82:ガルド大陸 川越え② ~ボブ・カズラ・アリアン~
*** *** ボブ目線 *** ***
「姐さん大丈夫かなぁ」
そんなシカのつぶやきが聞こえた。
それは僕も思っている事だよ。
でも今はそれを考えるべきじゃない。
そのくらい、いくら僕でも判ってるよ。
姐さんがガルドを離れてオアシスに行けって言うのにはきっと理由がある。
先に行けって言うのにも理由があるはずだよね?
バングルだってあるのに、わざわざアリアンに来させたのにもきっと理由があるんだよね?
アリアンの様子を見ても緊急性があるんだよね?
この気味の悪いスルーアやバンシーだって何か関係があるのかもしれない。
なんで昼間も動けているのかとか、なんで意思を持っているのかとか
考えたって判らない・・・
だったら僕は・・・
僕達は急いでオアシスへ向かうよ。
戦いながら進むのは結構きついけど・・・
もうすぐあの先に川があって川を超えれば草原に入るはずだ。
あれ?川の手前に人影がみえる。
1 2 3・・・・16?多いななんだろう。
他の集落の人達が逃げて来たのかな?
声を掛けようとしたらジークに止められた。
「様子がおかしい・・・」
え?・・・
よく見れば何であの人達は武器を手にしているんだろう?
それにあの人達の足元に転がっているのはなんだろう?
魔獣? 魔物?
・・・
違う、あれ人間だ。
あの人達が・・・殺したの?
まさか・・・
そんな・・・
嘘だよね。
だってこの世界は平和なんだよね?
人が人を殺すとかありえないんだよね?・・・
「ボブしっかりしろ!」
僕は一瞬茫然としてしまった。
ジーク、ジークは平気なの?・・・
そんな訳無いか。
ジークも今まで戦ってきたのは浸食シリーズやスルーアだもんね。
手が震えている・・・
そうだよね。
人となんて戦った事ある訳ないよね。
見渡せば皆体が強張っている。
向こうがこっちの様子に気が付いたみたいだ。
来る・・・そう思った。
ブンッ カツンッ
ぶつかり合う金属の音 弾ける魔法の音
向こうは殺す事を何とも思っていないのか、迷いが無いんだよ。
むしろ楽しんでいるようにも見えて最悪だ・・・
皆は、僕もだけど防ぐだけになっている。
相手が浸食シリーズじゃない。
人だから・・・
その事で躊躇してしまう。
殺してしまう、そう思って攻撃が出来ないでいるんだ・・・
手加減しても相手はひるむ事も無い。
気を失わせようとしても、まったく効果は無くて何度でも襲い掛かって来る。
無意識で全力を出せていないんだと思う。
覚悟を決めて切り付けるしかないかなと思っても体はそれを拒絶するんだ。
どうしよう・・・
このままじゃ守り切れないよ。
どうしたらいいんだろう。
思い浮かんだのは姐さんの困り顔だった。
*** *** カズラ目線 *** ***
キリがねぇな。
チビ・アン・コング それぞれが奮闘してくれてはいるが
相手はまるでアンデッドのように何度でも襲い掛かって来る。
俺はと言えば、槍を手にした物の相手が人間なので困って居る。
刃ではなく柄で攻撃をくらわせているが、そんなものでひるむような相手ではない。
どうしても自分の中の何かが【人を斬る】【人を殺す】という事に抵抗を示している。
俺達だけなら攻撃をかわしながら川まで突っ走って草原に逃げ込む事も出来たかもしれない。
が、集落の人々を、家族を守りながらでは無理だった。
当然ながら前世でも今世でも人を斬った事など、ましてや殺したことなどない。
平和的なこの世界でもそんな必要はなかった。
妹に言い寄って来た阿呆のような奴はたまにいても
威圧を放つかちょっと脅かすだけで十分だった。
それが何故今、こんな事態になっているのだろう。
あの神達はいったい何をやっているんだと現実逃避したくなる。
相手の人数が多すぎる、このままでは犠牲者が出てしまう・・・
アリアンは・・・
姐さんはこうなる事も予測していて移動を急がせたのだろうか。
そんな事を考えた時視界の端にシカの姿が見えた。
マズイ! 放心状態のシカに相手の手が伸びる!
