33:ポス草原 名もなき島③ ~イザーク~
目覚めれば、そこはいつもの見慣れた天井だった。
「おはよう、イザ。目が覚めたのね」
「ん・・・おはよう。母さん」
まだ眠い・・・
そうだ、長老んとこのにぃちゃんはどうなったんだろう。
ベットから抜け出して食卓に向かうと何故かにいちゃんが居た。
「あれ?・・・」
長老のじぃちゃんも居る。
「どうしたの?・・・」
それがな・・・とじぃちゃんが話し出した。
昨日の出来事は家族にも内緒にしておいた方がよいと判断して
俺がじぃちゃんちで寝てしまったからと誤魔化し運んでくれたのはいいが
寝ている間に体が光を帯びて、光が収まったらにぃちゃんが何故かそこに居た?!!
んーと、俺が無意識ににぃちゃんを召喚した、みたいな感じ?・・・
そんな特殊能力なかったと思うんだが?
いきなり俺が光るし、にぃちゃんは現れるしでじぃちゃんが呼ばれたと・・・
じぃちゃんも呼ばれても困るよね?
これはどうしたものか・・・
そもそもこんな仕様があるなら説明しといてくんねぇかな、神様よぉ。
「ねぇイザ。なにか心当たりはある?」
そう聞かれてもな・・・
答えかねていると
「母さんはあるのよ。心当たり」
え?!
俺は慌てた。何か寝言で言ったのだろうか。
そう言えば自覚はまったくないがグレンが【イザ寝言五月蝿い】と言ってたっけ。
まさか・・・
ぅえぇぇ、シカさんの事言えなくなる。
「あのね、母さん。イザ達がお腹の中にいる時にね。夢を見たの」
へ? 夢?・・・
「大人になったあなたが居て、10人の仲間と旅をしていて。
楽しそうに旅をしているのよ。
そしてあなたの後ろにはライカが、長老の息子さんが居たの」
なんだって?!
仲間が10人?! しかもその内の1人がにぃちゃん?
聞いてねぇよ、そんな話!!
「もっとも忘れていたのだけどね。あなたの前にライカが現れた時に思い出したのよ。
あの夢はきっとイザの未来だったんだって」
そう言えば、と父さんまで
「俺はイザと人間の青年がノームの女の子に何か文句をいってたような夢を見たな」
えええ・・・カズラとシカかな?
さすがファンタジーと言うか
予知夢?みたいなの見てる両親がすげぇよ!て思った。
「俺はな、もっと凄いぞ・・・」
にぃちゃんが言った。
「俺の体がペカッと光って気が付いたらここに、お前の目の前に立ってて
いきなり頭の中で声がしたんだ。
おめでとうございまーす!イザークさんの守護者に決定しましたー!てな」
ぶっ・・・
なんだその軽いノリですみたいなのは!
「俺も一瞬なんの冗談だと思ったが、ほら」
言われて差し出された手の甲には 綺麗な文様が刻まれていた。
お前の手にも同じ文様があるぞと言われ、見てみれば確かに同じ文様がある。
なんだこれ・・・
これじゃいくら俺が隠したって特別仕様ですチートですって言ってるようなもんじゃないか!
あ"あ"ぁぁ・・・
ガックリと項垂れた。
俺自身がイシュカ様から聞かされて無い事が起きてて説明なんて出来る訳がない。
だいたい最初からあのスットコドッコイは・・・
しかもイシュカ様だって結局・・・
ブツブツと小声で文句を言う俺を見て家族も長老もにぃちゃんも吹き出していた。
「イザ、いいのよ。無理に言わなくても。自分でも説明出来ない事が起きてるのよね?
イザはイザなんだもの。可愛い我が子に変わりはないんだから。ね?」
母さん天命を全うして神様に会ったら文句いっておくわ!
うちの可愛い息子を困らせないでって!
フンスッと母さんは息巻いている。
その後ろで父さんと兄弟達が腕まくりしてムンズと力瘤を作っている。
ぶはっ
母さんも父さんも、神様に会ってそれやるの? ブハハハ・・・
なんだか温かい気持ちになって考えるのもバカバカしくなって俺も笑っておいた。
訳が解らないうちに呼ばれて元の世界の記憶があって神様仕様のチートなんです。
なんて事は言えないけど
それでも受け入れてくれるこの温かい家族が俺は好きだ。
この家族の元に俺を送り出してくれた事にだけは感謝しておこう。
集落の人達にはにぃちゃんが助かった理由は判らないけど心が強かったのかもしれないと説明したらしい。
皆それで納得したと言うから、これも神様補正なのか?
