33:海を渡っていざ魔国へ② ~シカ~
ひゅっと内臓が口から飛び出るかと思った・・・
ボスンと地面に着地した後 巨猿はそのまま走り出した。
私は当然小脇に抱えられたままなのでシェイクされてるように振り回され吐きそうだった。
あの巨猿さん、いやたぶんこれコングよね?
コングさん持ち方を変えて貰えませんかね?・・・
シカ「コング?コングだよね?あのね持ち方をねちょっと変えて・・・うっ」
ケロケロケロッ
見事にリバースしたわよっ!
もぉいいや、なるようになれー。
だらりと力の抜けた体をそのままに私は白目をむいたのだった。
うっぷ・・・コポコポコポッ
気が付けば私はコングに川で洗われていた。芋でも洗うような勢いで。
可能であればもう少しお手柔らかにお願いしたかった。
ハハハ・・・
コングは気が済むまで私を洗いやっと川から出れたと思ったら水切りの為にブンブン振り回された。
だーかーらー・・・ぎぼぢばうびぃ。
私の顔色が悪くなったからなのかコングの気が済んだのか、肩にチョイと乗せられゴングは走り出した。ふぉぉぉぉ落ちる落ちる飛ばされるぅー。
きっとコングの進む方向に皆が居る、私は必死にしがみ付きながらそう思った。
この子がコングなら絶対カズラの居る場所にいくだろうからね。
ボブ「居た!シカーーーーー!!」
シカ「ボーーーブーーーーー!!」
皆の姿が見えるとコングはボブに私を投げつけ・・・
え?投げないでー!
コングはカズラにまっしぐらに突っ込んだ!
私はボブに無事キャッチされたからよかったんだけど、カズラはコングにタックルされたあげくベロンベロンされて涎まみれになっていた。
ボブ「ああよかった!やっと会えたねシカ!」
シカ「うん、よかったよぉ」
イザ「よかったよぉじゃないだろ。なんでこうなるんだシカは!」
シカ「それは私が聞きたいよぉ。ちゃんと待ってたのにぃ」
ボブ「待ってたってどこで?フラフラどっかにいっちゃったじゃないか!」
シカ「え?」
イザ「ボブの手振り払ってフラフラどっか行ったって聞いたぞ?」
シカ「うそん?!」
ボブ「慌ててシカの腕掴もうとしたら僕シカに噛まれたんだよ!」
シカ「マジ?・・・」
ボブ「ほら!まだ歯形残ってるよ!クインさんだってホラ!」
シカ「え?」
クイ「ほらここに」
クインさんの頬にもしっかりと歯型が・・・
何やってんの私・・・寝ぼけたのかな?
そう言えば骨付き肉にかぶりつく夢を見てた様な?あれ?・・・
たいっへん申し訳なく・・・ごめんなさい、すんまそん、ホントすんまそん。
こうして私のお騒がせやらかし事件は終わったのだけど。
結局はウトウトしてる時に寝ぼけてボブの手を噛み
フラフラしてる所を見つけて抱きかかえようとしたクインさんの頬に噛みつき
海に落ちかけた所をロックバードに保護されてコングが迎えに来ましたみたいな?
ズラ「解ったから!おちつけ!コングなんだな?ドウドウドウ!」
ベロンベロンベロン スリスリスリ
ズラ「なんか今回はまた一段とデカいなコング!」
ベロンベロン ゲシッ!
