41:ガルド大陸 カラエチリの村④ ~カズラ~
17歳になったある日ちょっとした事件が起きた。
いつもと同じように伯父とダンジョンに行き、帰宅すると家の前に人だかりが出来ていた。
何事だろうか?
近づくと父さんの声が聞こえて来た。
「何を言われようが娘を渡す気はない!
娘も嫌がっている。帰ってくれ!」
ん?・・・
人だかりを掻き分けて前へ出て来れば父さんとチャラいガキ共が言い争っているではないか。
まぁガキと言っても俺と同世代くらいなのだが。
前世での俺は40代だったので今世で同世代をみてもつい子供に見えてしまう。
「俺を誰だと思ってる。
ミルズ町長の後継者なんだぞ!大人しく着いて来いよ!」
ガキは妹の腕を掴む。
力が強かったのだろうか、妹の顔が歪む。
「手を放していただけますかね? 妹は嫌がっていますが?」
ガキの手をギリリと掴み上げ妹方引き離す。
「きさま!何をするんだ!俺は」
はいはい、町長の跡取りだろ?だから?
同じ事何回言うんだよ、テンプレしか喋れねえNPCかよ!
まぁスルーしよう。
「父さん どうしたんだい?この状況は」
聞けば畑仕事中に通りがかったこのガキ共が妹を気に入ったからと連れ去ろうとしたらしい。
はあ・・・
俺と伯父は妹を後ろ手に回すと前に立ちはだかった。
「で? なんの御用ですかね?」
ガキはたじろぎながらも連れだと思われるこれまたチャラくて下衆いガキ達を呼び寄せた。
「おいお前。俺達はその子に用があるんだ。引っ込んでろよ。
力づくでもいいんだぜ?」
ニヤニヤと剣帯に手を掛ける。
「ほう、ここで抜く・・・と?」
そう言ったのは伯父である。
冒険者同士の私闘はご法度。
ましてや街中で無用に武器を振り回すのもご法度だ。
そんなことも知らないのか。
それともバレないとでも思っているのか。
どちらにせよ 粋がっているただのガキではないか・・・メンドクセェ。
「ふん! 俺達にはギルドマスターがついてるんだぜ?」
だからなんだと言うのだ・・・
馬鹿か?阿呆か?阿呆なのか?
「親父に言えば揉み消せるんだよ、俺達は!」
ニヤニヤと下卑た笑いを浮かべる。
んむ、阿呆確定だ。
自分の親にギルドマスターが居て不正してますよと自白したのだからな。
「町に住めなくしてやってもいいんだぞ!」
別に町に住む気もないが?
そもそもが此処は町から遠く離れた東に在る村だ。
町に行く事すらめったにない。
それで困ると思っているのだろうか?
自信満々に言っているのだから思っているのだろうな。
呆れ果てて溜め息しか出てこない。
伯父からも溜息が漏れたのでやはり呆れているのだろう。
その様子をどう勘違いしたのかガキ共は更に勢いづいた。
「解ったら大人しく・・・」
再び伸びたガキの手を伯父が弾き飛ばした。
「人の婚約者に手を出すとはいい度胸だな」
ギロリと睨みを利かす。
ん? 今サラッと婚約者と言ったか?
誰が? 誰の?・・・
んん?・・・
いやいや、今は一旦置いておいて。
後で聞こう。
まずはこのガキ共の事が先だ。
「き、きさま。俺の手を・・・! オヤジにも」
オヤジにも叩かれた事ないのに!って某有名人気アニメかよ!
再び剣帯に手が伸びる。
「やってみろ。俺に勝てる自信があればな」
伯父が威圧感を放ちながら冷静に言う。
冒険者は対峙する相手のと格差を見分ける事が出来なければ命取りにもなりえる。
なのにこのガキ共は判らないのだろうか、伯父とでは格が違いすぎるのに。
「お・・・・俺達はBランク冒険者なんだぞ!」
だからどうした。
このガキ共がBランクならばギルドの査定はそうとう緩いのだな。
ああ、どいつかの親がギルドマスターなんだっけか。
ふん、不正なら実力は大した事ないって事だな。
ズンッ
伯父が1歩手前に進み出る。
ガキ共はグッと仰け反る。
剣帯に手を掛けたのはパフォーマンスか?
それとも伯父の気迫に押されたか?
「「「ち・・・ちくしょう!覚えてろよ!」」」
口々に叫びながら走り去って行った。
漫画やコントの鉄板のテンプレ。
本当にあんなセリフ吐く奴って居るんだ・・・
「大丈夫だったか?」
振り返って声を掛けた妹の頬はうっすらとピンクに染まっていた。
へ?
何故に頬を染めてるんだ。
遠巻きに見ていた村の人々は大丈夫だったかい?と声を掛けてくれている。
伯父は心配ないとアッサリ答えている。
んむ、さすが伯父。格好良い。
その夜伯父はミルズの町長もギルドマスターも知り合いだから心配はいらないと話してくれた。
町長もギルドマスターも弟弟子で、ランクは伯父の方が上らしい。
妹にこれ以上手出しが出来ないように、念の為シショーに手紙を出して釘を刺して貰うとも言った。
そのシショーって人は何者なんだろうか、すげぇな。
で・・・?
「婚約者って? 俺その話知らないんだが・・・」
「ああ、咄嗟に出た言葉だ。
婚約者がいると判れば大人しく引くと思ったんだがな」
とはにかんだ伯父は可愛く見えた。
「わ・・・私はこのまま・・・
伯父さんとその・・・けっ、けっ、けけっ・・・」
コケーッコッコッコッコッ
「「「 ・・・ 」」」
空気読めよこのKY鶏!
