47:ヴァル大陸の旅① ~シカ~
ピリカ集落を離れ私達は旅を始めた。
集落から西の森を抜ければ山脈が連なっている。
その山脈を超えれば海があるらしいので、そこを目指しているのだけど。
この山脈がね?
鉱山としても有名だから所々に休憩所を兼ねた温泉があって
誰でも自由に利用できるのはありがたいんだけど、体力の無い私は大丈夫だろうか。
フィン姉さんもジーク兄さんも旅慣れていたから地図を見ながら最適ルートを探してくれた。
道中はこまったちゃんな魔物や魔獣に遭遇することも無くて
順調に、と言っても1ヵ月はかかったけど頂上に辿り着いた。
そこから見る景色は映画ですか?ゲームですか?
て感じのファンタジーな景色だった。
「幻想的で綺麗・・・」
「この先の森もね、とても綺麗なのよ」
それは楽しみ!
山脈と森の間には ちょっと大きめの集落もあるから
一旦そこで休息と物資調達をする事になった。
出発してから2ヵ月月 季節は秋になっていた。
その大きめの集落で私たちは1週間の休息を取る事にした。
ここの集落の住人達もおおらかで優しい人ばかりで
だから私は油断してたんだと思う。
私の居た集落よりも冒険者が多いって事を忘れていたのよね・・・
ででんっ
【愛人契約書】
はぃ?・・・なにこれ??
訳分んないんですけどぉ?
朝食を取りに宿の部屋を出ようとしたらドアの隙間に手紙が挟んであってね?
なんだろうと開封してみたら
さっきの【愛人契約書】て文字が飛び込んで来たのよねぇ・・・
見なかった事にして封筒に戻したわよっ!!
だってその先は絶対独りで見ない方がいいと思ったんだもん・・・
フィン姉さんとジーク兄さんに部屋に来てもらって封筒を手渡した。
「「 ゴフッ 」」
二人共飲みかけてたお茶を盛大に吹いた。
ですよねぇ・・・
読まなくてもいいのにジーク兄さんは声に出して読み始めた。
1つ:愛人同士で仲良くする事
1つ:愛人同士で喧嘩はしない事
1つ:愛人同士で僕を取り合わない事
1つ:僕だけを愛する事
契約書にサインよろしく!
なんじゃそりゃぁぁぁぁ!
フィン姉さんなんかテーブルにゴンッて突っ伏しちゃったよ(汗)
「なんなんだこれはいったい・・・」
ジーク兄さんがワナワナ震えてる。
何処の誰ですかね、その脳内お花畑・・・
そもそも誰かも判らないし返事をどうすればいいのよ?
サインしろってする訳ないでしょぉぉぉぉぉぉ
「買い出ししてる所を冒険者の誰かが見初めたのかしら?」
「だからって愛人契約書って・・・
付き合ってくれとかじゃなくてか?」
いぁいぁそれはそれで遠慮します。
私にはボブってパートナーがちゃんといますしね?
まだ会えてないけど。
参ったなぁこれは・・・
メンドクサイ・・・
「予定を早めるか・・・」
「そうね・・・
今日の内に補充を終わらせて明日には出発した方がよさそうね」
2人が買い出しとかしてる間、私は念の為部屋に閉じ篭って鍵を掛けておくことにした。
「いいかシカ、くれぐれも。
く・れ・ぐ・れ・も!誰かが来ても絶対ドアを開けないようにな!
わかったな!」
「わ、わかってるよぅ・・・」
ジーク兄さんに物凄く念を押された。
大丈夫、いくら私だってそれくらいは解ってるよ。
でもする事も無くて 窓から心地よい風が入ってきて・・・
気が付くと私は寝落ちしちゃってたのよ。
そう、ドアに鍵は掛けても窓は開いていたのよね・・・
風に乗って漂ってくるほのかに甘い香り
何処かでパンでも焼いているのかなぁって思ってたらスヤァって・・・
ハッ 涎垂らしてないよね?
目が覚めた私は袖で口元をゴシゴシした。
よかった、涎は垂れてない!
て・・・
ここ何処?・・・
見た事ない部屋?
てか牢獄?・・・
明り取りの小さな窓しかないよね?・・・
でもベットやテーブルなんかの調度品はそこそこな物よね?
サイズは大きいけど。
フィン姉さん達は・・・居る訳ないよね。
ドアは・・・
開かないよね・・・(汗)
んー、これは攫われたって事であってますかね?
