワッと広がる。


「すべてを飲み込んでもよいのですよ?」


悲鳴があがり其々が一目散に川へ向かって走り出した。

腰の抜けたシカをボブが担ぎ上げ走る。

なにか言いたげなカズラをコングが引きずり走り出す。

フィンとジークはぐっと拳に力を入れた後、アリアンに一礼して走り出す。

俺とライカは・・・


ライ「アリアン、そんなことまで言わせてしまってすまない・・・」

アリ「早く、行ってください。これ以上この様な姿を見せたくはありませんから」

イザ「すまない・・・」


一目散に走り出す。

敵の集団は後ろを振り向けないので確認はできなかった。

アリアンが見られたくないと言うのであれば

せめて振り向かないでおくことが彼女への礼儀だろう・・・


少しでも怖いと思った自分が情けない。

今まで随分と世話になったではないか。

今の戦う姿が本来彼女が望む姿ではないと判っているではないか。

そうさせてしまったのは己の不甲斐なさではないか・・・

視界が滲む。だめだ、泣くな。彼女に失礼ではないか。

皆すでに川を渡り終えていた。

ザブザブと川を渡り切った所で振り向く。

どうなっただろうか、遠目にでも見えるはずだ。


だが何も見えなかった。

奴らが殺した人々の死体ですら。

目の前の対岸に転がっているはずなのに。

何故だ?


「何かの結界が張られているらしい。

 草原からはガルドの様子が普通にしか見えない。

 お前達の姿ですら川の中に入るまでは見えていなかった・・・」


ジークがそう教えてくれた。


「結界・・・」


ならばあの異様なスルーアやバンシーはどうなるんだろうか。

奴らはこちら側にはこれないのだろうか。


「心配いらない。()()もこちら側には出てないようだ」


そう答えてくれたのは・・・鰐の獣人だった。

誰だろう・・・


「俺はダイル。数日前にガルドへ向かおうとして異変に気づいた」

「ダイル?・・・ダイルなの?!」


ボブが叫んでいる。知り合いか?・・・

どうやら以前知り合った冒険者の様だった。


「ならば、草原は安全と考えてもよいのだろうか」

「今のところは・・・としか言えないな」


今夜だけでもゆっくりと休めるのであればありがたい。


「川からは離れた場所で休憩するか・・・」


皆心身共に疲れ切っていた。

ダイルがこっちだと案内してくれた。


そこには数人の冒険者が集まっていた。

皆俺達と同じ様に逃げ出してきたようだった。

よく無事だったと、集落の人々をよく守ってくれたと。

今夜の見張りは自分達が引き受けるからゆっくりと休んでくれとまで言ってくれる。

ガルドから逃げ出した魔物や魔獣達でさえも木の実や肉など持って来てくれている。

そうだ、本来この世界はこういった穏やかな関係だったはずなのに・・・

何故こんな事に・・・


情報交換など話がしたかったが、疲れ切っていた俺はすぐに眠りに落ちてしまった。



*** *** ジーク目線 *** ***



川を渡った事で皆安心したのだろう。

食事時の後、すぐに眠りに落ちたようだった。

俺は眠れずにその場からカルド方へ視線を向けていた。

グレンが

デュラハンが

アリアンが

あの3人がいつものように手を振りながら何事も無かったかの様に現れはしないかと

ある訳が無いと心のどこかで思いつつも、期待してしまう。


「ジーク・・・」


そう言って薬草茶の入ったカップを手渡して来たのはフィンだった。


「眠れないのか?」

「アリアンの・・・悲しそうな顔が浮かんでしまって・・・」


そう言うフィンの表情も曇っていた。


あの時、間に合わないと思ったシカの前に突如アリアンが現れた。

音も無くスッとシカに襲い掛かった者を体に取り込み

じわりと溶かすあの様はまさに魔・物・で、シカでなくとも声が漏れたかもしれない。


体が靄で出来た触手の様に広がり、次々と()()を捕らえていく。

一緒に旅をしてきた仲間だったはずなのに次は自分かもしれないと言う恐怖があった。

襲われたはずのあの集団にさえ厄介だとは思ったがそこまでの恐怖は抱かなかったのにだ。

ただ、同族 人 と言うだけで・・・

攻撃を防ぎ応戦する事は出来ても、攻撃をする事がためらわれたと言うのに。

あのままアリアンが襲ってきたならば・・・

俺は躊躇する事が出来ただろうか。

何も思わず攻撃出来てしまったのではないだろうか。


『 同族である 人 を殺せますか?

  躊躇なく。体が強張る事無く。

  そしてその後罪の意識にさいなまれずにいる事が出来ますか?』


すべて見透かされていたのか。

こうなると予測していたのか?

だから三人で行ったのか?グレン。

シカやボブはともかく、イザやカズラは判っていたのか?

いや、判っていなかったのだろうな。

判ってなかったからあの反応だったのだろう。


『すべてを飲み込んでもよいのですよ?』


動けないで居た俺達に放たれた言葉・・・

それは俺達に恐怖を与える言葉になる。

特に集落の人々には体に刻まれる恐怖となっただろう。

どんな思いでそれを口にした・・・

アリアン、そこまでして守られる価値が俺達にあるのだろうか。

そうまでして守ってくれたお前を俺達は怖いと思ってしまったのだ。


「ジーク・・・

 そんな顔をしないで。

 彼女ならきっとこういうはずよ。

 そんな事を考える暇があるのでしたら前を向いて進んだらいかがです?

 オアシスを目指す様にお伝えしたはずですが。ってね」


フィンの言葉に目を見張る。

そうだ、ここが最終地ではない。

オアシスに向かわなければならない。

そしてオアシスで集落の人々の生活を安定させなければ・・・

ここで嘆いて立ち止まったりすれば、心配をかけるだけではないか。

彼女達が何をしているのか、何と闘っているのかは判らない。

だが、頼んだよ と言われたではないか。

後程お会いしましょう そう言われたでは無いか。

きっと三人は戻って来る。

ならば俺達は

俺達がするべきことは・・・


「オアシスで待ちましょう。

 戻ってきたら笑顔で迎えてあげなきゃ・・・」


ああ、そうだな。そうだった。

何かが吹っ切れた気がした。


「2~3日ここで休みながら体調を整えよう。それから出発だな」

「ええ、私達がしっかりしなきゃ。

 あの子達成人したと言っても私達からすればまだまだ子供よ?」

「そうだぞ、大人の我々がここでへこんでどうする。

 そして俺も居る事を忘れないでくれよ?」


フフッとフィンとライカが笑う。

いつのまにライカまで居たのやら・・・


「そうだな。()()()()が守ってやろう」


まずは寝るかと、それぞれが床に就いた。

読んで下さりありがとうございます。

誤字報告やアクション、ブックマークもありがとうございます。

誤字誤変換に脱字、お恥ずかしい限りですが非常に感謝しております。

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