85 魔力暴走?
アワアワしている僕の前にススッとマーリン先生が近付いて来た。
「魔力暴走を起こしかけたみたいじゃが大丈夫かな?」
不意にマーリン先生に顔を覗き込まれ、僕はすぐには返事が出来なかった。
今のが魔力暴走?
とてもそうは思えなかったのだが、ここはマーリン先生の言葉に乗っかるとしよう。
「は、はい。大丈夫です」
僕の返事にマーリン先生は意味ありげな笑みを浮かべた。
「いきなり魔力の流れを感知し過ぎたんじゃろう。徐々にで良いから焦らずにな」
マーリン先生はうんうんと頷きながら僕に注意すると、皆の方に向き直った。
「皆も焦らずにゆっくりと魔力の流れを感じ取ってみなさい。そうすると、このように手のひらが微かに光るようになる」
そう言ってマーリン先生は自分の手のひらをポッと光らせて見せた。
それを見て他の生徒達も同様に自分の手のひらを光らせている。
僕ももう一度、魔力の流れを感知してみる。
先ほどよりはゆっくりと魔力の流れを感じ取ると、僕の手のひらも淡く光った。
その光を見てホッとして顔を上げると、僕をじっと見つめるマーリン先生と目が合った。
探るような視線に戸惑っていると、マーリン先生はふいっと顔を反らして教壇に戻って行った。
「皆、魔力を感じ取る事は出来たかの? 出来なかった者は手を挙げてご覧」
マーリン先生の言葉におずおずと数人の生徒が小さく手を挙げた。
「ふむ、どれどれ」
マーリン先生は自分から一番近い生徒の所へ向かった。
「両手を出して」
マーリン先生に言われてその生徒が両手をマーリン先生に向かって差し出した。
マーリン先生がその手を握ると、繫いだ箇所が明るく光った。
「わしの魔力を流し込むからその流れを感じてみなさい」
手を繫いだ所から生徒の身体が徐々に光を帯びているようだ。
その光景に誰もが皆、固唾を飲んで見守っている。
その生徒の全身が光ったところで、マーリン先生は手を離した。
マーリン先生の手が離れたところで、光っていた身体も輝きを無くす。
「さあ、今度は自分で魔力を感知してみなさい」
言われた生徒が手のひらを上にして魔力の流れを感知すると、弱々しい光が手のひらを光らせた。
「その調子じゃ。さて、次は誰かの?」
マーリン先生は今度は別の生徒の所へ向かう。
その生徒にも同様の手順で魔力の流れを感知させていた。
こうしてクラス全員が魔力の感知に成功した。
「よしよし。皆、魔力の流れを感知出来たようじゃな。一日に数回はそうやって魔力の流れを感知しなさい。慣れれば意識しなくても魔力の流れがわかるようになるからの。それでは、今日はここまでにしよう」
マーリン先生がそう告げたところで終業のチャイムが鳴り出した。
マーリン先生が教室を出て行くと、皆はどっと疲れたように椅子に身体を預けたり、机に突っ伏したりしている。
慣れないことで神経をすり減らしてしまったようだ。
無事に授業が終わった事でホッとしていると、アーサーが僕の所へやって来た。
「エド、大丈夫か? 魔力暴走を起こしかけたって、平気なのか?」
マーリン先生が言った言葉を鵜呑みにしたようだが、実際に魔力暴走を起こしたわけではない。
おそらく、僕の魔力が全属性なので、あれだけの光を放ってしまったのだと思う。
マーリン先生はわかっていてそれを誤魔化すために『魔力暴走を起こしかけた』と言ってくれたのだろう。
「大丈夫だよ。マーリン先生がすぐ見てくれたからね」
特に何もしてはいないけれど、マーリン先生は僕の身体を隠すように立ってくれていた。
何かしらの処置をしてくれたと他の人に思わせた方がいいだろう。
実際にアーサーはホッとしたように息を吐いた。
「そうか。マーリン先生がいてくれたからな。大事にならなくて良かったよ」
アーサーを騙すのは心苦しいが、本当の事を告げられない以上、仕方がない。
僕は心の中でアーサーに詫びながら微笑んでみせた。