そして俺はライカから武術指南を受けるようになった。
これにより呼び方もにいちゃんでは無くライカと改める事になった。
実はライカ凄腕冒険者だったらしくギルド登録こそしていないがAランク相当のファイターだったんだ。
コッソリ鑑定して見たのは秘密である。
じぃちゃんからは魔法を。ライカからは剣盾の技術を。簡単な読み書きと計算は父さんが。
日々学び 遊び 食っては寝る。
そうしてやってきた3年目
この島にもダンジョンはあるらしく、ライカと二人で潜る事にした。
さてどんなダンジョンなのだろうとやって来たのは塔だった。
2階建てくらいで灯台みたいな見た目だ。
中に入れば10Fまであるのだそうだ。
だが俺は初回なので3Fあたりまでの予定らしい。
今回はお手本と言う事でライカがタンクだ。
1F スライムとマタンゴ
正直・・・気持ち悪い。
ゲームとは見た目がまったく違う、当たり前かもしれないが。
なんだよこのスライム・・・
例えるなら・・・
冷蔵庫の奥底で存在を忘れ去られてぐにょぐにょの緑色の物体に変化した元胡瓜
・・・みたいな。
なんでそれを思い浮かべたか?
実家でグレンがそれ発見して悲鳴あげてたんだよ、年に数回・・・
我が親ながら呆れたというか何というか。
マタンゴにしたって・・・
忘れて育ち過ぎたシメジが緑の粉纏ってました、みたいな・・・
しかもウネウネして変な粘液まで出てるし。
触りたくないし、こいつらが盾や剣に付くのも嫌だな・・・
「ライカ、いつもこんなのが湧いてるの?」
「いや、今日はハズレ・・・かな」
ライカも顔を顰めている。
いつもランダム湧きでスライムと何かみたいだった。
「これさ・・・剣の鍛錬にはならないけど焼き払っていいかな・・・」
「そうだな、さすがにこれは・・・俺もキモイと思う」
と意見が一致したので焼き尽くすことにした。
ゲームで使っていたファイアストームをイメージして・・・
跡形も無く・・・焼き尽くせ!!
ボッと赤い炎を一面を照らす。
香ばしい茸の焼ける匂いが広がる、ってそうじゃない。
焼け焦げた、だろ!!
自分で突っ込んでおいた・・・
変な事を考えたせいで、少々燃やしすぎたらしい。
酸欠気味になって慌ててライカと外に出た。
「凄い火力だな・・・」
「ちょっとやりすぎちゃったよ・・・」
ハハハと乾いた笑いをしておく。
そっと魔法で風を送り換気も忘れないでやっておいた。
気を取り直して・・・再突入。
コツン
2Fへ向かう途中でなにかが足にあたった。
ん? なんだこれ?
手に取ってよくみれば・・・スライムの人形?
さっきのスライムの風貌とは違い可愛い姿だ。
グレンが喜ぶかな?と思いそっと鞄に入れる。
それを見ていたライカが説明してくれた。
スライム限定初回ボーナスアイテム。
突くとランダムで簡易トイレや簡易バス・簡易キッチンのいずれか出てくるそうだ。
へえ・・・便利だな。
ライカはそうとは知らずに、いらねーと投げ捨てて「チーン・・・」となったそうだ。
2F たっぷりの骨系にスルーア少々
浸食スケルトンファイター、浸食ステルトンアーチャー、浸食スケルトンマジシャン
これはこれで気味悪いがさっきよりはマシだ。
ゲームではなく実態としてこの目でみると・・・
何とも言えないな。
カンッ カンカンッ コンッ
慣れてくれば 剣と骨の弾き合う音がリズミカルに聞こえてしまう・・・
ならばリズムを取るように・・・
カンッ コンコンッ カンッ ペキッ
我ながらゲーム脳だなと苦笑。
面倒な事に頭蓋骨を粉砕しなければ何度でもくっついて元通りになってしまう。
粉砕した骨は粉塵の様にダンジョン内に霧散する。
粉塵・・・?
やばっ!
「ライカ!気を付けて!火花が出ると・・・」
カキンッ!パチッ バフォンッ!ボンッ!
粉塵爆発が起きてしまった。
スケルトン達は煤けて独特の焦げた嫌な匂いを漂わせているし
俺とライカは体毛が縮れている。
あぁぁ、自慢の毛皮がぁぁぁ!
粉塵爆発のお陰でスケルトン達炭化してモロくなっていたので倒しやすくはなったけど、皆にはこんな姿見せたくないなと思った。
案内人「カランカランカランッ(クジ引きのベルの音)
おめでとうございまーす!あなたがイザナックの守護者にとうs・・・
決定しましたー!!」
((今当選って言おうとしたよな?))
クジか! くじ引きで守護者って決めてるのか!
案内人「クジだなんてめっそうもない。あみd・・・ゲフンゲフン」
((今あみだぐじっていいかけただろ!))
やっぱクジじゃねぇかよ!おいっ!
読んで下さりありがとうございます。




