66:ヴァル大陸 小さな漁村ピリカを目指して② ~ボブ・シカ・グレン~
*** *** ボブ目線 *** ***
「ただいま!ボブーーーー!!」
シカの声だ!
振り向けばコングの小脇にシッカリとシカが抱えられていた。
ブッ・・・人形みたい・・・
笑っちゃ駄目だ・・・
駄目なんだけど・・・ ぶふっ
「シカーー!おかえりっ!」
コングからシカを受け取った。
よかった怪我とかもして無いみたいだ。
コングは皆によくやったと褒められてご機嫌のようだ。
ジーク「それで、シカ。ロック鳥か?」
シカ「うん。トイレに行っただけなのに、迷子だと思われたみたいでね。
危ないから陽が昇るまで家に来てなさいって・・・」
ゴツンと姐さんの拳がシカの頭に落ちた。
痛そうだなぁ・・・
グレン「あのな、単独行動はするなと言ってあるだろうがよ!」
シカ「いやだって・・・。すぐそこだし。トイレだし。
大丈夫かなぁって・・・・ね?」
グレン「大丈夫だったか?ぁあ"ん?」
ああ、駄目だよシカ。今の姐さんに だって は禁句だよ・・・
シカ「だって、ロック鳥に攫われるとか思わなかったし・・・」
カズラ「だってじゃねぇよ。これがロック鳥だったからよかったけどなぁ」
フィン「また変な趣味の変な男とかだったらどうするのよ・・・」
シカ「ハィ。スンマソン・・・」
ジーク「次からは必ず誰かに声掛けろよ?」
ジークがシカの頭をポンポンと撫でる。
「ねえ、シカ。心配だからずっと僕が抱っこしてようか?」
ぶっ と皆が吹いた。 え?駄目かな?・・・
「ボ・・・ボブ。それはちょっと恥ずかしいかな」
嬉しいけど、とシカは小さく呟いた。
そっかあ、恥ずかしいのかあ。シカは照れ屋さんだなぁ。
だけど僕はシカがご飯を食べ終わるまでずっと膝に乗せて抱きしめていたよ。
目を離してまたどっかに行っても困るしね?
「そ、そんなことないよぅ。大丈夫だよぉ?」
そんな事あるよね?
僕ちゃんと学習したんだからね!
シカの 大丈夫だよ あてにならないんだって!
よし、ちょっと遅くなっちゃったけど、出発だね!
山を越えればシカの育った集落がある。楽しみだなあ。
*** *** シカ目線 *** ***
その後は何事も無く・・・
な訳はないよねぇ、そうよねぇ、私だもんねぇ。アハハ・・・
私は今穴にハマっている。
しかもどういう落ち方をしたのか、見事なまでにお尻だけ地面から出ているみたい。
そう、ぷりんとお尻だけ。
いやぁぁぁぁぁ、恥ずかしい。
おかしいな、なんでこうなったかなぁ。
「シカ!大丈夫?息してる?!」
あのねボブ、息して無かったら駄目だから。
それ死んでるって事だし返事も出来ないと思うのよね?
「ボーブー。たーすーけーてー」
「よかった!生きてる!」
うん、さすがにね?
この格好で死にたくはないかなぁ(トオイメ)
「引っ張ってみるね!」
むんずっ。
うひゃっ。
待ってボブ。お尻掴むの?
いやいやいやいや、待って待って。
恥ずかしいし、くすぐったいし、痛いし!
グレ「ボブ、引くより押せ!」
ぐりぐりぐりっ
痛い痛い痛い、姐さん痛いよっ!
足でやらないで!せめて手で押して!
ズラ「引いても駄目、押しても駄目。
どうなってるんですかね」
イザ「見事にスッポリハマってるんだろうな」
ジー「ならば周囲を掘るか?」
フィ「そうね、掘ってみましょう」
と言う事で周囲を掘る事になったらしいのだけど。
ざっくざっくざっく
コーンッ
何コーンッて。何の音?
グレ「なんか金属音しなかったか?」
イザ「したな」
ズラ「地中で金属音?」
ゴゴゴゴッ
グラリと私が揺れた。
違う、地面が揺れた。
『 我の眠りを妨げるのは何者ぞ 』
え?
どちらさま?
眠りを妨げたつもりはないんですけども?
穴にハマっただけなんですけども?
