43: ムスペル砂漠と人魚島 ~グレン~
翌朝の目覚めはスッキリとはいかなかった。
「シショー、今度は報酬を」
「要らんよ。装備や必需品にサイラスが使えばいい。
儂はほら、適当にダンジョン潜ればいくらでも稼げる」
「だが前回も・・・」
「いいんだって。どうしても気になるなら
いつか冒険者希望の子に出会ったらその子に色々と手解きしてやってくれ」
「それは勿論」
「そうやって少しずつでも
浸食シリーズや乱暴者に対応出来る人材が増えるといいな」
「そうだな、解かったよシショー」
「うむ、ではまたいつか何処かで。元気でねー!」
もう1日のんびりと過ごして疲れを取った後に旅を再開すると言うサイラスに別れを告げた。
昨夜地図で確認すれば、このままムスペル砂漠を南下すればニブルへとつながる海へ辿り着くらしい。
ニブル、そう前回スットコ神に突き落とされた場所。
デュラハンさんやアリアンは元気にしているだろうか。
リーパーのじぃちゃんはまだ健在だろうか。
懐かしいなと逸る気持ちを押えてのんびりと南下して行く事にする。
ダイアウルフと共に休憩を多めにしながらテクテク移動する。
ダイアウルフも毛色が黒だから熱を吸収しやすい。
なので洞窟やダンジョンを見つけるとそこに入って休憩するのだ。
ある日誰も居ない洞窟だと思って入ったらマミーが一家で住んでいた。
「うわぁっ」
「ぴぎゃぁ」
お互いに驚いてしまった。
よかった咄嗟に攻撃しないで。
よかったらお茶でもと誘われてお邪魔する事にした。
ダイアウルフにも冷たい湧き水を用意してくれたのでありがたい。
話を聞けばこのマミーの一族はアチコチの洞窟に住み着いているのだそうな。
時々若い冒険者が勘違いして襲ってくるのでいい迷惑だと言っていた。
あぶね、儂もそいつらと同じになるところだった・・・
ならば勘違いしないように門扉と表札があればいいのではないだろうか。
そう思いマミーに相談してみれば、是非お願いしたいとの事だった。
幸いにして材料はダンジョンのドロップ品でたっぷりと持っている。
劣化しにくく熱にも強い素材・・・
それでもって風通しが良いデザイン・・・
ヒバで簾戸みたいな感じに造ればどうだろう。
門扉じゃなくて普通に玄関扉になりそうだけども。
うん、作って見ればいい。
駄目だったらその時はまた作り直せばいいだけだし。
材料はたっぷりとあるからね。
木材と鉈を取り出して5㎜幅のひごっぽい物へ加工していく。
黙々とやってたら何故かバハ様とリヴァさんも参加してた。
しばらくしてひごの増えるペースが速いなと思ったら、マミー一家も参加してた。
皆でひたすら黙々と作業をしていく。
1時間もすれば十分な量になっていたので枠組みを作りひごをはめて組み立てる。
組み立てながらマミーに破損した場合の補修のやり方も教えて行く。
日が暮れる頃には洞窟の入り口に設置も終わり、すっかりお洒落な玄関へと変貌していた。
すっかり日も暮れ始めたし今日は是非泊まっていってくれと言われたのでお言葉に甘える事にした。
ならば夕飯に使ってくれと手持ちの塊肉を渡せばとても喜ばれた。
バハ様とリヴァさんもちゃっかりとご相伴にあずかっていた。
『 心配するな主、我らも手土産は持参しておる 』
『 んむ 』
鮪っぽい魚と柑橘系の果物。
どう見てもここいらでは獲れないヤツだよね?
まぁマミー一家が喜んでるならいいか。
うんうん、気にしたら負けだよね、ハハハ・・・
翌日は洞窟の外壁に生活魔法の応用で火を細く出しガスバーナーの要領で絵を描いていく。
まぁ壁画もどきだとでも言えばいいか。
ちょっと可愛く2頭身キャラのマミー一家にしてMommy'sHomeと文字を入れれば完成!
これで間違えるとかは無いだろう。
進入して来たり攻撃して来たりすればそれは明らかに故意だと解るので反撃もしやすいだろうしね。
完成したのでマミー一家に別れを告げて再び旅へと戻る。
別れ際【マミー印の包帯】をお礼にとごっそり貰った。
なんでもこの包帯は傷口の直りが早いんだそうな。
いざという時には有難く使わせて貰おうと思う。
そしてまた集落周りつつダンジョンに潜りつつ南下し続け海に辿り着いた。
のーんびりと草原も砂漠も進んだから 随分と月日も流れたんじゃなかろうか?
そろそろ皆成人したかなあ?
