49:ヴァル大陸の旅③ ~シカ~
バンッ!
あー・・・やっぱり聞こえたわよねぇ・・・
冒険者2人が飛び出て来た。
1人は・・・トイレから離れられないのかしらね?
「お前等! その小娘を返しやがれ!」
いやいやいや、私達が返してもらってるのよ?
腰のメイスを手にして振りかざしてくるけど、そんな弱腰じゃジークの足元にも及ばないわよ?
だいたいそんな大声出したら 長も坊ちゃん?も起きてきて
ああ、起きてしまったじゃない・・・
「あ、貴様等僕の愛人をどうする気だ!!」
長は頭を抱えてしまってる。
「愛人って貴方ね・・・」
「この僕が愛人に迎えてやるんだ、その小娘だって光栄に思っているだろう!」
はぁ?そんな訳ないでしょう。
この僕って・・・自分がどれほどだと思ってるのかしら。
「僕ほどの麗人なんて居る訳がないだろう?その僕が愛人に迎えてやるんだ。
感謝してその小娘を置いていくがよい!」
どこからどう突っ込めばいいのかしら・・・
僕ほどの麗人ってどこにでもある平凡顔じゃないよ。
「ははぁん、わかったぞ。
貴様自分が年増で僕に声を掛けて貰えなかったからって
嫉妬しているんだな?」
下卑た笑いが響く。
ピキッ
年増ですって?誰がかしら・・・
「ジーク。シカちゃんと先に外に出ててくれるかしら?」ヒクヒクッ
「お・・・おう」ビクッ
ジークの声がちょっと震えてたのは気のせいよね。ね?ジーク。
ジークが外に出たのを確認して 冒険者と阿呆坊ちゃんを振り返る。
「だ・れ・が・年増ですって?」
小瓶を片手にニッコリ微笑む。
息を止めて阿呆達に投げつけると小瓶は綺麗に砕けて薄黄緑の煙が立ち込めた。
執事さん奇遇ですね?私もニガクリタケの用意をしてたの。
もっとも粉末にして作用は緩やかに。でも持続時間はたっぷり仕様ですけどね。
フフフフ・・・
「それでは お・だ・い・じ・に」
ちなみにそれ、私の特別調合なのでポーションは効きませんよぉ?ニコッ
来た道を駆け抜けて屋敷の外に出る。
「お待たせ!」
外にはしっかりと馬が用意してあった。ありがとう執事さん。
「このまま森の入り口まで駆け抜けるぞ!」
「解ったわ!」
ジークがシカちゃんを抱えて馬に跨り走り始める。
私はその後を付いて行く。
あぁ夜風が気持ちいいわね。
普段夜馬に乗る事なんて無いもの。
目が覚めたらシカちゃんはきっとテンションが高いのかしら?
それともお腹が空いたって言うのかしら?ふふっ
荷を拾って森の中に入ったら休憩場所を探してご飯の用意をしてあげなきゃね。
それにしても・・・
今回は無事助け出す事が出来たからよかったけど、次からは大きな集落は避けようかしら。
*** *** シカ目線 *** ***
チッチッチ・・・ルルルルルー
んー・・・小鳥の声だ、朝かなぁ?
よく寝たぁ~。
背伸びをして辺りを見回す。
あれ?森の中?・・・
なんで森の中なんだろう?
んーっと昨日は・・・
あ、なんか小さな薄暗い部屋に閉じ込められてたんだっけ?
時々気持ち悪い笑みを浮かべた青年がやってきて愛人がどうのこうの言ってたから
きっとあれが脳内お花畑の人だったのかな?
あの一般的な顔立ちで『麗しの僕が~』とか言ってたけど・・・
ないわー、キモイだけだったし?・・・
ボブの方がずっと格好良いし?
なんならジーク兄さんも格好良いし?
フィン姉さんも麗人だし?
まぁいいや。
あの後は・・・
暇すぎて歌唄ってたら静かにしろって言われてまたあのぼんのり甘い匂いがして
ああぁぁぁ、寝ちゃってご飯食べてない!!!
「お腹空いた・・・」
ブフッと吹き出す声がした。
「ね?やっぱりそうだってでしょ?」
とフィン姉さん。
「本当にお前ってやつは・・・」
そういって笑うジーク兄さん。
二人が目の前に居る!
て事は助け出してもらえたんだぁ。
やっぱりじっとしてて正解だったよお母さん、姐さん!
「フィン姉さん!ジーク兄さん!」
私は二人に抱き着いた。
「あー、やっぱりかよ。
お前ここがまだ捕まった場所だったらどうするんだよ」
あ・・・
だって嬉しかったんだもん。
二人の顔見たら安心したんだもん。
クゥ・・・グゥゥゥゥゥゥ。
ちょっとした感動シーンだったのに私のお腹はKYだった・・・
「さぁご飯にしましょう?」
ソーセージにパンとミルクティ
いただきまーす!
