3:フライングで闇の領域へ③
*** *** アリアン目線 *** ***
私はアリアン。種族としてはレイスです。
この闇の領域に存在するようになってからデュラハン様のお世話をさせて頂いております。
デュラハン様とはほぼ同時期に存在するようになり
友人であり姉弟のような関係であります。
デュラハン様は一通りの事はご自分でこなす事が可能なのですが、その・・・
なんといいましょうか・・・
不器用でございます・・・
洗濯をすれば力が入りすぎてしまい、衣服はボロ布へ・・・
パンを捏ねれば岩の様に、パンを焼けば炭に・・・
肉を焼けばこれまた炭に・・・
野菜や果物を切ればまな板ごと、下手をすればテーブルごと・・・
何故かお茶だけは、それはそれは上手にお入れになります。
なので私がお世話をさせて頂く事になりました。
だって素材がもったいな・・・コホンッ
素材に対して失礼になってしまいますからね。
普段はデュラハン様と二人で生活をしておりますが、もちろん恋愛感情などはございません。
もともと闇の領域には感情を持たぬ者が多いのですよ。
私やデュラハン様、時々お見えになるグリムリーパー様の様に
多少の感情を持ち合わせる者も稀に存在いたしますが。
我々の様な闇の領域の住人は繁殖行動も特には必要無いので
そういった恋愛感情のような物は無いのですよね。
自然と存在し自然と消滅する、そういった存在なのです。
ただデュラハン様は時折エルフなどの光の領域の住人と交流がある為か
私よりは感情が豊かな気がいたしますね。
そんなデュラハン様がいつもの散策からお戻りに・・・
おや?
おやおやまぁ・・・
デュラハン様が腕に何かを抱えていらっしゃるようですが
マントでグルグル巻きにされているので把握しかねますが幼な子でしょうか?
あぁ、好奇心の強いゲイザーが近寄ってしまいましたね。
驚かないとよろしいのですが・・・
ゲイザーは遠目だと黒いモフモフと背中に小さな蝙蝠の羽のような物が付いた毛玉に見えるのですが、モフモフではありません。
黒い靄の塊と言えばよいでしょうか?
いつか私もモフモフした物に触れてみたいものです。
もっとも触れさせてくれるモフモフが居るかは解りかねますが。
あ・・・
デュラハン様の眉間に皺が。
そうですよねやはりゲイザーは最初驚かれてしまいますよね・・・
『ブフォッ』
えぇっ、デュラハン様が吹いた・・・のですか?
プルプルプルッ
えぇぇっ、デュラハン様の肩が小刻みに震えて・・・笑ってらっしゃるのですか?
なんでしょうかあの反応は。
とても気になってしまうではありませんか。
ゲイザーが嬉しそうに尻尾を振りながらこちらにパタパタと飛んできましたね。
なになに? お風呂の用意を?
ではやはり腕に抱え込まれたグルグル巻きは幼な子?
念のために衣服も用意しておきましょうか・・・
とは言うものの
残念ながら私の手持ちの衣装の中には幼な子の物などあろうはずもございません。
幼な子の衣服は・・・無いですね・・・
私の寝着で申し訳ないのですが少しサイズ直しをして着て頂きましょうか。
「おかえりなさいませ」
軽く頭を下げて出迎えると、デュラハン様の腕から解放されたのは
やはり愛くるしい幼な子でした。
薄いハニーブラウンの髪は少し癖のあるフワフワで
猫の様に少しだけ釣り目の瞳もハニーブラウンで
どちらもこの闇の領域には存在しない色合いでしたから迷い込んだのでしょうか?
