15:悪い夢だと思いたい
死者の描写があります。
苦手な方はすっ飛ばして下さいまし。
週に1回、水曜日に教会で魔力の奉納をして自分達に不要なドロップ品をガッデムさんとギルドに買い取って貰っている。
曜日や時間の感覚などは元の世界と同じだったので解かり易くてよかった。
そろそろ本格的な冬になるらしい。
冬用のコートや靴も全員分用意してある。
マロ・アンコ・キナ・チロ・タロのは特注品だ。
無くてもいいかなと思ったけど、凍傷になるからあった方がいいと言われたのだ。
そう言えば犬ぞり用のワンコは靴下を履いていた気がする。
それぞれ毛色に合わせてくれたようで、パッと見は履いているのか解らないけど、温かくて履き心地もよいのだと皆喜んでいた。
素材はドロップ品の毛皮を使って貰っているので割と安価に出来て良かったと思う。
竜人族は寒さに弱いらしいのでダウンジャケットにすればと言えば、この世界には無いらしいので簡単に説明してあげた。
要は今あるコートやジャケットに水鳥の羽毛を入れて保温性を高めるのだと言えば、早速作って見ると言っていた。
奥さんが裁縫得意なんだそうな。
まぁ狩りで得た水鳥を捌く時に羽毛は貯まるし、なんならドロップ品から出る時もある。
そうだ、私も羽根布団作ろうかな。
そうすれば寝る時温かそうだ。
「裁縫得意な人って誰か居たりする?・・・」
「「「 ・・・ 」」」
「かぁたん、猫に繊細な作業を求めないで欲しいニャ」
「猫は集中力も長くはもたないにゃん」
「なるほど。かぁたんも得意ではないんだよね・・・」
直線縫いならなんとかなるかな。
まぁ布団だし誰かに見せる訳じゃないし、多少線がねじれたって・・・ねぇ?
と言う事で私が縫う事になったのだけど・・・
「にゃぁぁぁぁ、かぁたん大雑把すぎるにゃ!」
「線もねじれすぎだにゃ!」
「もぉいいにゃ、ニャー達が交代で縫うニャ!」
「まだあたち達の方がマシな気がしてきたにゃん」
と盛大にダメ出しを喰らってしまった。
うん、学生時代に母親にもそう言われたよ(トオイメ)
3日後にはスノウハーゼと言う大型兎魔獣の毛皮で作られた羽毛布団は完成していた。
縫い目はミシンかってくらいに綺麗だった。
羽毛布団の完成を待っていたかのように、翌日から雪が降り始めた。
冬の間は狩りの回数も少なるなる。
その間何をするのかと言えば特に何かをするわけでも無く、皆のんびりと家の中で過ごすのだそうだ。
趣味の絵を描く人、編み物をする人、ため込んでいた毛皮の加工をする人。
私は数日おきに図書館へ行って本を借り、読んでいたりする。
この世界にも作家さんはいるらしくて、推理物や恋愛物もあったりするので読んでいても飽きない。
皆はと言うと全員猫化して家の中でのんびりとしている。
たまにキャットタワーではしゃいでいたり、タロと一緒に庭を駆け回ったりと元気だ。
そのタロが成長期なのだろう、すくすくと育っている。
今で柴犬くらいの大きさだろうか、これでもまだ子供なんだよね。
まぁダイアウルフらしいので大型にはなるのだろうけどさ。
もう少し子犬で居て欲しかった。
「子犬? タロが大人になったらなれるんじゃないかにゃ~」
「僕達が猫化するような感じで子犬化出来るようになるらしいニャ」
「じゃないと大きいままじゃ困る時もあるニャよ」
「あんあんっ」
確かにダイアウルフのまま町に入らない方がいいかもしれない。
それに一緒に寝る時は小型化して貰う方がいい。
私がベッドから押し出されてしまうのよね・・・
もう少し大きいベッドに変えた方がいいのだろうか。
そしてある日図書館帰りにお菓子屋を覗いていたら、慌てた様子のガッデムさんがやって来た。
「おい嬢ちゃん。呑気に買い物なんぞしてないで急いで家に戻れ。
嬢ちゃんとこの猫が大怪我をおったと・・・」
私はガッデムさんの言葉を最後まで聞く前に走り出した。
猫と言われてもタロ以外は全員猫だ。
誰が怪我をしたのだろう。
今日狩りに出かけたのは誰だったけか。
気ばかりが焦り、門を出た所で盛大にこけてしまった。
あちこちと擦りむいた気もするけど、それどころではない。
「乗れ、送ってやる」
目の前には白熊が居た。
何処から・・・あ、シオンさんのビーストモードか。
モソモソとなんとかまたがって送ってもらう。
「何があったんでしょうか・・・」
「それを今から確認にいくところだ」
すぐに家の前に到着したけど、家の前には人がごった返していた。
「かぁたん、ねぇねが。ねぇねが大変」
「ああシオンさん丁度いいところに」
竜人さんも魔族の人も、皆アチコチと怪我をしている。
所々地面も赤く染まっている。
チロがねぇねと言っているからアンコたんの事だと思うけど、家の中だろうか。
ウゥゥゥ" シャァーー!
