73:氷の大陸(北) 我を忘れる② ~イザ・グレン・シカ~
*** *** イザ目線 *** ***
「おはよう。ライカ。起きているかしら」
「ああ、おはよう。フィン」
「皆で相談したのだけど」
「何かいい案はあったか?」
「目印にバルーンを上げる事になったの」
「バルーン?なんだそれは」
「空に浮かんで光るゲイザー・・・よ」
「光るゲイザー・・・・?」
「少し高い場所から空を見て見て」
「判った、探してまた連絡する」
「イザ。小高い丘を探そう。目印としてゲイザーが光って飛んでいるそうだ」
「ゲイザーが光ってて、光るのか?・・」
「バルーンとか言っていたが・・・」
「バルーンは風船だよ。まあまずは小高い丘を探すか」
ライカは頭をかしげていた。そうか風船もこの世界にはなかった。
目が覚めた時には狐達はおらず、代わりに昨夜とは違う狼が朝飯にと肉を持って来てくれた。
腹が減っていたのでありがたく頂く。
その後はまた入れ替わりで違う狼が来てくれていた。
小高い丘は・・・何のことは無い。すぐ近くにあった。
そう、この洞穴の上だった。
丘に登り周囲を見回せば・・・西に小さく黒い物が浮かんでいた。
あれか?
ライカがバングルで確認を取っている。
あれだったようだ。
『あの空に浮かぶ黒いのを目指すのか?』
狼が聞いて来たのでそうだと答える。
『ならば案内しよう。お前達だけでは不慣れで心配だ。
氷の裂け目や薄い場所もあるからな』
なるほど、昨日は狼や狐と一緒だったから気付かなかった。
きっと皆が避けて走ってくれていたのだろ。
裂け目にハマって出られないとかは避けたいので素直にお願いする事にした。
狼達は方向をシッカリ確認すると駆け出した。
俺達も後に続く。
ああ、やはり風を切って走るのは心地が良い。
このままずっと走りたい気分だ・・・
このままどこまでも風と一体になって・・・
ハッ、いやいや駄目だ。
ギロッと睨むグレンの顔が浮かんだ。
危うく昨日の二の舞になりそうだった。
チラリとライカを見れば、気まずそうに笑っていた。
きっと同じことを思ったに違いない。野生の本能だろうか?
お互いに ふふっ と笑った。
走りながら注視していると 氷が薄い場所や裂け目がなんとなく判る。
これは・・・先導して貰って正解だったな。
俺達だけで走っていたら間違いなくハマっただろう。
白一色の世界だから、余計に判りにくかったのだ。
そして・・・
最初は黒い点に見えた物の形が徐々に判って来る。
ゲイザーが空に浮かんでいて紐が括り付けられている。
ゲイザー型のバルーン?
いや、この世界にバルーンは無い。
ならばやはりゲイザー本人だろう。
が何故に紐?・・・
さらに近くなれば 煌々と光っているのも判った。
なるほど、光っているから解り易かったのか。
ああ、皆の姿も見えて来た。
皆安堵したような呆れているような笑顔だ。
グレンもにこやかに微笑んではいるが、あの手に持った紐はなんだろう?
嫌な予感しかしないんだが・・・
くいくいっと手招きされる。
「二人も散歩の時はリードを付けておくか? んん?」
・・・
「ごめん・・・」
「申し訳なく・・・」
以後重々気を付けるようにと・・・
ごもっともで、はい。
グレンたちはやっと落ち着いて朝食を摂るという。
先に食べただなんて言えない・・・
走った直後だから後で食べると誤魔化した。
その後も野営地に入れ代わり立ち代わりで数匹のモフモフ達が絶え間なく遊びに来ている。
ここから少し内陸に入った所に遺跡があるのだと熊が教えてくれた。
薄くなった氷の下にはちゃんと大地もあるのだと言う。
しばらく滞在するのなら、そこを拠点にしてはどうかと提案してくれたのだ。
「氷が薄いならイグルーは無理かな」
グレンは少し残念そうだったが、薄いと言っても1Ⅿはあると聞かされて目が輝いていた。
ならば、と移動し拠点を作ることになった。
遺跡の散策もしてみたいと皆ワクワクしている。
この世界にも遺跡があるんだなと内心驚いた。
グレンはネイチャーや遺跡など好きでドキュメンタリーもよく見ていた。
キラキラした目で あの遺跡はここがこうで~など聞かされていたので
自然と俺も興味を持つようになった。
映画のようなハラハラドキドキの冒険にはならないだろうが
きっと遺跡散策は楽しい物になるだろう。
*** *** グレン目線 *** ***
おおおぉぉぉ
皆声を上げた。
熊に教えて貰った場所から見える遺跡は氷柱に覆われた城のようにも見える。
ああ、スマホがあったら写真を撮りたい。そう思った。
が、まずは拠点造りだ。
居住区部分は皆に任せる。
スライム人形の簡易シリーズと全体を覆う天幕で作るから比較的簡単だろう。
儂はと言うと
ふふふ、念願のイグルー作りである!
