34:ポス草原 名もなき島④ ~イザーク~
3F 双頭の巨人
エティンか! 某ゲームでよく討伐したものだ。
懐かしいとか思ってる場合じゃない。
巨体から繰り出されるこん棒は一振りで風が巻き起こる。
「弱点は足だ!」
足と言われても・・・
短い足に 長い手・・・
バランス悪いな。
こうゆう時、ゲームだとバックアタックするんだよなあ。
ふむ、やってみるか。
幸い注意はライカが引き付けてくれている。
背後に回り込んでみると隙がある! 行けそうだ。
アキレス腱に狙いを定めて剣を振り下ろす。
と、グイッと1つの頭がこちらを向いた。
首が180℃回転するとか聞いてねえし!
慌てて後退し身構える。
クワッと口が開いて光を放つ。
なんだ?! 石化か? いや違うな。岩が溶けてる・・・
エティンが酸吐くとか聞いた事ねえよ!見た事もねえよ!
まあ当たらなければいいか。
ヒョイヒョイとかわしながら、足元に潜り込みアキレス腱を切りつける。
案外硬いな。
片手剣だし仕方がないのかもしれない。
大剣とか大斧とか欲しいなあとか思った。
魔法で攻撃すれば楽だけど、それじゃ近接の鍛錬にならないからな。
何度か切り付けて、やっとエティンは片膝を地につけた。
多少動きが鈍くなったような気がしる。
次は・・・あのやっかいな首をなんとかするか。
エティンの広い背を駆け上がり首根っこに剣を突き立てる。
奇声を上げながら所かまわずで酸を吐いている。
「ライカ、気を付けて!」
「おう、こっちは大丈夫だ!」
何度か剣を突き立て、切り口を広げてグラついてきた頃合いにザクリと切り落とす。
残るはもう一方の首・・・って
えええぇぇ・・・
生えて来たよ・・・
再生しやがったよ・・・
茸みたいにニョキッと!!
マージーかーー
カズラの【メンドクセェなもおー】って声が聞こえた気がする。
うん、俺もメンドクセッて思う。
これは・・・心臓狙うしかないかな。
心臓、右でいいのかな?・・・
悩んでも仕方ないか。やってみりゃいいんだよな。
力を込めて心臓があるであろう場所めがけて振り下ろす。
ザクッ
脂肪なのか筋肉なのか判らないが、通りが悪い。
全体重を掛けて押し込むが所詮まだ子供の体だ、重さなんてたかが知れている。
なんだっけ重力系の魔法あったよな?
重力の負荷がかかるようなイメージを自分に向けて放つ。
ふっと剣にかかる抵抗がなくなった。
ドズンと重たげな音とともに巨体が倒れる。
よかった、心臓の位置は右だったらしい。
あ、ライカ! 下敷きになってないかな。
「ライカ、大丈夫?・・・」
「ンガ モゴモゴモガッ」
大丈夫だけど大丈夫じゃなかった・・・
エティンの巨体からライカを引きずり出す。
「ご・・・ごめん」
「大丈夫だ。よくやった」
ライカは頭を撫でて誉めてくれた。
取り敢えず今日はここまでにして帰る事になった。
エティンのドロップで 捌かれたブタがまるっと一頭でてきたので今夜は丸焼きだな。
母さんが喜びそうだ。
帰宅してドロップの豚を見せると家族は大はしゃぎだった。
特に母さんは意気揚々と捌いて調理に取り掛かっていた。
そしてダンジョンの話をすれば兄も姉も口々に
「普通のスライムは色取り取りでまだいいんだがな」
「あら、イザもマタンゴだったの?あれは無いわよね」
と自分の初ダンジョンでの思い出を語った。
どうやら我が家のマタンゴ率は高いらしい。
ライカは「他の家ではマタンゴだったなんて聞かんのだがな」と苦笑していた。
そして4年目に突入
体付きも随分と大人びて来た。
この頃にはフィールドに現れる中型までの浸食MOBやスルーアは一人でも倒せるようになっていた。
大型だとまだ少しばかり苦戦する。
塔のダンジョンも8Fまではライカと余裕をもって登れるようになっていた。
この日は塔の10Fまで一緒に産まれた妹弟を連れ4人で登る事になった。
1F スライムとスライム亜種
いつみてもスライムは・・・慣れない。
亜種なんかはもぉ何かのホラーに出てきますかね?って感じのドロドログチャグチャだし。
それぞれが うえぇー、ひえぇーと変な声を漏らしながら倒した。
2F 大量のバグベアにスルーア少々
このバグベア・・・大量だと暑苦しいな、おぃ。
例えるなら、真夏の体育館に巨漢を隙間なく押し込んだ感じ?・・・
