74 入学式
その間にも続々と講堂に新入生が入ってきては着席していく。
爵位毎に入り口が分けられているので、誰がどの身分の家の子供かは丸わかりだ。
ほぼ席が埋まりかけた頃、一番向こうの入り口から入って来た新入生がいた。
ここから距離はあるけれど、それがエドワード王子だとすぐにわかった。
エドワード王子は真っ直ぐに前を向いたまま、足早に一番前の自分の席に向かい腰を下ろした。
僕が座っている所からはその姿は確認出来ない。
すべての新入生が着席をすると、講堂の扉が閉められた。
ステージ下に置かれた演台の前に一人の女性が立った。
台の上に置かれた何かを手に取って口元に持っていく。
もしかしてマイクのような物だろうか?
「それでは、これより入学式を行います。皆様、お立ちください」
講堂内に彼女の増幅された声が響き渡る。
皆が立ち上がったのを確認すると、再び彼女が口を開いた。
「本日、司会をさせていただく教員のカーラ・ディクソンです。よろしくお願いします。皆様も一緒にお辞儀をお願いします」
ディクソン先生が頭を下げるのに合わせて僕達もお辞儀をした。
「ありがとうございます。ではお座りください」
皆が腰を下ろし、落ち着いた頃を見計らってディクソン先生が口を開いた。
「それでは、本日入学される方のお名前を呼ばせていただきます。呼ばれた方は一旦起立をお願いします。今年は皆様もご存知のとおり、王族の方がいらっしゃいます」
ディクソン先生はそこでグッと顔を引き締めた。
教える立場とは言え、王族を相手にするのはそれなりに緊張するのだろう。
「エドワード・アルズベリーさん」
カタリ、と小さな音を立ててエドワード王子が立ち上がった。
僕と同じ金髪の後ろ頭が見える。
ディクソン先生は軽く頷いて、声の増幅器を口元に持ってくる。
「ありがとうございます。お座りください。続いて公爵家の方に参ります。ブライアン・アルドリッジさん」
エドワード王子と似たような金髪の男の子が立ち上がった。
公爵家からの新入生はブライアンだけのようだ。
続いて侯爵家、伯爵家、子爵家という順番で名前が呼ばれていく。
「アーサー・コールリッジさん」
アーサーの名前が呼ばれて、アーサーが立ち上がる。
子爵家も終わり、ようやく男爵家の番になった。
「エドアルド・エルガーさん」
名前を呼ばれ、思わず「はい」と返事をしそうになり、慌てて口を引き締める。
立ち上がった僕に向かってディクソン先生が軽く頷いたので、着席をする。
こうして新入生全員の名前が読み上げられた。
「以上が今年の新入生の皆様です。それでは学院長よりご挨拶を賜りたいと思います」
ディクソン先生がチラリと横に視線をやると一人の男性が立ち上がった。
そのままステージ上に上がり、中央の演台の前に立った。
真っ白な頭に白い口ひげを生やしたダンディーな老紳士だ。
「学院長のオークウッドです。皆さん、ご入学おめでとうございます。今年は王族の方も入学され、大変喜ばしく思っております。学院内では身分差を振りかざす事は禁止しております。しかし、だからといって下の身分の者が上の者の事を邪険に扱っていいわけではありません。どうか。節度を持った対応をお願いします」
等といった話を始めた。
それにしても、『~長』が付く人の話ってのはどうしてあんなに長いんだろう。
オークウッド学院長もご多分に漏れず、話が長かった。
数人の生徒がモゾモゾとお尻を動かしかけた頃、ようやく学院長の話が終わった。
「ありがとうございました。以上をもちまして入学式を終わりたいと思います。皆様、お立ちください」
あっさりと入学式の終了を告げられて僕は拍子抜けした。
普通は新入生代表の挨拶があるものだが、そういう類いのものはない。
だからこそ、親の参列もないのだろう。
ガタガタと椅子の音をさせて皆が立ち上がる。
ディクソン先生のお辞儀に合わせて僕達も頭を下げた。
「ありがとうございました。一旦お座りください。これより各教室へと案内いたします」
教室へ移動というが、どのように分けられるのだろうか?




