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66 病院へ

 クリスと時々、紙の剣で遊ぶようになったある日、昼食の席で義母様に告げられた。


「エドアルド。そろそろ入学の準備をしないとね。まずは、健康診断を受けていらっしゃい」


 僕は口に運びかけていたカトラリーをピタリと止めて義母様を見た。


「健康診断…ですか?」


「ええ、そうよ。今まで特に病気らしい病気もした事がないから大丈夫だとは思うけれどね。学院に提出しなくてはいけない書類があるから、病院に行って診断書を書いてもらっていらっしゃい」


「は、はい」


 義母様は端的にそう告げると食事を再開する。


 僕も止めていたカトラリーを口に運ぶ。


 クリスは僕達の会話などお構い無しにせっせとスプーンを口に入れては、ほっぺたをリスのように膨らませてメイドを慌てさせている。


「クリス様。まずはお口の中の物をよく噛んでください。ゴックンしてからですよ。まだお口に入れてはダメですって…」


 流石に喉に詰まらせると怖いからね。


 ここは助け舟を出しておこう。


「クリス。ちゃんと言う事を聞かなきゃダメだよ。後で僕が遊んであげるからね」


 それを聞いたクリスは、口に入れようとしたスプーンを皿に戻すと、モグモグと口の中の食べ物を噛みだした。


 クリスの横にいたメイドがホッと肩を撫で下ろして僕にペコっと頭を下げる。


 それを見た義母様がクスッと笑いを漏らす。


「クリスったら、すっかりお兄ちゃんっ子ね。私の言う事よりもエドアルドの言う事をよく聞くんだから…」


 忙しい義母様よりは僕の方がクリスと接する時間が多いせいだろうと思うけどね。


 前世での弟は双子で同い年だったから、弟というよりはもう一人の自分、と言った方が近かった。


 だけど、今世では血が繋がっていないとは言え、こうして家族として生活している以上、僕の弟である事に変わりはない。


 そして僕に懐いてくれるクリスが可愛くて仕方がないのだ。




 昼食を終えると、クリスはお昼寝の時間だと言う事で自室に連れて行かれた。


「エドアルド様。これから健康診断に参りましょう」


 エミーが食事を終えたばかりの僕を外出へと連れ出そうとする。


「え、今から? いきなり行っても大丈夫なの?」


 戸惑う僕にエミーはコクンと頷く。


「午前中のうちに病院に予約を入れておきました。さあ、参りましょう」


 エミーは僕の椅子を引いて立ち上がらせると、玄関の方へといざなっていく。


 どうやら義母様からの言いつけで午前中のうちに病院に予約を入れていたらしい。


 どうりで姿が見当たらなかったわけだ。


 エミーに急き立てられるように僕は馬車に乗せられた。


 エミーも僕に続いて馬車に乗り込むと、馬車はゆっくりと動き出した。


 それにしても、健康診断って何をするんだろう?


 普通に昼食を食べていたけど大丈夫なんだろうか?


「ねぇ、エミー。健康診断って何をするの?」


 僕が尋ねるとエミーはコテリと首を傾ける。


「何って…。お医者様に診ていただくだけですよ」


 そう答えてくれるけれど、ますますもってわからない。


 普通、健康診断って言うと身長・体重を測ったり、視力や聴力を検査したりするものじゃないんだろうか?  


 そのうちに馬車が止まり、馬車の扉が開かれた。


 僕に続いてエミーも馬車を降りると、目の前の建物に入るように促される。


 初めて入る病院に僕は思わずキョロキョロとしてしまう。


 待合室には数人の人が座っているが、順番を待っているのだろうか?


 受付とおぼしき所へエミーはさっさと歩いていくと「予約しているエルガーです」と告げる。


「お待ちしておりました。どうぞ中へお入りください」


 受付の女の人が指し示した扉の方へ進んで行くと、エミーは僕だけを扉の中へ押し込んだ。


「エドアルド様。私は外でお待ちしております」


 それだけ告げるとエミーはバタンと扉を閉める。


 え、ちょっと。


 まだ、何の心の準備も出来てないんだけど…。




 


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