どうしよう・・・・
ぐぅ・・・
こんな時でもお腹はすく・・・さすが私。
鞄に何か食べ物あったよね?・・・
あ・・・鞄も無い・・・
チーンて音がした。
どうしよう、どうしよう。
童話ならパンクズとか光る小石で目印を・・・
て窓は遠いししかも道じゃないし!
オマケにパンだって無いし!
映画とかアニメならヒーロー登場とか秘密の抜け道が・・・
って、誰も私の居場所判らないからヒーロー登場は没よね。
秘密の抜け道は?・・・
ペタペタ コンコンッ ペタペタ コンコンッ
壁や床を叩いてみたけど 音の変化は無さそう。
そりゃそうか、映画やアニメみたいに都合よくはいかないよねぇ。
じゃぁゲームなら?
ゲームならどうだったけ?
ギミックで部屋に閉じ込められた時は・・・
ギミック解除・・・・だよねぇ。
ギミックありそうな壺や絵画とかないもんねぇ。
うーん・・・
『 いいかい?迷子になったら下手にウロウロせずに その場で待ってるんだよ? 』
お母さんの声が聞こえた気がする。
『 いいか、シカ。
下手に動くと余計にややこしくなったりするから絶対動くなよ?
動いていいのは心臓と呼吸とトイレの時だけ! 』
あ、皆の声も聞こえた気がする・・・
よくダンジョンで逸れた時言われたっけ。
必死にウロウロして呼吸するのも忘れて怒られたっけ。
いや呼吸はしようよ私。
うん、なんか落ち着いた気がする。
こうゆう時は焦って動いちゃ駄目なんだよね?
じっとしてる方がいいんだよね?
じゃぁじっと待ってよう。
どうせあの脳内お花畑だろうしね、攫ったの・・・
あ、足音がする。お花畑かな?
メンドクサイなぁ・・・
寝たふりしとこっと。
ベットに潜り込んで目を閉じて・・・
グゥ・・・スピィ・・・
本当に寝ちゃったのは内緒・・・(汗)
*** *** ジーク目線 *** ***
バタンッ
「シカちゃんが居ない!!」
なんだと?!
鍵を掛けて部屋に籠ってたハズじゃないのか・・・
「それが・・・」
鍵は掛かってたけどドアがちゃんと閉まってなかった・だ・・と・・・?
「 ・・・ 」
何をやってるんだアイツは・・・
嘆いていても仕方がない。
フィンと一緒にシカの部屋に行ってみる。
争った様子はない。
鞄は置きっぱなし・・・
鞄があるって事は買い出しでも無いだろう。
ん?なんだこのかすかな甘い匂いは・・・
「安息香の残り香かしら?・・・」
なるほど、眠らせて攫ったと言う事か。
誰が・・・
ああ、あの愛人契約書の阿呆か。
「宿の受付でもシカちゃんが出かける様子は無かったと・・・」
チッ・・・
何か手掛かりになるような物は・・・
何かないのか・・・
気が焦る・・・
愛人にとか言ってる野郎だ、命の危険はないだろう。
だが・・・ノームの特徴で実年齢よりも幼く見えてしまう。
その手の趣味の奴だったとしたら?・・・
フルフルフルッ
頭を振って嫌な想像をかき消す。
考えたくもない。
「ねぇ、父さんが作ってくれた指輪は?」
それだ!
ダンジョンや大きな集落や街で逸れた場合、この指輪の石が目印となる。
『半径5Mまで近づくと共鳴するようになってるのさ
シカはすぐ迷子になりそうだろ?』
さすが父さん!わかってるじゃないか!
俺達も指輪をはめて 集落をグルッと一周すれば・・・
何かしらの手掛かりは掴めそうな気がする。
シカの鞄を開いて指輪を取り出そうとして動きが止まった。
「だめだな・・・」
「シカちゃん・・・」
二人で天を仰いだ・・・
指輪が入っている箱の中には しっかりとシカの名前が刻まれた指輪が入っていたのだ。
お前なぁ・・・はめとけよ!
いつもこんな感じだったのだろうか・・・
まだ見ぬ四人の仲間の苦労が解ったような気がした。
お父さん「虫よけ機能も付けておくべきだったか・・・」
お母さん「そもそも指輪をはめてなかったじゃないのさ・・・」
お父さん「寝てる間にはめて、取れない機能にしとくべきだったか・・・」
お母さん「自分で取り外しが出来なかったら それ呪いの指輪じゃないのかい?」
シカ 「・・・・」
一同『もぉいっそそれでいいかと!!!』
ゲイザー:つ【アロンアルファ】
読んで下さりありがとうございます。