よく見ればマントから出ている小さな手足や愛らしいおでこには
擦り傷がアチコチについていらっしゃいました。
それに土埃も・・・
「客人だ。浴室へ案内してやってくれ」
「承知いたしました」
そうですね。まずはお風呂ですね。
そして傷の手当もしなくては・・・
そっと手を差し出すとグレンと呼ばれたその幼な子は私の手を取りゆっくりと足を踏み出したものの
痛むようで少しばかり眉毛が下がっておられました。
トクンッ
私の中で何かが音を立てます。
抱きかかえて差し上げたい。
いえいえ、落ち着くのよアリアン。
初対面ですもの、我慢するのよアリアン。
「大丈夫でございますか? ゆっくりと参りましょうね」
微笑んで声を掛ければグレン様も微笑み返してくださいました。
浴室に到着したので手伝いの申し出をいたしましたがグレン様は遠慮なさっていらっしゃるようで。
「でもそんなにお小さいのですから、何かと大変でしょうし。
お怪我もなさっていらっしゃるようなので、どうかお手伝いさせてくださいませ」
再度申し出れば、恥ずかしがりながらもグレン様は承諾してくださいました。
ボロマント・・・コホンッ
失礼、古びたマントをそっと外してみれば
そこには立派に凹凸が・・・えぇ私よりも立派な・・・ゴホンッ
失礼を致しました。
幼な子ではありませんでした、はい。
小柄なレディでございましたとも・・・
ご本人もお気づきになっていたかったのでしょね。
【お小さい】に反応していらっしゃいましたから。
「あの・・・アリアンさん。鏡ってあったりますか?」
「はい、一応は浴槽の傍にございますよ。」
通常の鏡では私たちの姿は映りませんので特殊な細工をした鏡が浴室内には御座います。
一緒に中へと入りご案内してさしあげると、グレン様はその場でピシリと固まってしまわれました。
*** *** グレン目線 *** ***
滑って転ばないように気を付けながらアリアンさんと中へ入った。
そして浴槽の傍の鏡を見ると・・・
・・・
一瞬思考回路が止まった・・・
誰コレ? 儂じゃないんだけど・・・
いぁ儂なんだけどさ・・・
正確に言えば元々の儂じゃぁない。
うーん、これはアレか?
某ゲームで使ってた斧キャラか?
それとも某ゲームで使ってた弓キャラか?
ってどっちもゲームキャラじゃん!しかもミニマム種の!!!
幼女じゃないよ!ミニマム種だよ!(ココ大事!)
マージーかーーー・・・
なんでこのキャラよ?よりにもよってミニマムよ?他にもあったじゃん!
エルフとかダークエルフとかオーガとか人魚とか獣人とかさ・・・
むしろ普通にヒューマンで作ったキャラだって居たじゃんか。
色んなゲームでいっぱいキャラメイクしてたじゃんかぁぁ!
武器もしくはクラスで固定されて種族選べなくって作ったミニマム種
なんでよりにもよってコレになってるかなぁ・・・
あれか、これ儂は変にリアルな夢見てるのかな?
うんそうだ、きっと夢だ・・・
『あまり長く湯舟に浸かっているとのぼせてしまいますよ?』
アリアンさんの声と微笑みで現実逃避引き戻された。
あぁやっぱりこれが今の現実な訳ですね?ハハハ・・・(トオイメ)
気が付けばアリアンさんの手によって全身綺麗に磨き上げられて湯舟に浸かっていたらしい。
湯船から出た儂は丁寧に体まで拭いて貰い、傷の手当までして貰って
大きめのTシャツを改良しましたって感じのラフなワンピースを着させてもらって浴室を後にした。
*** *** アリアン視線 *** ***
「グレン様?・・・ いかがなさいました? 大丈夫でございますか?」
反応はございませんね・・・
仕方ありません、今のうちに磨き上げてしまいましょう。
先程グレン様はご自分でなさるとおっしゃっていましたから他者に世話をされる事に慣れていらっしゃらないのでしたら騒いでメンド・・・ゴホンッ。
驚かせてしまいますものね。
フワフワの髪 洗っていても手触りもよくて心地よい・・・
スベスベの肌 なめらかでずっと触っていたいような・・・
このまま抱きしめてもよいかしら・・・
ハッ・・・ダメダメ。落ち着いてアリアン。
私はレイス 感情には乏しい種族!・・・のハズですわよね?
よく見れば体中に擦り傷や切り傷、打撲痕まであるではありませんか。
大きな傷ではありませんが、こうも数が多いと少々痛ましいですわね。
後で手当てをしてさしあげなければ・・・
全身くまなく磨き終わりグレン様の様子を覗えば・・・
まだ固まってらっしゃる・・・
固まりながらも何かを考えこんでいらっしゃるようなのでそのまま浴槽に突っ込・・・
入れてさしあげました。
体も少し冷えていらっしゃるようでしたので・・・
暖まっていらっしゃる間に湯上り用のタオルや衣服、傷薬など揃えていると
天を仰ぎながらマージーかーーー と呟くグレン様の姿が視界の隅に見えました。
あらあら・・・このまま待っていたらさすがにのぼせてしまいそうですわね。
「あまり長く湯舟に浸かっているとのぼせてしまいますよ?」
そう声を掛けるとグレン様はやっと自分を取り戻し
チラッとこちらを見た後遠い目をなさっておられました。
湯船から上がってきたグレン様をタオルで包み込み水気を拭き取った後
衣服を着せて髪を乾かして差し上げると私の頭でリンゴーンッと金の鳴るような音が。
気のせいですわよね?
テレレッテレー♪
アリアンは母性を獲得した。
え?
頭の中で不思議な声が響きました。
今のは何でしょうか・・・
読んで下さりありがとうございます。




