50:ヴァル大陸の旅④ ~シカ~
*** *** ジーク目線 *** ***
「んぁぁぁぁ?! またシカが居なくなっただと?」
今日の野営地を決めてテントの設営をしているとフィンからシカが居ないと聞かされた。
今度は何をやらかした・・・
落ち着け俺。
最近シカのせいで口調もなんとなく変わって来た気がする。
俺はもっと落ち着いた雰囲気の大人の男だった気がするんだが・・・
フィンも自分の口調というか性格が変わった気がすると言っていた。
もっと落ち着いた淑やかな大人だったハズだと・・・
【おめぇはよぉ・・・】が口癖だったと言うカズラ氏。
話が合いそうな気がする。
それはさて置き・・・
何処へ消えたんだシカは・・・
まぁココは森の中だし 前回のような誘拐とかでは無いと思うが・・・
また食虫植物系の罠にでも引っかかったのか?
だがテントの周辺には無かったハズだ。
蜘蛛類の巣に引っかかったとしてもアラクネや地蜘蛛達なら気が付いてすぐに解放してくれるだろうし。
うーん・・・
頭を悩ませているとフィンの声がした。
「ジーク見て!あそこ!光ってるわ」
ん? お? あれは・・・ライトを打ち上げているのか!
なるほど、シカはあそこだな。
って、おいおい。崖の対岸じゃねぇかよ・・・
なんであんな所に居るんだシカは。
いや考えるのは後だ、まずは迎えにいこう。
どうやって?・・・
道があるとは思えないんだが・・・
「飛び降りるしかないわね」
「 ・・・ 」
フィンが肩をすくめる。
やはりそうなるか・・・
ならば戻って来るにも一苦労しそうだし、一旦テントを撤収して荷ごと移動する方がいいな。
やれやれ・・・
まだ見ぬ友達よ 君達はいつもこんな苦労をしていたのだろうか。
まぁこんな苦労も嫌ではないのだが・・・
とにかく放っておけないんだよな。
きっと君達も同じ思いなのだろう。
だから共に世界を渡って来たのだろうか。
と、勝手にまだ見ぬ友達に思いを馳せながらテントを撤収した。
「じゃぁ飛び降りるわよ?」
お・・・おう。
せーのっ
バッ ヒューーーーッ・・・・
ドボンッ
俺の股間もヒューッとなった。
思ったよりも水位は低かったがフィンが魔法でエアクッションを作ってくれたおかげで無事だった。
水面から顔が出る程度の水位だ、魔法が無ければ骨折でもしていたかもしれない。
まぁシカの背であれば怪我の心配もないだろう・・・
対岸に向けて泳ぐ、というか歩いた方が早いな。
ジャブジャブと渡り切る。
空を見上げてライトの位置を確認すれば。
500mくらい奥か。
フィンは変色させたライトを頭上に打ち上げていた。
シカは気付くだろうか・・・
うっすらと残った獣道らしき物を進んで行く。
ズザザザッ バキバキッ ドスンッ
頭上から何かが降って来た。
なんだ?
ん?
白い壁?・・・
「フィン姉さん!ジーク兄さん!」
シカ?
白い壁が動く・・・イエティか!
ぐはっ
振り返ったイエティの腕には屈託のない笑顔をしたシカが居た。
お前は・・・まったく。
フィンはこれがシカちゃんよね、と笑っている。
聞けば鈴生りの梨を取ろうとして落ち溺れかけた所をイエティに助けられたと・・・
梨?・・・
梨かよ・・・
「だって・・・美味しそうだなぁって・・・」
【だってじゃねぇよ!あれほど気ぃつけろって言っただろうがよ!】
皆が一斉に叫んだ気がした・・・(シロメ)
だってね・・・
崖があると思わなかったのよ。
落ちるなんて思ってもなかったし、梨がね? 梨が美味しそうだったのよ。
ゴンッと姐さんの拳が頭に落ちた気がする。
だってぇ・・・
【だってじゃない!】
スンマソン・・・
心の中で謝っておいた。
まったくお前は本当に目が離せんなとジーク兄さんが言った。
余り心配させないでねとフィン姉さんが言った。
危なかしい子供が居るなと見ていたら、やっぱり落ちて溺れたとイエティくんが言った。
イエティくん私子供じゃないんだけど?
成人してるんだけど?
え?そうは見えない?それはノームだからであって・・・
え?言動が幼い?
うぅっ
てか見られてたんだ・・・
あのワチャワチャ一人劇。
その夜はイエティくんも一緒に4人で焚火を囲んで眠った。
次の日から森を抜け出るまで、イエティくんは心配だからって付いて来てくれた。
テクテクテクッ
この森独特の香りって癒されていいよねぇ。
踏みしめた落ち葉のサクサクいう音もいいよねぇ。
あ、あそこに可愛い兎が!