初心者なので2人くらい入れる小型を作るつもりだ。
大きな物になるとバランスや強度の問題が難しい。
ロープを利用してコンパスの原理で円を描く。
縁の内側をブロックみたいに切り出していく。
切り出した氷は熊達が鼻先で器用に移動させてくれていた。
ある程度の氷が集まれば、円に沿って積み上げていく。
これも熊達が口に咥えて手伝ってくれた。
正直腰が不安だったので助かる。
土台が完成したら水を掛けて外壁材代わりにし隙間を埋めて強度をあげる。
その後は氷の厚さを調整しながら少しづつずらして、半円のドーム状にしていく。
天井付近にブロック1個分の隙間を作り、換気口にするのも忘れずに。
出入り口は小さめにし、暖簾代わりに毛皮を吊るす。
外側全体に再度水を撒いて隙間を埋め、内側は軽く削って滑らかに。
底面に防水&防寒の毛皮を敷けば完成だ!
うん、満足!!
作り方を覚えていた自分を褒めてやりたい。
よし、温かいお茶を淹れて来よう。
そして飲みながら堪能しよう。
そう思ってカップ片手に戻ってくれば・・・
入れない・・・
チーン!
イグルーの入り口から真っ白な丸い尻がプリッと突き出ている。
その先についた小さな尻尾が嬉しそうにピコピコしているじゃあないか・・・
やられた・・・先に入られた。
まあ・・・ね?
手伝ってくれたし、嬉しそうだし・・・
出てくれる?と言える雰囲気でも無く・・・
その内飽きるだろうと諦めた。
苦笑するしかない儂の肩をカズラとイザが憐れむような眼でポンと叩いた。
ハハハ・・・
漫画みたいなオチだった・・・(トオイメ)
*** *** シカ目線 *** ***
姐さんがショゲている。
正直言えば私も完成したら入ってみたかったよ?
でも熊さんに先を越されちゃった。
仕方ないなあ。
ここは姐さんを元気づける為に、美味しいご飯を作りますかあ!
何がいいかなあと考えるけど、材料は限られてるのよね。
そうだ!ボブが持ってきたコナの実のパンもどきがある!
肉はたっぷりあるし。トマトっぽい物もある。
ハンバーガーにしよう!!
「ボブー!手伝ってー!」
「はーいっ!」
ミンチを作るのは体力仕事だからね!ボブに任せよう。
付け合わせは簡単にフルーツサラダでいいよね?
「シカちゃん手伝うわよ?」
フィン姉さんとアリアンが来てくれた。
二人が手伝ってくれるなら、スープも作っちゃおうかな。
姐さん喜んでくれるかなあ。
そう思いながら出来上がった肉のパテを焼いて行けば
匂いにつられて皆が集まって来る。
旨そうだと伸びたデュラハンの手を姐さんがペシッと叩いていた。
その隙にジーク兄さんが1つ口に運んだ。
「あつっ!」
そりゃ焼き立てですし?
なにやってるのよとフィン姉さんに怒られていた。クスッ
皆美味しいと大満足してくれたんだけど・・・
ジーク兄さんとデュラハンは3つ。
ボブとライカは5つも食べてた・・・
皆食べ過ぎじゃないかなぁ、男の人だとこんなものなのかなぁ。
多めに作っておいてよかったよ。
お腹もいっぱいになったし、明日は遺跡の散策かな?と思いながら寝る事にした。
熊さんはまだイグルー独占中みたい・・・
居心地いいみたいだなぁ。
私もその内、あそこで・・・
と思いつつ スヤァ・・・
読んで下さりありがとうございます。