「結婚・・したい・・・なぁ」
ポソリと呟いた妹の顔は完熟トマトのように真っ赤だった。
逆に伯父は驚き、両親はニコニコしている。
この世界では伯父と姪の結婚なんてよくあるし、歳の差が50や100だってザラにあったりもする。
なんせ平均寿命が長いしな。
伯父は43歳で妹は15歳 28歳差なら全然行けると思う。
俺から見ても伯父は頼もしいナイスガイだ。
妹だって愛らしく気立ても良い。
んむ、お似合いじゃないかと思う。
伯父は驚いた後は挙動不審になっているがきっと照れているのだろう。
両親だってニコニコしているのだから満更でもないのだろうし。
そうとなれば話が進むのは早かった。
結婚は妹の成人を待ってからだが先に婚約式をする事になった。
婚約式で誓いを立て周知させてしまえば、絆の加護とやらが付いて良からぬ輩から守れるのだそうな。
ちなみに手を出すとどうなるのか聞いてみた所
不埒者 と焼き印の様な文字が額に浮き出て一生消えないのだそうだ・・・
うげぇ・・・それは嫌過ぎる。
まぁ俺はそんな事は絶対ないが、あのガキ共には浮き出てもいいんじゃないかとも思った。
後日、伯父を交えて家族と夕飯を取っていたら町長とギルドマスターが血相を変えてやって来た。
これでもかってくらいの詫びの品を押し付け土下座をして帰って行った。
この世界にも土下座ってあるんだと変な感動をした。
シショーは怒らせると怖いからなと、伯父は苦笑いしていた。
俺はこの世界にも姐さんみたいな人が居るんだなと呑気に思った事を後に後悔するなどこの時は思ってもみなかった。
18歳となり成人したのを機に、伯父にだけ大まかな事情を話した。
絶対的な信頼がおけて 優秀な冒険者であろう伯父にテイマーとしても指導を受けたかったからだ。
伯父は一瞬だけ戸惑ったが
「古書にも異世界からの来訪者があったと記されている。
その後も来訪者があってもおかしくはあるまい」
と受け入れてくれた。
テイマーについてはあまり詳しくはないのだがと前置きした上で自分が知っている事を惜しみなく教えてくれた。
あまり詳しくはないと言うが十分に詳しいのではないかと思う。
ゲームに在りがちな餌を与えてなどではなくこの世界では相手が、魔獣や魔物が主導権を握り選んでくるのだと言う。
会話が出来ない相手の場合独特の親愛表現をするのだそうだが
それが・・・
ベロンベロンと全身を舐め回してくるそうで・・・
普通に擦り寄るとかでいいじゃねぇか!と思った。
後は名付けて絆が出来ればいいらしい。
この場合の絆はポワンとした感じの光に包まれた感じになりすぐわかると言う。
一緒に連れ歩く事も出来れば、鞄の中で生活する事も出来るらしいんだが。
鞄の中で生活?・・・
マジックバックとは別にペット用の鞄があるとな、なるほど。
そもそもが鑑定スキルもマジックバックも珍しいし神様チートならば使用する時は十分に気を付けるようにと念を押された。
一般的にマジックバックは最下層のボス級ドロップのレア品なのであまり出回ってないと言うが、それを持っている伯父はさすがだと思う。
そして鑑定の儀を受けなかったのは正解だとも言われた。
いくら適性のある職が提示されるだけ、本人にしか見えないと言われても子供同士がうっかり言ってしまう事もあれば
日々の鍛錬の様子やダンジョンでの様子を良からぬ輩に見られたりでもしたら自分のパーティーに取り込んで囲い込もうとする危険があったらしい。
んむ、メンドクサイ。
テイマーが1人いれば ダンジョン内での安全性が上がり高難易度ダンジョンもクリアしやすくなるのだがテイマーは数が少ないらしい。
重々気を付けようと思う。
そして驚いた事にチビはケットシーでアンはクーシーだったと判明した。
ずっと普通の猫と犬だと思ってたんだがな。
何故判ったか? 鑑定はしていない。
してはいないがポワンとした光に包まれ絆が結ばれたからだ。
おかしいな、チビは名付けたがアンは妹が名付けたハズだし。
親愛表現なんて・・・あったわ。
普通の犬猫が愛情表現でベロベロ舐めてるだけかと思ってたんだよ。
まあ、可愛いからよしとしよう。
驚くから家族に内緒だぞと念を押しておいた。
解ってるよと頭の中で声がした。これが念話か!
だがチビとアンが一緒に旅に出るとなれば家族は寂しがるだろうな。
「 ・・・ 」
心配無用だった。
数か月後にチビもアンも番を見つけて子が出来ていた。
一気に大家族である。
まさかその番までケットシーやクーシーじゃないよなと確認したら普通の猫や犬だったので安心した。
ただ、各々1匹づつケットシーとクーシーが出ているのでその子は連れて行きたいと言う。
仲間達と合流したら、こっちもこっちで大家族になりそうな気がした。
まぁそれはそれでいいか・・・とニヤけてしまった。 ムフッ
そろそろ両親に旅に出たいと話して準備を進めないとだな。
皆は何処にいるのだろうかと地図を眺めながら思うのだった。
読んで下さりありがとうございます。




