表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/167

32:ポス草原 名もなき島② ~イザーク~

「イザ 海に落ちないように気を付けるのよ」

「うん、母さん」


俺達の住んでいるここは いわゆる離島だ。

ばぁちゃんから聞いた話だと 父や兄 それに俺のような希少種・ハイビーストが集まって暮らしている。


ヒューマンに付け狙われるからだそうだ。


おかしいな、この世界の住人は基本温厚で平和的ではなかったのか?


「130年前までは一部を除いて人間(ヒューマン)も温厚だったんだよ。

 それがなぜだか、傲慢な者や強欲な者が増えてしまってね・・・・」


人間以外の種族にもそういった類の者は居るが極少数なのだとか。

なぜ人間にだけ増殖してしまったのか、理由は判らないらしい。

愛玩用や戦闘用として捕まえようとする人間も増えた為この島に隠れて生活しているのだと。

地図にも載っていないこの島は深い海峡に囲まれ、

万が一にも悪意を持った船が近づけばクラーケンやセイレーンが守ってくれているのだと言う。

なるほど、ありがたい事だ。


ある日家から少し離れた場所にある海岸で遊んでいると

体付きが一番小さな妹が海に落ちそうになった。

危ない!

咄嗟に妹の体を掴み引き寄せたが、勢い余って俺が落ちた。


ドボンッ、ブクブクブク・・・


しまった、俺泳ぎ方知らない・・・

元の世界で北国育ちの俺は泳ぎとは無縁で育った。

猫は水が苦手・・・いや俺虎だし本能でなんとかなるか?

などと考えていたら セイレーンに抱きかかえられていた。


「気を付けてね、妹思いの優しいお兄ちゃん」


そう微笑むと陸に押し上げてくれた。

なるほど、こうやっていつも見守ってくれているのだろう。


「ありがとう!」


俺は礼を述べた。


「にぃに、ごめんしゃい」


妹はしょぼくれている。


「危ないから気を付けようね」


頭を撫でてやると妹はニッカリと笑った。

海水でベトベトするのでばぁちゃんに風呂の用意をしてもらって洗い流す。

ふるふるっと身を震わせて水気を弾き飛ばせばすぐに乾くだろう。

そしてご飯を食べて眠りに付く。



こうして兄弟や近所の子達と遊びながら日々を過ごし2年が経過した頃

この島の長老である狼のじぃちゃんに生活魔法に付いて習う事になった。

勿論兄弟や他の子も一緒にだ。

ゲームでは馴染みがあってもこれが現実となれば、感動物である。

小さな光を出せただけでも「おぉー」と歓声があがる。

じぃちゃんが魔法で花火を見せてくれた時は皆して目を輝かせた。

呪文のような物は無く、頭でイメージさせることが大事なのだと言う。

なるほど、それならばゲームでスキルエフェクトを見ている俺はイメージさせやすいな。


だが待てよ?

いきなりはマズイよな?

やはりここは初心者として周囲に合わせて行こう・・・

そう言えばシカは大丈夫だったんだろうか。

ついうっかりやらかしてないだろうか・・・


【う、うん。だ・・・だいじょうぶだよ!】目が泳ぐシカの顔が浮かんだ・・・


家電はないが生活魔法のお陰で快適ではある。

さすがにTVやスマホのような類はないが(苦笑)


のんびりと自給自足のスローライフ。

老後はこんな生活がしたいとグレンは言っていた。

きっとこの世界に馴染んでいるだろうな。


ある日島は大騒ぎになった。

長老じぃちゃんの息子さんが突然唸り声をあげ、身を強張らせ苦しんでいる。

息子さんは冒険者でつい最近ガルド大陸から戻って来たのだという。

いつものように食事をして突如唸り声を上げたのだらしい。

浸食シリーズ変貌・・・その途中過程らしい。


「ガルドのダンジョンで何かあったのだろうか。」


じぃちゃんは苦々しい顔をしていた。

何故この年寄りではなく息子なのかと・・・

今はまだ縛られているだけだがいずれは討伐しなければならなくなる。


「親父・・・親不孝ですまん」


?!

意識が・・・まだ自我がある!

普通は自我などすぐに消えてしまう。

この息子さんもハイビーストだ。ハイビーストだからなのか?

