25:ヴァル大陸 小さな漁村ピリカ⑨ ~シカ~
温かい日差しが差し込む春。
この日私はやっと18歳となり成人した。
成人してからはしばらくの間、容姿は変らないらしい。
そりゃね、寿命が長い世界だもんねぇ。
バブちゃんのまま何百年とか、ヨボヨボで何百年とかだったらちょっとやだ。
お父さんもお母さんも大げさなくらいに喜んでくれた。
「あんなに小さなシカがこんなに大きく育って・・・」
「自慢の娘だな。元気に育ってくれてありがとうなぁ」
「お父さんとお母さんのおかげだよ!
ジーク兄さんとフィン姉さんのお陰でもあるね!
皆大好き! ありがとう!」
お父さんとお母さんは張り切り過ぎちゃって食べきれないくらいの料理を作ってた。
「ありゃ、これは作り過ぎちゃったかねぇ」
「仕方がねぇ、長老達も呼んでやるか」
結局は庭にテーブルを出して、そこに料理を並べてご近所さん達も呼んだのだけれど。
皆もそれぞれ料理を持ち寄ってくれたから結局食べきれないよね!てな量になったよね。ハハハ・・・
「そう言えばシカちゃん。
成人したのだし、ギルドの登録情報は更新しなくていいの?」
ある日フィン姉さんに聞かれた。
「まだノービスのままでいいかな。
もう少し落ち着いてからにする」
だって職の登録があるんだもん。
実はヒーラーなんですとか判ったら面倒な事になりそうじゃない?
この地域では大丈夫でもさぁ、旅の道中はわからないじゃない?
だから皆と逢えるまではこのままの方がいいかなぁって。
ほら、うっかりとかさ。
ね?やらかしそうでしょ?そこはシカですし?
(・・・)
自分で思い浮かべて眉が下がった・・・
成人してもいつもと変わらい生活をしながら
私はいつ仲間探しの旅の事を告げるか悩んでいた。
旅の事を話すならどこから話せばいいだろう・・・
実は異世界から来たんだよね、と言ったらどんな反応になるんだろう。
信じてくれるかなぁ?
うーん、上手く話せる気がしないよぉ・・・
でも変に誤魔化すのも嫌だしなぁ。
すごくお世話になったし可愛がって貰ったしね。
よし、明日の朝まずは話してみようかな。
目が覚めてリビングに行くとそこに両親の姿は無かった。
あれ?もう畑に出かけちゃったのかな?
でもなんか雰囲気が違うような・・・
空気が重いと言うか・・・
「シカちゃん・・・」
あれ?フィン姉さん 目が赤いよ?
泣いてたの?またジーク兄さんが何かやったの?
ジーク兄さんを見るとやっぱり目が赤くなってた。
え? まさか・・・
考えたくないよ?
フィン姉さんに背中をそっと押されてお父さん達の部屋に入る。
そこには穏やかに眠る二人の姿があった。
なぁんだ寝てるだけじゃん。
日頃の疲れが溜まっちゃったのかな?
二人共もう歳なんだから体は労わらなきゃねぇ・・・
「よぉし、今日は朝ご飯は私がつくるね。
お母さんが起きたら・・・驚かせてあげなきゃ・・・ね」
何故か声が震える・・・
「シカ・・・」
「ごめんねジーク兄さん。お腹空いたよね? すぐ作るから・・・」
「シカ! ちゃんと受け入れろ! 現実を見ろ!」
「や・・・だな・・・
お父さんもお母さんもちょっと・・・
お寝坊さんなだけだよ・・・」
「シカちゃん・・・」
うん、判ってる・・・
判ってはいるんだよ・・・
お父さんもお母さんも・・・
かなり高齢だったんだよね・・・
お父さんは皺くちゃで笑うともっと皺くちゃになって
いつだって見守ってくれて
ゴツゴツした働き者の大きな手がいつも優しく頭を撫でてくれて
ご飯の時の小さな椅子も いつも眠るベットも全部お父さんが作ってくれて。
お母さんはいつも美味しい料理を作ってくれてて
秘伝のレシピも教えてくれて
可愛い服もいっぱい作ってくれて
いっぱい抱きしめてくれていっぱい愛情を注いでくれて・・・
大好きで自慢の両親だったんだよ・・・
まだ親孝行もしてないし大事な話もしてないし
幌馬車旅行もしてないよ?
ねぇお母さん・・・
実は私前世の記憶があってね、異世界から来たんだよ。
仲間が他に4人居てね。
お母さんにも逢って欲しかったなぁ。
ねぇお父さん・・・
私ね、実はヒーラーだったんだぁ
もっと早くヒーラーになってたらお父さんの腰と膝直せたかなぁ?