どんな姿になっているんだろう。
シカさんはやらかしまくってないだろうな。
まぁ何も噂になってないから大丈夫だと信じたい。
ボブは変なのに引っかかったりしてないよな?
あいつは純粋過ぎてすぐ騙されたり利用されたりするからなぁ。
カズラとイザは、まぁ大丈夫だろう。
寝坊したり飲み過ぎたりでなければ・・・たぶん。
まあまだだったらデュラハンさんやアリアンとのんびりしてようかな。
ふふっ ふふふ 楽しみだ。
さて、どうやって海を渡ろうか。
そう思ってたら バサァッ バハ様降臨である。
だからね?・・・
召喚無しで出入り自由なんかーいっ。
『我が運べばよかろう』
ヒョイと背中に乗せて飛び立つバハ様。
ありがたいよ?ありがたいけどもっ! 自由過ぎじゃね?
ああ、そうだ。何かの本で竜とは自由な生き物だって読んだね。
うん、バハ様も竜だったね・・・
諦めた方が良さそうだ・・・
あれ? あそこに見える島って人魚島じゃね?
マジか。
前は気にしてなかったからか気が付かなかったけどニブルと近かったんだ。
そっかぁ、それならちょっとマナ達に顔見せに寄ろうかな。
「バハ様、ちょっとあの島に寄って?」
『 む? ああ、なるほどな。承知した 』
バハ様はちゃんと理解していたようで、マナの家の前に降ろしてくれた。
コンコンッ
ドアをノックすれば「はぁい」と返事が聞こえる。
マナの声だ! 懐かしすぎて目が潤んでしまう。
「誰かしら?」
そう言ってマナはドアを開いたまま硬直してしまった。
「マナさん?・・・」
「グレン? グレンなの?!」
ガバッと抱き着かれる。
うぐっ
マナさんは意外と力があったようだ。
「マナ、グレンが苦しがっているよ?」
「ハッ、ご、ごめんなさい。つい嬉しくて」
そうして中に迎え入れて貰いお互いのこれまでを報告し合う。
マナと話して解かったのは、儂がこの島を出てから既に25年も経っているらしい。
だとすればさすがに皆成人しているだろう。
してるよね?
してなかったら困るんだけども?・・・
また時差がありましたとかだとしばくよ?誰をとは言わないけども。
マナさんはこのマーマンの男性と結婚して1歳になる子供がいるんだそうな。
まだ海中でしか生活出来なくて地下室に居ると言う。
案内されて行ってみれば地下は海と繋がっていてそこに小さな人魚がフヨフヨ泳いでいた。
なにこれ、めっちゃ可愛いんだけど!
おちびさんが喜びそうな物、何か持ってなかったけか。
マジックバックを漁って見る。
あった!
ダンジョンドロップ品のフリフリレースのピンクのリボン。
しかもリフレク機能付き!
マナさんに渡しておちびさんに着けて貰った。
うん、似合ってるね。
おちびさんもマナさんも喜んでくれた。
この日はマナさんの家に泊めて貰う事になったのだけど
島の皆に知られてしまって結局は宴会になってしまった。
「なんじゃまったく水臭いのぅ」
「そうじゃそうじゃ、折角帰って来たなら顔くらい見せんか」
「帰って来るなら帰って来るで知らせぬか、料理の準備が出来ぬではないか」
長老達にわしゃわしゃと頭を撫でられた。
嬉しいけど儂おばさん・・・
ちょっと恥ずかしかった。
あの時のトロルもすっかり島に馴染んで元気に暮らしていた。
よかったよ。
結局皆朝まで騒いでいたらしい、儂は寝落ちしたけども。
元気だなぁ、起こさないようにコッソリ・・・
むんずっ
ひぇっ
「まぁたコッソリ行こうとしおってからに」
「わしらが見逃す訳なかろう」 ニカッ
やっぱり?
今回もバレバレだった。
ならば諦めて、これでもかと言うくらいにダンジョン産の鉱石や木材と言った資材を押し付けた。
ひっそりとくらすこの島ではこういった資材は貴重なんだよね。
皆喜んでくれたので押し付け甲斐があるというものだ。
「グレン、仲間とは出会えたの?」
「それがまだなんだよね。
でもそろそろ会えそうな気がするんだ」
「そう、仲間と会えたらまた立ち寄ってね?
私達はいつでも歓迎するわ」
マナさんにそう言われてありがとうと答える。
「いつでもおいで」
「ここはもうグレンの家だからな。遠慮はいらんぞ」
「うん、皆も元気でいてね。また来るね。行ってきます!」
皆に別れを告げて今度こそニブルへ。Let's go!
読んで下さりありがとうございます。