ズラ「いてぇ! いやデカくてもコングは可愛いから!」
ベロベロベロ ぶちゅぅーーー
ズラ「いてててて バキュームかよ!」
ちなみにね、コングってのは前回カズラのペットだったヨートンだよと唖然としていたクインさんに教えてあげた。
前回もベロベロにされてたもんねカズラは。再会できてよかったねぇ。
さて私達は再び船に乗ってマグリトに向かっている。
何故かって?・・・
慌てすぎてサラとクロとちょこが載って無かった事に気付かなかったらしい・・・
なによ、皆も私の事言えないじゃん、やらかしてんじゃーん。
ボブ「ごめん、僕が急かしたから・・・」
イザ「まぁ皆でサラとクロとちょこに謝らないとだな」
シカ「皆大丈夫かな、変なのに絡まれてないかな」
ズラ「サラが一緒だから大丈夫じゃないか?」
クイ「チョコとクロもいざとなればビーストモードになるだろうし」
イザ「ビーストモードでも猫だと可愛いだけのような」
クイ「あ、大丈夫猫科ではあるけど猫ではないから」
ズラ「と言うと?」
クイ「ビーストモードだとスミロドンとゼノスミルスなのよね」
ボブ「スミロドンと・・・」
シカ「ゼノ・・・なんとかって何?」
クイ「古代の猫科動物?・・・」
イザ「なんでそれになった!」
ズラ「名前だけじゃどんな姿かもわかんねぇよ」
クイ「だよねぇ」
姐さんにも一応報告は入れておいた。
何やってんだよと呆れながらもリヴァさんに頼んで潮の流れを速めてくれていた。
リヴァさんにも何かお礼の差し入れを考えておこうと思う。
お陰で半日でマグリトに着いたのだけど港が騒がしかった。
シカ「どうしたんだろう?」
ズラ「なにかあったのかな?」
ボンッ ドンッ
爆発音の様な音が響く。
え?・・・
『人族の子供達がサラマンドルに魔法を放ったらしい』
『なんて愚かな事を』
『獣人や魔族の子供達が庇って怪我を負ってるぞ』
『誰か清潔な布と水を!』
『医者は?! 薬師は?!』
『だれか治癒魔法使える人は居ないのか?!』
ざわめく人混みの隙間から見えたのは重度の火傷や裂傷を負ったサラ達と子供達の姿だった。
ボブ「サラ!!」
クイ「クロ! ちょこ!!」
ボブとクインさんは駆け寄った。
イザ「シカここでじっとしてろ、動くなよ。カズラと出航の準備をしてくる」
ズラ「サラ達を回収してすぐ出航するぞ」
イザ「いいか、くれぐれもまだヒール使うなよ・・・」
ズラ「船内に運び込んで出航するまでは我慢しろよ・・・」
シカ「わ、わかった」
オルガさん達が巨大なタンカを作って持って来てくれた。
一瞬で作り上げるなんてすごいな。
皆でサラをタンカに乗せようと頑張っているけど、傷を負ったアチコチが痛々しい。
流血してるし、たぶん体液も流れてるよね・・・炭化してる部分もあるし。
クロとちょこなんかは体も小さいから全身火傷じゃん・・・
どうしよう、でもここで今私が魔法つかったら・・・
きっと面倒事が起きそうだよね?
イザにも止められてるし、カズラにも釘を挿されてるけど・・・
でも皆・・・薬じゃ間に合わないし初級ヒールとかじゃ間に合わないよね。
初期治癒魔法ですら持ってる人は珍しいって聞いたし使える人がいるのかも解らない。
獣人や魔族の子供達だってサラ達を守ろうとしてくれたのなら助けてあげたい。
そうだ! 私が使ったてバレないように人混みの中で魔法掛ければよくない?!
よしそうしよう! こっそりとやればきっと大丈夫。
迷うな私。今皆を助けられるのは私だけじゃないよ。
怒られるのも覚悟の上でこっそりと・・・
(サラ達や子供達が助かりますように!キンキラ~!!)
ほわわんっ と優しい光が子供達を包み込んでシュワァ~と傷が癒えて行く。
よかったぁこれで大丈夫だねと満足してたら・・・あれ?
子供達を取り巻いていた大人達の視線がこっちを見ている。
あれ?なんで?
ボブ「マズイよシカ。シカも光ってる・・・」
えぇぇぇぇぇ・・・
駆け寄って来たボブに言われて自分を見て見れば・・・
なんで私まで光ってるのよ!嘘でしょー。
これじゃ目立つじゃない!
いかにも私が魔法使いましたって言ってるような物じゃない!
ヒィエェェェェェ
茫然としてしまう私をムンズと抱えてボブは走り出した。
ボブ「シカ しっかり捕まっててね。僕死に物狂いで走るから!!」
シカ「わ・・わかっ・・・ぶぎゅっ」
ボブ「皆も走って!!」
返事をしようとして舌を噛んだ・・・痛い。
そうよね、この状況で喋ったら舌噛むよね、うん知ってた・・・
私は落とされないようにしっかりとボブの腕にしがみついた。
ちょこがビーストモードになってクインさんを咥えて走り出した。
サラはクロを咥えて元気よく走っている。
オルガさん達も凄く必死に走っている。
人助けをしたはずなんだけど、なんかすんまそん・・・
他の子供達も茫然としてはいるけど傷は治っているみたいだし、よかったぁ。
もっとも私の状況はよろしくない結果になってしまったけど・・・
読んで下さりありがとうございます。




