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6:フライングで闇の領域へ⑥

作品名の変更をいたしました。

*** *** 引き続きデュラハン目線 *** ***


ゲイザーの同胞たちに使いを頼み、我と同じくして原初より存在する者達へ協力を仰いだ。


【どうやら神のやらかしにより天上より振って来た異世界人有り。

 天井(→天上)に戻す方法が無いか過去の記録を遡っては貰えないだろうか】


幸いな事に全員から快諾の返事を受け取る事が出来た。

普段接点は多くは無いが、こういう時に協力し合えるのは

やはり同じように長き時を生きているからだろうか。


我も古い記録を遡るとしよう。



遥か昔 まだこの世界が平和だった頃 深淵なる闇は存在しなかった。

まだ若過ぎる悪戯な神がこの世界の管理者たる神の目を盗み異世界から一人の少女を投げ込んだ。

人々は突然現れた少女を温かく迎え入れ、少女がこの世界に馴染めるように世話をした。

少女は不安げに眼を揺らしていたが人々に支えられ徐々に世界に馴染んで行った。

馴染み始めた少女は次第に遠慮が無くなり、愛らしい笑顔を振りまきながら小さなお願い事をするようになった。

その小さなお願いは少しずつ少しずつ大きなお願いへと変化をしていく。

余りに幼い少女だったが故に人々は我慢するという事を教えなかった。

そして少女のお願いはお願いではなくなり、欲へと変貌する。

やがてその欲はこの世界の住人にも広がり始め、さらなる欲へと変貌していく。


傲慢(虚栄)、嫉妬、憤怒、怠惰、強欲、暴食、色欲(淫蕩)


変貌を遂げた欲は様々な負の感情をも生み出した。

その欲と負の感情は死して肉体を離れてもこの世界に留まり深淵なる闇を生み出し形成していく事となった。

その中に巣食うのがスルーアやバンシーである。

欲や負の感情のみが残ってしまった者達のなれの果てとでも言えばいいだろうか。

それ故深淵の闇の中でしか存在出来ぬ哀れで異質な存在。

それらの欲や深淵なる闇の存在を作り出したのが異世界の住人であるならば

グレンが異世界の住人だったとしても納得するしかないではないか。

異世界は実在するのだと。単なる伝承ではないのだと。


むしろグレンは神の意図も何も無く、神の不注意的な失態のせいで今ここにいるのだからとんだ災難ではないか。


古い記録を読み直し解かったのは深淵なる闇の成り立ちに、悪戯な神と異世界の少女が関わっていた事だけであった。

その異世界の少女がどうなったのかの記録がなかった。

まだ手元に遡っていない記録書もあれば他の者達の手元にある記録書になにか手掛かりがあるやもしれぬ。

希望を失ってはならない。


記録書を閉じて窓の外に目をやればグレンが楽しそうに庭いじりをしている。

我に気付くと弾けんばかりの笑顔で手を振って来る。

微笑んで手を振り返せば嬉しそうにまた笑っている。


仕事の合間に一緒に茶を飲んだり、グレンが作ったと言う異世界の菓子を食したり。

時には天上に残っているであろう仲間の話を聞かせてもらったりと穏やかな時間が流れて行った。

勿論手掛かりを探す事も怠ってはいない。


ここ最近にいたってはグリムリーパーの爺さんまでやって来るようになった。

リーパーの爺さんも原初よりの存在だ。

時折言葉を交わす事はあったが、グレンが居なければこのように共に茶を飲む事もなかったであろうな。


恐らくこの穏やかな心地良い時間はそう長くは続くまい。

いや続かせてはならぬのだ。

手放せなくなる前に、手放したくないと欲が膨らむ前に終わらせねばならぬ。


それは我以外の者も同じだったのだろう。

誰もがグレンと言葉を交わしあの笑顔を見ていると

この薄暗い灰色の闇の領域がほんのりと色付いたような、そんな錯覚をしてしまうのだ。

初めて抱く様々な感情、それをどう言葉にすればよいのか誰も解らずにいる。

ただ戸惑う自分に驚きつつも、グレンを見つめるその表情は皆柔らかい。


そんなある日、ちょっとした事件が起きた。


「ヒィッ!」 バシッ! ぺチョ・・・


グレンが短い悲鳴を上げサンダル片手にオロオロとしている。


「ご・・・ごめん。ちびゲイザーくんゴメンねっ」


涙を浮かべながら小さきゲイザーに平謝りである。

何事だろうかと問うてみれば

Gなる虫と小さきゲイザーを見間違えてサンダルで思い切り叩き落としたのだと・・・

Gと言うのはどの様な虫なのだと気にはなったが聞かぬ方がよいようだ。

聞いてくれるなと目で訴えていた。


小さきゲイザーは見事な平面体に変形していた。

変形したとは言っても元々が(かすみ)のような物なのですぐに形は戻るであろう。


暫くの間、慌てるグレンの様子が愛らしくて思い出し笑をしていたらペシッと頭を叩かれた。

グレンの眉間に皺が寄っている。

ふむ、たまにならば軽くペシッとされるのも悪くないやもしれぬな。

などとほのぼのお茶を飲んでおればハルピュイアが慌ただしく飛んできた。

騒々しい、何事であろうか。



「見つけたわよ!前例があったの!記録があったのよ!」


手に記録書を抱えたまま意気揚々と近づいて来る。

なんと!前例があったのか!よかった! 


「記録によると前例者は・・・

 勇者と名乗る者で異世界より神によって連れ来られ

 神が何か話しかけようとしたその瞬間つんのめってこけて突き飛ばされし?

 気が付けば我等ハルピュイアの巣に舞い降りし事なり・・・


 はぁぁぁ?! 有り得ないでしょうぅぅ!!」


ハルピュイアの咆哮が響き渡った。


頭痛がする頭を押え目を伏せて大きなため息をつく。

深呼吸を数回繰り返し目を開いてみればサンダル片手にワナワナと震えるグレンの姿が見えた。

んむ、その気持ち察するに余りある。

戻ったらそのままサンダルで殴ってもよいのではなかろうか?

目の前にそのマヌk・・・コホンッ

神が居たら我も殴っておったやもしれぬしな。


「してその勇者はどの様にして天上の神の元へと戻ったのだ?」


まさか戻れなかったなどと無いであろうな。


「待っておっても神は迎えに来るか判らぬし

 勇者は酷く落ち込んでおるしで気の毒な事この上なき。

 我等が長が代表として神の元へ向かうべく 上へ上へと飛び続けた。

 長の姿が見えなくなってしばらくの事

 動かなくなった長を抱えて神がやって来て勇者を連れて戻っていった。

 と書いてあるね』


ふむ・・・

となれば、神が住まう場所、否。

グレンの友が待つ天上まで上へ上へと天高く飛び続ければよいのだな?

ならば我が・・・

我では飛べぬではないか!

どうするべきか、今回もまたハルピュイアに飛んでもらうか?

否、記録にもあったではないか。動かなくなった長を抱えてと・・・

すなわちそれは無に帰る、存在が消えると言う事だ。

消えてくれなど 同胞にも近い原初よりの存在達に言える訳がなかろう。

だがどうすればよいのだ・・・飛べぬ己が恨めしい。


読んで下さりありがとうございます。

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