これには長老も他の住人も驚いている。

自我が残っているなら・・・なんとか助けれないのだろうか。

おや?・・・


息子さんの首の後ろの方になにか小さな闇の塊?っぽいのが見える。

この表現が正しいのかは判らない。

これ 映画やアニメやマンガだと

聖女だの勇者だの救世主だの陰陽師だのがヒョイと引きはがしてたりするよな。

でもエイ〇アンの幼体みたいに脊髄とか脳にまで入り込んでたら・・・

うーん・・・

考えていても仕方ない。


「長老のじぃちゃん。ちょっと。」


じぃちゃんの耳にそっと話しかける。


「あのさ、息子さんの首の後ろ。

 小さな影ってゆうか闇の塊みたいのって見えてたりする?」


じぃちゃんは驚きながら息子さんを見る。


「ワシには見えんな・・・

 イザには見えておるのか?」

「もしかしたら・・・可能性は低いんだけど・・・」


言い淀む俺にじぃちゃんは頷いた。


「助かる可能性が1でもあるのだな?試してみてくれぬか」

「あまり人にはみられたくないかも・・・」


じぃちゃんは息子と最後の時間を過ごすからと、人払いをしてくれた。

息子さんは苦痛に耐えるような表情をしながら俺を見つめる。

まだ自我を保っている、なんて強い人なんだろうか。


「にぃちゃん、もしかしたら駄目かもしんないけど・・・」

「かま・・・わぬ。・・・たの・・む」


レントゲンみたいな形で見えないかな?

そうすればイメージしやすいのにな。

鑑定で見えるか?

いやスキャンのイメージで見れるかもしれない。

首の後ろに手を当て集中してイメージする。

見えた! 

ああやっぱり脊髄に根がのびてる。けどまだ巻き付いてはいない。

だったら・・・

闇の弱点は聖か光。

ライトの応用で除草剤みたいに根に広がるイメージで・・・

ポワンと光が広がり手の平が熱を帯びる。

行ける気がする!!

直感で 弱った と感じたので畑の雑草スギナを引っこ抜くつもりで力を入れた。

えいっ! 

スポンッと音が聞こえてきそうなくらい綺麗に抜けた?取れた?・・・

まぁどっちでもいいか。

にぃちゃんの首からはがされたソレはシュワッと消えて言った。

息子さんの・・・にぃちゃんの様子は?


大丈夫そうだ。そう思った瞬間俺の意識は飛んだ。



*** *** 長老目線 *** ***


「親父・・・」

「ライカお前、助かったのか・・・」

「このチビのお陰か・・・」


一体この子は何をしたのか、そして何者なのか。

だが、そんな事はどうでもよい。

息子が助かったのだ。それも深淵なる闇の浸食からだ。

奇跡としか言い表せない出来事が目の前で起きたのだ。

この子に・・・イザに感謝しかない。

イザは人払いをさせた。

息子を救ったその力が尋常ではないと知っておったのだろう。

ならば


「ライカよ、ワシはこの子の力を、何か抱えた秘密を、守ってやろうと思う」

「ああ、俺もだよ。親父」


イザは力を使い果たしたのか寝息を立てている。

イザの寝顔を見ながら息子は話してくれた。


ガルド大陸のアポイと言う集落でスタンピードを防ぐという人助けをしたのだそうだ。

その時にサイクロプスとダークエルフが一緒に戦ったのだそうだが、

そのダークエルフは礼も受け取らずに姿を消したのだという。

ただ手紙が残されており今の装備は軽装備でアーチャーやシーフ向きだから前衛の物理職ならば重装備の方がよいとアドバイスを貰ったそうだ。

息子はそのアドバイスを元に大きな街で装備を買い揃えようとしたらしいのだが、

不良品だの胡散臭い品だのを押し付けられそうになり断ったら何やら変な灰の様なものを投げつけられたらしい。

恐らくその灰が深淵なる闇の浸食をもたらす呪物だったのではないかと。

よくぞここまで何事もなく戻れたものだと思った。

どうやらそれもダークエルフのお陰ではないかと言っていた。

スタンピードを防いだ時のドロップアイテムの中にあった防呪のアミュレットを身につけておけと貰ったのだそうだ。

そのアミュレットが夕食前に壊れてしまったらしい。

この話を聞いてワシはそのダークエルフに感謝すると共に、深淵なる闇の恐ろしさに身を震わした。


「親父、このダークエルフの名はシショーと言うんだがな。

 シショーはサモナーなんだよ。

 だから目立つのも人に正体を知られるのも避けているようだった」

「なるほど、ではこのシショーについても他言無用だな」

「ああ、頼むよ」


サテ 息子の事を皆にどう説明するか・・・

まずはコッソリとイザを家に運んで休ませてやらねばな。

読んで下さりありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