「シカ!!!」
*** *** アリアン目線 *** ***
皆様をダンジョンから送り出し、戻って来た時グレン様はいつものお姿とは違って見えました。
ですが私にはそれが グレン様らしい と見えてしまいました。
悪意を纏った者達をグレン様は傀儡と呼び、それを薙ぎ払う姿は他者にすれば狂気と呼ぶかもしれませんね。
戦闘が落ち着くと『ベトベトする』とおっしゃったので、近くの家でお風呂を拝借する提案をさせていただきました。
どうせどなたもいらっしゃいませんし。
身綺麗にした後休憩を取っている時でした。
「異質なスルーア共から人の生気のような気配を微かに感じたのだが・・・」
「デューンも?儂もなんだよね。逆にあの人間たちからは生気が感じられなかった」
確かにお二人が仰る通りでございました。
例え何かの術で操られていたとしても人には必ず生気の気配があるのですが
あれらにはありませんでした。
かと言って心臓は脈打っていたので死んでいる訳でもありません。
今まで見た事も無いアレは何なのでございましょうか。
「もしかするとこれは・・・」
「なにかお心当たりでも?」
「うーん、映画とか漫画とか、まぁ絵物語のような物の場合だとさ。
あの生気を帯びたスルーアやバンシーは
人間を元に作られたってのがよくあるパターンなんだよね。
まあ魂を、とかって言い方もしたりするけど。
どういった経緯でかは解らないけど、魂と肉体が分離した。
もしくは分離させられたんじゃないかなと。
そして深淵なる闇に浸食された魂が異質なスルーアやバンシーになり
浸食された肉体が悪意を纏った人間
傀儡の様なものになったんじゃないのかなと。
そしてそれらには大元となった原因
招かざる客がラスボスとして何処かにいそうなんだよね。
面倒だけどそれを倒さない限り
異質なスルーアも悪意を纏った人間も湧き続けるんじゃないかな。
素材となる人間・・・いや、生き物全てが対象になるのか?
うえぇ、クソ面倒臭い・・・」
「なんと言うか・・・原理は理解したが・・・」
「ねー・・・
話が変にデカくなりすぎてない?
いやホントに、どこのアニメかゲームかよってくらいに・・・」
「これからいかがなさいますか?」
「皆に害がないなら放置するんだけど」
「あるであろうな・・・」
「あるでしょうね・・・」
「やっぱりそう思うよね・・・」
何故この様な事になってしまったのでしょう。
ただ皆さまと楽しく旅をして過ごすはずでしたのに。
ここにはカズラ様の妹様の結婚を祝うために来たはずでしたのに。
「あ、アリアン。悪いけどもう一度頼まれてくれる?」
ごめんと言って頼まれたのは
皆様を川の向こうへ、草原に早く行くようにせかして欲しいとの事でした。
私は了解の意を伝え皆様の元へと急ぐ事にしました。
闇の住人特有のスキルで影を渡り皆様の元へ辿り着いた時、私は背筋が凍る思いでした。
あの人間共の切っ先が今まさにシカ様の胸を貫こうとする瞬間だったのです。
私は形振なりふり構っておられずレイス本来の姿を現してしまい・・・
結果皆様は怯えてしまわれました。
それでもよいのです。
シカ様も皆様無事でございましたし
これで気持ちを切り替えるきっかけになって下さればよいのですが・・・
あぁ、無事に川を渡り終わったようでございますね。
安心してグレン様にご報告できます、よかった。
願わくばその先の旅が、皆様に楽しい物でありますように。
読んで下さりありがとうございます。




