21:名物には要注意
「抵抗しなきゃ命までは取らねぇからよ」
「そうそう、人族には用はねぇんだよ」
「俺達が用のあるのはそっちの獣だからよ、大人しく・・・」
ぶちっ
「いでぇぇぇ、何しやがる!」
ぷちぷち ぺっぺっ ぶちっ ぺーぺっ
「ぎゃー」「ひぃぃぃ」「いてぇぇぇ」
なるほど、これが「ぺっ」の正体なのね・・・
トツコネを後にした私達の前に現れたのは5人組人族の盗賊?人攫い?
よく解らないけども悪党。
なにやら脅し文句を吐いてる途中でスライム部隊登場。
そして悪党に群がり ぷちぷちぺっぺっ を繰り返している。
スライム達によって作り上げられているのは・・・
落ち武者禿に河童禿、そしてバーコード・・・
これ教えたのってカズラさん?
ボブさんはこんな事教え無さそうだもんね。
痛そうだなぁ、割と豪快にブチッてやってるもんなぁ。
あっちのスライムなんてご丁寧にバーコードになるよう撫でつけてるもんなぁ。
笑ったら駄目だと思う、思うけど我慢しようとすればするほど笑いは込み上げてくる訳で・・・
見るからだめなんだ、見ないでおこうと視線を反らす。
つんつんっ
突かれた方を見れば、小型の可愛らしいスライムがいた。
「大丈夫だった? 怪我はない? 後は任せてね?」
「あ、うん。大丈夫。ありがとうね」
スライム軍団にお任せする事にして旅に戻る事にした。
「かぁたん、あのスライム部隊凄かったニャ」
「そうだねぇ、ちょっどびっくりしちゃった」
その後は比較的順調だったのだけど、休憩所の東屋で指名手配の張り紙を見かける事が増えた。
ただどの人相書きも落ち武者禿だったりバーコードだったりする。
スライム軍団にやられて反省する事も無く悪事を重ねてるって事なのか、馬鹿だね。
などと思っていたのだけど、旅商人のおじいさんが教えてくれた。
「こういった目立つ髪型になっている人相書きはスライム部隊が処理済みなのさ」
元々はフサフサの髪で出回っている人相書きなのだそうだ。
ワザワザ書き換えてるの? ご苦労様です・・・
あ、でもこのスキンヘッドの人とかはどうするんだろう。
バーコードとか出来ないよね。
と、そこへ小さなスライムが手に塗料缶を持ってやって来た。
何をするのかと見ていれば・・・
チョイチョイ ペタッ クィ~
スキンヘットの額に【痔主】と書いて立ち去って行った。
ちょっと待って? 痔主ってネトゲでよく使う言葉よね?
どこで覚えたんだろう、やっぱりカズラさんなのだろうか。
と言うか、痔主なんだこの犯罪者。
ちょっとバラされて可哀そうかも?