玄関の前に逆毛だって興奮状態のアンコたんが居た。
だけど・・・
アンコたんの後ろ足が・・・
右後ろ足はかろうじて皮1枚でぶら下がっている感じで、左足は肉が削げ落ちて骨が見えていた。
そんな状態でもアンコたんは玄関前で立ちはだかっている。
「アンコたん、かぁたんだよ。もう大丈夫だよ。頑張ったね。
大丈夫だから、ほらこっちにおいで」
「 ウ"ゥゥ 」
「アンコたん、かぁたん戻ってくるの遅くなってごめんね。
大丈夫だから、かぁたんが皆を守るから。ね?
アンコたんの手当しよ?」
「フゥーッ フゥーッ」
「うんうん、深呼吸して。ほら、かぁたんが解かる?」
アンコたんはやっと私の顔を見て、パタリと倒れた。
慌てて駆け寄って抱きしめ、家の中に入る。
まずは止血、止血しなきゃ。でも、どうやって?
こんなに付け根の方からザックリ言ってるのに何処をどうやって止血すればいい?
滅菌ガーゼなんてものは無いだろうし、いやこの際だからなんでもいい。
「綺麗なタオル全部持って来て!
後は、傷口を焼くから・・・
コテの代わりになりそうなのなんでもいいから暖炉で熱して」
正しい方法なんて知らないけど、とにかく血を止めないと。
魔法のある世界と言ったって、治癒魔法が使える人は極稀でこの町に居る訳も無くて。
薬師は居ても医師は居なくて・・・
ああもぉ、泣けてくる。
鳴いてる場合じゃないのに。
「かぁたん、寒いにゃ・・・」
「アンコたん!」
アンコたんの傷を押えながら抱きしめる。
寒いのは出血性ショックだろう。
「かぁたん、あったかい、ニャ。
あたち、頑張った、ニャ。
竜の子、守れた、にゃ?
えらいでしょ? かぁたん、褒めて、にゃん」
「うんうん、アンコたんさすがおねぇちゃんだね。偉いよ。
竜の子供は無事だよ、元気だよ」
「タロも、コキも、ビビも?」
そう聞かれて部屋を見回す。
タロとコキは怪我をしているけど大丈夫そうだ。
だけどビビは・・・生きてるけどぐったりしている。
「ねぇね、大丈夫だにゃ!
ねぇねが頑張って守ってくれたから皆怪我も無く無事だニャ!」
「そっか・・・よかった、ニャ」
アンコたんはニャと小さく鳴いた後に、瞳孔が開いてスゥーッと輝きを無くし白濁りしてしまった。
「アンコたん!アンコたん!」
いやいや、嘘でしょ。悪い夢だよね。
まだこっちの世界に来て3ヵ月にもなってないよね?
少しずつ慣れて来てこれからだし、アンコたんも若返って元気になって・・・
いっぱい遊んでいっぱい食べて、抱っこもいっぱいして・・・
きっと長くて悪い夢を見ているんだ。
そうだよ魔法やモンスターが存在する異世界なんて悪い夢なんだ。
まったくいい歳こいてこんなファンタジーな夢見てるとか、やれやれだよ。
マロとアンコの薬もそろそろ無くなるし病院連れていかなきゃ。
電話で予約入れないとだね。
早く起きて電話しないと・・・
「かぁたん、しっかりするニャ!アンコが心配するニャ!」
「心配かけたら虹の橋渡れなくなるニャよ!」
「虹の橋渡れなかったら生まれ変わってこれないのにゃ!」
「かぁたん、ビビも見てあげないとだニャ」
ビビ?
誰だっけビビって。
「かぁたん!ごれは現実だニャ!逃避しないで受け入れてニャ!」
パシッ!
痛いよキナ、爪切らなきゃ。
外猫達も爪切って駆虫薬を・・・
あ、そうだった、ビビ・・・
私はやっと現実を見る事になった・・・
アンコたんをタオルの上に寝かせて、ビビの近くへ行く。
くたぁっとしていて怖かった。
胸が上下に動いているから呼吸はしている。
下手に動かさない方がいいんだろうか、脳震盪起こしてる?それとも内臓破裂?
あぁぁ、もぉわかんないよ!
「かぁたん、鑑定で状態が解かるんじゃないかにゃ?」
はっ、なるほど。そうかも。
鑑定!
脳震盪、右後ろ足骨折、尻尾骨折、打撲多数。
なにこれ、蹴られたって事?それとも殴られた?誰に?
取り敢えず脳震盪ならしばらく安静にだね。
ゆっくりと暖炉近くのソファに寝かせる。
次にアンコたんの体を綺麗に拭いて、後ろ脚の傷も見えないように包帯でぐるぐると巻いた。
タオルで包んだ後、暖炉から離れた涼しい場所に寝かせておいた。
そして説明のために待っていてくれた竜人に声を掛ける。
「何があったのか、教えて貰えますか?」
読んで下さりありがとうございます。