トテテテテッ ひょいっポテッ
「 ・・・ 」
テクテクテクッ
時々聞こえる鳥の囀りもいいよねぇ。
あ、あんなところにヤマブドウが!
甘酸っぱくってジャムにすると美味しいんだよねぇ。
フラフラフラッ ひょいっポテッ
「 ・・・ 」
テクテクテクッ
あ、どんぐり! わぁいっぱいあるぅー!
タタタッ ひょいっポテッ
「 ・・・ 」
あ、あれはもしかしてマツタケ!!
ひょいっ
「ねぇ、イエティくん。
さっきからなんで私の邪魔するのよぉ」
ぺちっとデコピンをされた。
邪魔をしている訳ではない?
キョロキョロしながらアチコチに駆け出しそうになっているのを止めているだけだ?
ピクニックに来ている訳ではない?
また逸れたらどうするんだ?
・・・
仰る通りで・・・ スンマソン。
「お前はそのままイエティの肩に乗せて貰っとけ」
「その方が私達も安心よねぇ」
その後も私はイエティくんの肩ではしゃぎ続け何度も肩から落ちそうになるので
とうとう蔦で背中に縛り付けられた。
所謂あかちゃん仕様のおんぶだね!
あかちゃんじゃないのにぃ。
と思うけどイエティの背中は広くてお父さんを思い出した。
私はウトウトしていたらしくて、気が付けば森を抜けていた。
イエティくんとはここでお別れ。
「シカちゃんを助けてくれてありがとうね」
「色々と世話になったな、助かったよ」
「イエティくんありがとぉ。またね!」
イエティくんと別れて少し歩けば、そこはもぅ海だった!
ぅわぁぁ~、水平線が見えるよ!
真っ白で綺麗な砂浜だよ!
カモメも飛んでるよ!
え?カモメじゃない?
プティってゆう小型の翼竜?
翼竜?! いるんだ。
パシャッ
水しぶきがあがった方を見れば。
凄い!
人魚だ! マーマンだ! ハンギョ〇ンだ!
ファンタジーだ 夢の国だ 映画の世界だ!
おぉぉ?クラーケンも居る!
頭の中で某海賊映画の音楽が流れる。
おぉぉ うわぁ~ うひゃ~
キョロキョロしまくってた私の首根っこをジーク兄さんがムンズと掴んだ。
猫じゃないんだからさぁ。
「こうでもしておかんとシカはすぐ何処かに行きそうだからな」
うっ・・・否定できない。
「さぁ向こうで交渉してケルピーに対岸まで乗せてもらいましょう?」
ケルピーってなんだろう?
目を向けると・・・
水馬だ! 大きい!綺麗!触りたい!
そう思っていたらケルピーの方から近寄って来た。
フンフン ブフンッ ブシュッ
あの、ケルピーさんや?
鼻息と一緒に鼻水もかかってるんだけど・・・
「お嬢ちゃん気に入られたみたいだな」
ハハハと笑いながらマーマンのおじさんがやってくる。
聞けばこのケルピーの飼い主なんだって。
なるほど飼い馬なんだ、だから人懐こいんだね。
え?普通は飼い主以外にこんなに懐かない?
マジで? 凄く懐かれてるよ?
ベロンベロン舐められてブフンブフン鼻息と鼻水掛かってるよ?
パクッ ひょいっ
咥えられて背中に放り投げて乗せられた・・・
「そいつがお嬢ちゃんを運ぶってさ」
おじさんは面白そうにそう言った。
フィン姉さん達もそれぞれ相性のいいケルピーに乗せてもらえるみたい。
「私初めて馬に乗るかも。ケルピーさん宜しくねぇ」
元の世界でも乗馬は未経験。
理由? それ聞いちゃう?
身長のせぃだよ・・・
馬に子ども扱いされて乗れなかったんだよぉう、シクシクシク。
「ま、まぁ気にするなシカ。俺もケルピーは初めてだし」
「そ、そうね。気にしたらだめよシカちゃん」
もしかして声に出てた?・・・
ああぁぁ・・・恥ずかしい。
ケルピーくんもそんな憐れんだ目で見ないでっ!
コホンッ 気を取り直してしゅっぱーつ!
対岸までは2日掛かるらしい。
ケルピーの背中で寝るのかな?
いぁそれだと寝返り打ったら落ちるよね?
とか思っていたらそんな心配は無用だった。
海上コテージがちゃんとあった。 よかったよぉ。
部屋の中は大きな貝殻のベットやサンゴのテーブルがあって可愛かったし
スキュラのおばちゃんが作る料理は新鮮な海鮮がてんこ盛りで凄く美味しかった!
特にマリネ系が美味しくて絶賛してたら こっそりレシピを教えてくれた。
ありがとうおばちゃん!
読んで下さりありがとうございます。