おまけにあの運動部男子の部活部屋のようなすえた汗の臭い。
あのタプンタプン揺れる腹にマジックで顔でも書けばこの暑苦しい雰囲気が緩和されるだろうか。
バグベアの腹踊り・・・
つい現実逃避で変な想像をして笑いそうになった。
「にぃに、どうしたの?」
妹に問われ、ざっくり説明してみると
シャキーンと人差し指の爪をのばし「試しにやってみるわね」と笑っている。
戦闘中にこんな冗談も言えるようになったとは、強くなったものだな。
妹は器用に立ち回りながら爪で顔を書いていく。
ぶっ・・・
バグベアが動いているからなのか、元々なのか。
画伯だ、ここにも画伯がいた・・・(笑)
1体 2体と増えて行く画伯の作品
何故笑っているのか判っていなかった弟やライカも徐々に気付き
とうとう皆で大爆笑になってしまった。
「お、お前なぁダンジョンで・・・な、なにしてくれてんだよ」
グハハハと涙まで浮かべている。
俺だって軽い気持ちで想像しただけで、
ここまで破壊力ある絵面になると思ってなかったんだ・・・
違う意味で疲れた気がした。
3F でっかい亀
まあこれは ちょっと時間がかかったけど倒した。
殻に閉じこもると厄介だが殻から手足と頭が出ているときは攻撃が通る。
ドロップ品に変なのがあった。
なんだこれ? 亀の形をしたグミみたいな?
ライカも頭をひねっていたので、コッソリ岩陰に隠れて鑑定してみた。
【鑑定 アイテム:スポポンゼリー 効能:お肌がピチピチになる。
その他:お母さん・おばあちゃんにあげると喜ぶ】
スポポン? スッポンかよ!
母さんとばぁちゃん用に持って帰るか(笑)
4F 鼠 鼠 鼠
サイズも大小様々、種類も様々 四足歩行のもいれば二足歩行のまでいた。
これは猫科の俺達にしてみれば大量のおもちゃを目の前にしたようなものだった。
俺はわざと剣で狩ったが妹や弟は爪でザクザク狩りながらお手玉の様に投げ飛ばしていた。
ライカはタンク技で集めて纏めてから狩っていた。
ドロップ品にネズミの人形があった。
ああこれ、あれだ。猫が喜ぶネズチューさん!
先日産まれた小さな毛玉の兄弟にいいだろうな。
5F 昆虫類
これは・・・正直苦手だった。
浸食されて薄暗い色合いになっているので ア・レ・を思い出してしまう。
俺が住んでいた北国ではお目にかかる事はなかったが
旅行先で初めてソレを目にした時には ぅひぃゃお と何とも表現しがたい悲鳴がでた。
まぁ・・・アレじゃないしな。虫だし。昆虫だし。
自分に言い聞かせて戦った。
が・・・
顔面に向かって飛んできたのには 変な声がでた。
咄嗟に手で振り払ってしまい更に変な声がでた・・・。
妹弟の前で情けない・・と思っていたらライカも変な声がでていたので安心した。
6F・・・
俺達4人は固まった。
MOBはいない・・・
が・・・
迷路になっているのだ。
何故に迷路?
いや確かにゲームだと迷路になってるダンジョンもあったけどさ。
「今までこの様なダンジョンは見た事がないのだが・・・」
ライカも唖然としている。
まあ悩んでも仕方がない・・・。
進んでみる事にする。
確か迷路は片方の手を壁に付けて進めばいいと聞いたことがあるような?
が、何故か何度も出口付近には近付くのに辿り着かない。
おかしい・・・
周囲に気を配りながら進んでいると
「あ!」
妹が何かに気付いたようだ。
「にぃに、この壁動いてる」
ん?・・・
地面に視線を移すと微かに動いたような、擦れたような痕跡がある。
壁が生きてる?・・・ 魔物か?!
試しに火球を放ってみると壁は蠢き一か所に集まり・・・
巨大なゴーレムへと変化した。
マジかぁ、ド〇クエのスライムよ・・・
さすが異世界・・・と思うしかないよなこれは。
考えたって判らないのであれば、考えたって無駄だ。
だったら倒すしかない。
剣帯から武器を手にする。
ゴツッ カキンッと鈍い音を響かせながら格闘する事・・・
どのくらい時間が過ぎたかは判らない。
やっとの事、ゴーレムは砕け散って無に返った。
大苦戦とまでは言わないが疲れたのも事実だったので、その日はここで休むことになった。
簡単に食事を済ませ、ライトを灯したまま各々が体を横たえると自然と瞼は落ちていった。
読んで下さりありがとうございます。




