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48:ヴァル大陸の旅② ~シカ~

気を取り直して・・・

さて、どうしたものか・・・


「ねぇ、昼間に安息香なんて普通は使わないわよね?・・・」


確かにそうだな。

ダンジョン内や寝付けない夜に使う事はあっても真昼間からは使わない。

使うとしたら・・・それは誘拐や強盗・・・犯罪の時だと思ってもいいくらいだ。

ならば・・・


「安息香の匂いを辿れば・・・」

「私達が眠くならないように対策もしておきましょう」


と薬瓶を渡された。

これは・・・・

リルニトロ・・・激辛の状態異常解除薬だった。

飲むしかないのか・・・・


「シカちゃんの為よ?」


そういうフィンの手も震えていた。

匂いが消える前に追うしかない、覚悟を決めるか。


グイッ・・・


「え?・・・

 全部飲んじゃったの?一口で十分だったのに・・・」


フィンはコクッと一口だけ飲んでいた。


先に言ってくれよ!

喉が痛くてたまらん・・・

焼けつく喉に水を流し込んで俺たちは宿を後にした。

幸い今日は無風だ、注意深く匂いを辿りながら集落を歩く。

どこだ・・・


集落の外れに向かうと思ったのだが・・・

これは・・・


「まさかの長の屋敷・・・」


だがこの集落の長は200歳を超えるハズでは・・・

いやあり得るか・・・?

正面から行くのは得策ではない気がする。

事情を話したとて相手にされないだろう。


冒険者として挨拶には初日に行った。

屋敷に滞在する冒険者がいるので特にこれといった依頼は無いとも言われた。

待てよ、屋敷に滞在する冒険者?・・・

そいつか、あの阿呆は。

問題はどうやって潜り込むか・・・


「何か御用ですかな?」


外出でもしていたのだろうか。老齢の執事が声を掛けて来た。


「あ、ああ。連れの一人が迷子になってな。

 方向音痴なのでこちらに迷い込んではいないだろうか?」


無難な答えだったと思う・・・


「それはそれは、さぞお困りでしょうに。

 どの様な風貌の方でしょうか?」

「ノームの者でな、背が低く桃色の髪をしている」


執事は少し考えこんで


「見かけておりませんな。お役に立てずに申し訳ありません」


と言いつつも 手早く紙に何かを書き握らせてきた。


「それでは、失礼いたします」


軽く挨拶を交わして屋敷からは見えぬよう木陰に移動し手の中の紙を確認する。


!!!


【お連れ様は冒険者様が連れて来られた方かと存じます。

 深夜に裏口にてお待ちします】


これは・・・手助けをしてくれると言う事なのだろうか?

それとも 罠だろうか?