なんとか体勢だけでも変えられない物かとジタバタしてみる。
もぞもぞもぞ、むずむずっ
むずむず?・・・
なんか嫌な予感が。
『 ぶえっくしょーんっ 』
ぽんっ
「「「「 ・・・ 」」」」
あ、穴から出れた。
「シカー!よかったよぉ」
どうやら私は休眠中のアースドラゴンの鼻の穴に落ちかけてハマっていたらしい。
なんで地中から鼻の穴だけ出てるのよ・・・
え? 呼吸をするからに決まってる? まぁそう言われればそうよね。
だったら地中で寝なければいいのに。
え? アースドラゴンは地中で寝るのが当たり前? なるほど?
『 穴に注意!と立て看板も設置しておったが?
ましてこの山が我の住処だとこの大陸の住人なら知っておるはずだが?
そもそも、穴から生暖かい風が出ておったら普通は避けるであろう! 』
いや、なにかなぁと思いまして・・・
私が覗き込んだタイミングとアースドラゴンが息を吸い込むタイミングが重なってすぽっとなったみたい・・・
グレ「シカさんや?・・・」ピキッ
シカ「はぃはぃ・・・」
グレ「不用心になんでもかんでも覗き込むんじゃない!
そもそもボブと手繋いでたんじゃないのか!あぁん?
なんで手放してフラフラしてんだ!」
ボブ「姐さんごめん、シカの手が小さすぎて握り潰しそうで
ちょっと力緩めてたんだ・・・」
グレ「少しくらい潰れても構わん!しっかり握ってろ!」
シカ「潰れても構わんって、えぇぇ・・・」
その後は皆でひたすらアースドラゴンに謝った。
『 今後は重々気を付けるように。
周囲や足元はシッカリと!注意深く!確認して歩くように 』
そう言ってアースドラゴンは地中へと戻って行った。
スンマソン、ほんとスンマソン。
そして私はボブに抱っこされて進む事になった。
*** *** グレン目線 *** ***
実はシカさんがハマった時、皆して一瞬思考が停止した。
地面からプリンと突き出ている尻。
それだけなら良かった。
が、スカートが捲れてパンツが丸見えだった。
普通のパンツならまだしも、かぼちゃパンツな上にイチゴとボブのアップリケ付き。
作ったのか、器用だな。
いやそうではなくて・・・
シカ・・・
幾ら好きでもボブのアップリケを尻に着けるのはどうかと思うんだが?
フィ「なんだか見てはいけない物を・・・」ボソッ
ズラ「正直私達じゃなくてよかったです」コソッ
イザ「ちょっとパンツはな・・・」ヒソッ
ボブ「わぁ僕の顔がシカのお尻に!」
いやなんか言い方が、その言い方は駄目だろう。
まぁね? シカ本人もまさかこんな形で披露するハメになるとは思って居なかっただろうが。
あの件以降は特に大きな問題も無く。
時々シカさんがアラクネの巣に引っかかったり
時々シカさんが巨大ウツボカズラの蔦に絡まったり
たまにライカとイザが魔獣に求婚されていたり
カズラとアリアンがちょっといい雰囲気ぽくなっていたり。
概ね順調に進んでいた。
山脈を超え、森を抜ければシカが育った集落が見えてくる。
小さな漁村だと聞いていたから海沿いなのかと思っていたけど、湖畔だった。
シカ「姐さんほら!あれが私の育った村だよ」
シカさんは走り出してしまった。
シカさんの姿に気が付いた村人が手を振っている。
なるほど、ドワーフなどのミニマムが多いがチラホラ他種族も居る。
お陰で私とボブ以外は注目を浴びずに済んでいた。
まぁダークエルフは珍しいし、オーガはデカいしね。
ボブは最初こそ遠巻きに見られていたがあの人柄だ、すぐに子供達に囲まれていた。
アリアンは来た事があると言っていただけあって「お久しぶりです」と声を掛ける人もいた。
ライカとイザは毛並みが心地よいと女性陣や子供達に捕まっている(笑)
シカさん、フィンさん、ジークさんは集落の人に囲まれて元気だったか、怪我はしてないか、飯はちゃんと食っているのかと大歓迎されていた。
夜、村人総出かってくらいの人数で歓迎会が開かれた。
デューンや儂を奇異な目で見る人も無く、なるほど良い環境でシカさんは育ったのだなとも思った。
シカさんは村人にもみくちゃにされながら、これまでの事を話していた。
村長さんは「お前らしいが気を付けるように」とシカの頭を撫でている。
と言う事はこの村でもなにかしらやらかしていたのだろう。
やれやれ・・・
その夜遅くまで宴会は続いた。
読んで下さりありがとうございます。