モグモグモグ あぁ美味しい。
食事をしながらジーク兄さんが教えてくれた。
執事さんが手引きしてくれて比較的簡単に助け出せたんだって。
「そう言えばシカ。
お前鞄は置いてあったけど双剣は装備したままだったんだよな?
よく自力で抜け出そうとしなかったな」
「 ・・・ 」
そう言えば・・・双剣?
キョロキョロ パンパンッ
うん、腰に付いてたね(シロメ)
まぁ・・・ウロウロしないほうが見つけやすいって
ね?・・・
「まさか・・・」
「わ・・・忘れてたとかじゃないからね!
ちゃ、ちゃんと考えて自重してたんだからね!」
「忘れてたのね・・・」
うっ・・・
結果オーライて事で! ね!
その後、乗って来た馬は手綱を話すとどこかに走り去って行った。
ちゃんとお家に戻れるように祈っておこう。
馬を見送ってから私達はゆっくりと森を西に進む。
予定はくるってしまったけど、日程に余裕が出来たと思えばいい。
時々こまったちゃんの魔獣や魔物と遭遇したけど
フィン姉さんとジーク兄さんがいれば大丈夫!
勿論私も戦闘に参加してるよ。
私達が暮らしていた海辺の集落とは違って
森の中は珍しい草木がいっぱいあった。
そこに暮らす魔獣や魔物も海辺とは違っていて
虹色の蜘蛛の巣を見て「綺麗~」と呟いてたらアラクネさんに糸を貰ったり
甘い蜜の匂いに誘われてフラフラ近寄ってラフレシアみたいな花に落ちそうになったり
岩だと思って座ったらストーンゴーレムの子供で泣かせてしまったり(汗)
最近二人の表情が 姐さんやカズラに似て来た気がする・・・
気のせいって事にしとこっと。
この世界の魔獣や魔物は基本的に温厚だから
時々寝床を提供してくれたり食べ物のお裾分けをしてくれたり
ウッドワスなんかは私達を軽々担いで運んでくれたり。
そうやって旅を楽しみながら森の三分の二くらいを過ぎた頃だった。
私は今 イエティくんに抱きかかえられ焚火に当たっている・・・
何故こんな状態になっているのかって?
それは私が聞きたいよぅ~・・・
はぃ、やらかしました。 ご想像の通りやらかしました。
いぁね?
美味しそうな梨みたいなのがね・・・鈴生りだったのよ。
おやつとかデザートにいいなぁって思って手を伸ばしたらね?
草陰で見えなかっただけで崖になってたみたいでね?
一応頑張ったのよ?
落ちないように必死に何か掴もうと手を伸ばしまして
でも掴んだ蔦がブチッと切れまして・・・
慌てて手足をバタバタさせたけど、どうにかなる物でもなくですね・・・
えぇ、落ちました、そりゃもぅ見事に落ちましたとも。
はぃスンマソン・・・
幸い崖下は川になってて怪我とかもなかったんだけど
ホラ 私背が低いじゃない?
アップアップ溺れてたら
イエティくんに助けられて今のこの状況なのね(汗)
イエティって雪山とか寒い地域にいるんじゃないのかなって思ってたんだけど
この世界では比較的広範囲に住んでるんだって!
うーん、どうしよう。
この場所を知らせるにしたって・・・古典的に狼煙のろし?
でも焚火からあがる煙見てても 木々で見えない様な?
大声で歌ってみる? 木々に吸収されて響かない様な?
照明弾ならどうだろう? って持ってないや。
ん? 照明? ライトでいける?
木の上とか高い位置から空に打ち上げれば・・・
木登り?・・・ 出来るかな? 元の世界で子供の頃やったきりだし・・・
え? 任せろ? イエティくん木登りできるの?
マジで? やったー!
お、おおぉぉ? おぉぉぅ
いきなり?上る前に一言欲しかったよイエティくん。心の準備がね?
チラッと下を見て後悔したよね、うん。見るんじゃなかった・・・
高い、高すぎるよ!
例えるなら・・・
東京タワーのガラス張りの床があるじゃん?あそこに立ってる気分!
お判りいただけただろうか?・・・
男性陣ならタマがヒュッてなる感覚?
いぁ私にはついてないから判んないけど!
なんて考えてたら天辺についた・・・
よぉし。空に向かって ライト!!
二人ならきっと見つけてくれる、気付いてくれる!
ハズ・・・
カズラ 「お前はよぉ・・・」
シカ 「いぁだって・・・ね?」
カズラ 「だってじゃねぇわ!」
シカ 「カズラだってきっと同じ事したと思う!」
カズラ 「私ですか?私はあんな無謀な事しませんよ。
シカの腰に紐を付けて採りに行かせますな」
一同 (行かせるんかいっ!)
読んで下さりありがとうございます。