「どうする?・・・」

「罠だったとしても行くしかないでしょうね」


そうだな、考えていても仕方がない。

ならば深夜までに準備をしておこう。

シカを助け出したらそのまますぐに此処を立とう。

荷を纏めて森への入り口に運んでおいた方がいいだろうな。


「私に少し考えがあるの。ちょっと準備をしてくるわね」


フィンは何処かへ行ってしまった。

俺も宿に戻って準備をするか・・・



*** *** とある執事目線 *** ***


やはり冒険者が抱えていたのはノームのお嬢さんでしたか・・・

まだ日も高いうちから安息香の匂いを微かに漂わせ周囲を伺いながら屋敷に戻って来た冒険者。

けして素行が良いとは思えない風貌の冒険者はきっと坊ちゃまの依頼を受けたのでしょう。

以前にも似たような騒ぎを起こして旦那様に咎められたとゆうのにまったく・・・

奥様がご存命であればこのような事は起こらなかったでしょうか。

旦那様も何故あの様な見るからに素行の悪そうな者を雇い入れたのやら。

嘆いても仕方がありません。

あのノームのお嬢さんをお仲間の元に返してさしあげなければ。

これは執事としての責任感や務めではなく、一人の父親としての義務感とでも申しましょうか。

ノームのお嬢さんにも親御さんがいらっしゃるでしょう。

同じ子を持つ父親として、ご友人達が探していらっしゃるのであれば見過ごせませんね。

スルーアがうろつく深夜であれば多少なりともご友人達も動きやすくなりましょう。


では私わたくしも準備をいたしましょうか。

目には目を・・・

あの冒険者には美味しい夕食を食べていただきましょうかね。

ちょうど新鮮なニガクリタケが手に入ったのでタイミングがよかったです。

本来は解毒ポーションを調合予定でしたが、まぁいいでしょう。

旦那様は茸はお嫌いですし、坊ちゃまには反省の意味も込めて召し上がっていただきましょう。

なぁに大丈夫でございます。

致死性はございませんし、少々お手洗いとお付き合いが長くなる程度でございすよ。

ああ、料理を担当する妻にも事情は話しておかないとなりませんね。

この屋敷の使用人が私と妻だけだった事が今回は幸いとでも申しておきましょう。

でもこの件が落ち着いたら 数人増やして頂く方がよいやもしれません。

やれやれ、私もそろそろのんびりとしたいものです・・・


*** *** フィン目線 *** ***



深夜になり私達は屋敷の裏口へとやってきた。

屋敷と言ってもガルド大陸にあるような大きな物ではないので簡素な作りではある。

私達の姿を確認すると老齢の執事さんはカンテラを揺らして合図をしてくれた。


「この屋敷には私と妻以外の使用人はおりません。ご安心ください」


そっと招き入れられると老齢のご婦人が頭を下げていた。

台所脇の扉から中に入り人気のない部屋へとまずは案内された。

机に手書きの屋敷図が広げられ説明をしてくれる。


「この部屋に2名、こちら側の部屋に1名。

 計3名の冒険者が滞在しております。

 こちら側が旦那様の部屋となっており

 この部屋が坊ちゃまの部屋となっております。

 この奥の階段が地下の貯蔵庫になっておりまして

 その貯蔵庫には小さな反省部屋がございます。

 この反省部屋は以前坊ちゃまが騒ぎを起こしたことがございまして

 その折に旦那様が作らせたものです。

 お探しのお嬢さんは恐らくこちらにいらっしゃるかと・・・」


以前も騒ぎを起こしたというのは・・・

聞きたくないわね。

今居る部屋からは直線の廊下で階段に行けるのね。

問題は冒険者達よね。


「冒険者と坊ちゃまでしたら 恐らくお手洗いと仲良くしていらっしゃるかと」


ご婦人がニッコリと微笑む。


「解毒ポーション用のニガクリタケがね

 ちょっと手から抜け落ちてシチューのお鍋に入ってしまったのよ」


あら・・・

まぁ・・・

それはトイレと仲良くなりますね・・・

もっとも冒険者が3人出て来たところで 準備してきた()()があるしね?


「ご配慮ありがとうございます。

 ご迷惑が掛からないようにお二人共自室に籠っておいて下さいね。

 後は自分達だけでやりますから」


「承知いたしました。

 そうそう、独り言なのですがな。

 私とした事が厩の扉をうっかり閉め忘れまして。

 先程の裏口辺りをウロついているやもしれませぬなぁ。2頭ほど」


そう言ってご夫婦は自室へと消えて行った。


「なんとも配慮のよい方だな・・・」

「ええ、本当に。ありがたいことだわ」


そっと廊下を覗くと辺りは静まり返っていた。

それではシカちゃんを迎えに行くとしましょうか。


誰とも遭遇する事無く無事に地下の貯蔵庫に辿り着いた。

反省部屋とみられる扉もすぐに見つかった。

鍵は掛かっていたけれどジークはアッサリと音も無く破壊してしまった。

バ〇(チカラ)ね、と思ったけど黙っておいてあげたわ(苦笑)


部屋の中は・・・

ここでもまだ安息香が焚かれていた。

シカちゃんが騒いで眠らされたのかしら?・・・

幸い私達は昼間のポーションの効果がまだ残っていたけど念の為に風魔法で換気をしておいた。


「シカちゃん・・・」


そっと声を掛けてみたけど起きる気配はなくて・・・


「このまま寝ててもらった方がよくないか?

 俺たちの顔見て安心感ではしゃがれても・・・な?」


まさかそこまでじゃ・・・と言い掛けて言葉を飲み込んだ。

この2ヵ月の様子から無いと言い切れる自信が無くなっていたのよ。

ちょっと綺麗な花があるとフラフラ近寄って見たり

美味しそうな木の実を見つけるとはしゃいでみたり・・・

今ここで目覚めたら


「フィン姉さん!ジーク兄さん!」


と歓喜の声を上げる姿が・・・浮かんじゃうのよ。

ごめんね?シカちゃん。

だったらこのまま眠っててもらって抜け出した方がいい。

騒ぎは大きくしたくないものね。

ジークがそっとシカちゃんを抱きかかえると私達は足早に反省部屋を後にした。

帰りも廊下に気配はなく 時折トイレに駆け込むような足音とドアの音が聞こえてくる。

あらら・・・

解毒ポーションは持ってないのかしら、冒険者なのに。

もう少しで裏口に辿り着きそうだったのに・・・


「ん~・・・お腹空いたぁ ムニャムニャ」


今このタイミングで寝言なの?

ねぇなんで今なの?!

シカちゃーん・・・

ジークも何か言いたげな表情だった。

そりゃそうよね・・・

2人でガックシと項垂れた。

読んで下さりありがとうございます。

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