いや犯罪者だから別にいいのか?・・・
「かぁたん、気にしたら負けだニャ」
「そ、そうだね。よし気にせずに進もうか・・・」
そうこうしながらトツコネを出て3日後、ボルケーノの町に到着した。
立ち込める硫黄の匂いが温泉街って感じでいいね。
でもこのボルケーノはある意味では不思議な町だった。
町の西側は砂漠の風景が広がっているのに、東側は火山岩に覆われているのだがちゃんと植物も生えていたりする。
「夜になればもっと神秘的な風景になりますよ」
門番の竜人さんが教えてくれた。
入場料を払いお礼を言って、まずはギルドを目指す。
ギルドタグの発行元がノユクのままなので一旦返却して作り直したかったんだよね。
ボルケーノではギルドの建物が1つしかなくて、すべての手続きはそこで出来るらしい。
町に入ってすぐの場所にあったので中へ入り受付へと行く。
出迎えてくれた受付の人は蛇獣人だった。
「いらっしゃいませ。ご用件をお伺いします」
ギルドタグの作り直しをしたいと伝えれば、ランクがFからのやり直しになるがいいのかと聞かれた。
特に気にしていないと答えれば、受付の人はテキパキと手続きをこなしてくれた。
返却手続きはどこで行われたのか解らないようにしてあるらしいので助かる。
「たまにそういう方がいらっしゃるのですよ。
無茶振りをされたとか、変なのに言い寄られたとか・・・」
「あー、他にもいるんだ・・・」
ギルドタグには犯罪歴も記載される仕組みになっているので犯罪者じゃない限りは返却場所を隠してくれるらしい。
新たにギルドタグを発行してもらって、口座のお金も移動して貰えたのでこれで安心だ。
まずは宿に泊まって様子を見たいのでどこかおすすめの宿はないかを尋ねたら、人数が多いのでギルドハウスはいかがですかと言われた。
ギルドハウスと言うのは駆け出しの冒険者やハンターが割安で泊まれるようギルドが管理している宿なのだそうだ。
なるほど、ギルドが管理しているのであれば安心できそうなのでそこに泊まる事にした。
ここで受付が出来ると言うので宿泊手続きも済ませておく。
ざっと説明を受けたら、洗濯や掃除など身の回りの事は自分でやるようで、食事のみ希望者には提供しているのだそうだ。
私達は食事も自分で出来るし、面倒な時は店で食べてもいいので食事も無しのプランにした。
1泊大銅貨1枚、500円なら激安だと思う。
ギルドハウスはギルドを出た裏手にあった。
驚いたのはお風呂が温泉で、入りたい放題になっていた。
これはすごくラッキーなのでは?
割り当てられた部屋も大部屋で、全員が一緒に寝泊まり出来る。
「かぁたん、皆一緒の部屋でよかったニャ」
「安心できるのにゃ~」
「うんうん、そうだね」
今日はゆっくり休んで、明日町の中を見て廻ろう。
さっそく温泉へと向かえば、種族別に別けられていた。
種族毎に温度や深さが違うのだそうだ。
考えてみればそれもそうよね、小人族と巨人族では背も違い過ぎるし。
凄いな、この仕組みを考えた人は気遣いが出来る人だったんだろうなぁ。
のんびり温泉に浸かって居たら、隣で浸かっていたいたおばあさんが教えてくれた。
救世主の1人が巨人族でもう1人が小人族で、一緒に入って溺れそうになったので種族毎に作る事にしたと・・・
巨人族はボブさんで小人族はシカさんかな?
ぶくぶくと溺れるシカさんと慌てるボブさんの構図が頭に浮かんでしまった。
ふふふっ、他の人達も慌てつつも笑っていたんだろうなぁ。
温泉から出て皆と合流し夕飯を食べに行く。
せっかくだしとお店で食べる事にしたのだ。
どのお店にしてみようかと悩んだけど、【名物ボブ焼き】というのに興味をひかれて定食屋に入って見た。
皆でボブ焼きを頼んでみたのだけど、現物を見てなんとも言えない気持ちになった。
何かの肉の串焼きなんだけど、サイズがデカい・・・
これ絶対ボブさん関係ないでしょ、取り敢えずボブって付けときゃいいやってな感じでしょ・・・
試しに1つにしておけばよかったと後悔する。
「まぁまぁ、味付けがボブ直伝とかかもだにゃ」
「食べてみるニャン」
そう促されて1口食べて・・・
あかんこれ・・・
物凄くしょっぱいのよ、むりむりむり。
1口でバケツ3杯の水が必要なくらいしょっぱい。
「あんたたちは食べたら駄目これ。しょっぱすぎる」
「えー、いい匂いなのに」
言うのが遅かった。
1口食べたであろうキナの尻尾がボフンとえらいこっちゃになっていた。
取り敢えず、このまま丸っと残すのも申し訳ない気がするので、そっと鞄に収納した。
次からは聞き覚えの無い食べ物の場合はまず1つで試してみようと決めた。
部屋に戻った後は作り置きしておいた焼き魚とサラダを食べて、たっぷりのお茶も飲んでおいた。
明日はもっと他のお店も見て廻ろうかな。
読んで下さりありがとうございます。