ん? ヒーラー?・・・
・・・・
リザ あるんじゃ?・・・
「シカちゃん、どんな優秀なヒーラーも伝説の聖女だったとしても
自然の摂理は覆くつがえせないのよ・・・」
あれ・・・ 全部声出ちゃってたみたい。駄目じゃん・・・(シロメ)
そうだよね・・・ゲームじゃないもんね。
生き返らせるとか無いよね・・・
「シカ・・。この世界の命はな、天命を全うすると魂の光になる。
俺達には見えないがな・・・
そして光になって残された者の周りを漂うんだ。
残された達が悲しんでないか心配してな・・・
残された者の様子を見て安心出来たら神々の元で光の環に戻っていくんだ・・・
だからな、笑ってやれ。安心させてやれ・・・
父さんと母さんが光の環に戻れるように・・・」
輪廻転生って事・・・なのかな
そっか・・・
心配させてここに留まり続けたら駄目だよね・・・
留まり続けたらどうなるんだろう・・・
地縛霊? 悪霊? あれ?それってスルーア?
ないないないない! ダメダメダメ! 頭をブンブン振る。
「シカちゃん・・・
父さんも母さんもスルーアにはならないから・・・」
あれ? また声に出ちゃってた?・・・・
もぉさっきから異世界だのヒーラーだの地縛霊だの・・・
駄々洩れ状態じゃん!
しっかりして私。
きっとフィン姉さんやジーク兄さんには訳判らない状態よねぇ・・・
二人にもちゃんと説明しなきゃなぁ・・・
まずは埋葬しなきゃ・・・
この世界の埋葬ってどうするんだろう・・・
そもそも墓地って見た事ないような?
「フィン姉さん、ジーク兄さん。家族が天命を全うした時ってどうするの?
お別れのやり方とかってあるの?」
「人其々だが楽しい思い出話をしたり、飲み明かしたり・・・」
「エルフだと歌とダンスで見送るわね」
「お墓は?」
「お墓? なんだそれ・・・」
あー・・・
お墓の概念がないんだぁ・・・
天命を全うして少しの時間が経てば魂の光になるから肉体は残らないんだって・・・
そっかぁ・・・
残らないのかぁ・・・
お父さんの手を握りしめた。まだ温かい手は今にも動き出しそうで・・・
お母さんの手も握りしめた。やっぱりまだ温かい。
実感が、湧かないなぁ。
やっぱりまだ寝てるだけなんじゃないのかなぁ。
ジーク兄さんがコップに入った果実酒を手渡してくれた。
「さぁ父さんと母さんが安心できるように 見送ろう」
フィン姉さんは何処からか竪琴を取り出して奏で始めた。
私は炭を使ってお父さんとお母さんの似顔絵を描いた。
スマホも無いし写真なんて物もないから。
二人の顔をずっと覚えていたかったから。
どれくらいの時間が経ったのか。
似顔絵が完成するとそれを待っていたかの様に二人の体は淡い光に包まれた。
炭酸が弾けるみたいにシュワシュワと光が泡立つ。
やがて二人の姿は消えてしまった・・・
「いくら仲良くてもさ、なにも二人一緒に行かなくてもいいじゃん・・・」
私はちょっとだけ恨めしく呟いた。
見送った後にまず口を開いたのはジーク兄さんだった。
「で・・・シカ。お前異世界から来ってどうゆう事だ?」
うーん、シカ難しい事わかんなぁーい・・・
じゃ駄目だよねぇ・・・
私の居た世界は魔法が存在しない世界で種族も人間だけで
科学とゆう説明しにくい物が発達した世界で
この世界よりも自然が少なかった事。
仲が良い友達と五人で遊んでたら神様に召喚されて
その神様が実はドジっ子のスットコドッコイで友人の一人が大変な目にあったけど
今は五人揃ってこの世界に居るハズ・・・とザックリした説明をしてみた。
幸いフィン姉さんもジーク兄さんも難しい事は突っ込んでこなかったから助かった。
私が10歳の時 あの初めてのダンジョンで二人の身にも不思議な出来事が起きて
きっとそれが私の影響だと思ってたから異世界とか神様がって言われても
なんとなく納得出来たそうだ。
あの時ライト以外にも何かやらかしちゃってたみたい・・・
おかしいなぁ、そんな事はないと思うのだけど。
無意識だもの!無自覚だもの!不可抗力よね?!
でもそれがきっかけで庇護欲?駆り立てられてこうやって家族になれたらしいから
結果オーライ!って事で!!
ね?・・・
読んで下さりありがとうございます。




