59 ポップコーンの開発
エドアルドがチャールズ達と一緒に厨房を出て行くと、サミュエルは早速ポップコーンの開発を始めた。
先ほど、エドアルドは塩味とキャラメル味の二種類の作り方を伝授してくれた。
まだ幼い子供だというのに、何処でそんな作り方を知ったのだろうか?
塩味はともかく、砂糖と水とバターだけであんなに美味しい味が作れるとは、サミュエルにとっても目から鱗が落ちるほどの驚きだった。
(あのような子供に出来て私に出来ないはずがない。きっと色んな味のポップコーンを作ってみせるぞ!)
サミュエルはそう心に誓ったが、いざ作るとなるとどのような味付けにしようかと迷ってしまう。
厨房の中にある調味料をありったけ台の上に並べてみたが、逆に種類があり過ぎて迷ってしまう。
「なあ、ビリー。ポップコーンにはどんな味付けが合うと思うか?」
サミュエルは副料理長を務めるビリーに助言を求めた。
「うーん、そうですねぇ。甘いのだったらハチミツなんか合いそうですね」
「ハチミツか。だが、ポップコーンに絡めるにはねっとりしすぎてないか? 絡めた後も食べる時に手がベタベタになりそうだし…」
サミュエルはそう言いながらもハチミツの瓶を手に取った。
瓶の蓋を開けてハチミツをスプーンですくってみるが、ハチミツはスプーンから溢れてトロトロと垂れ落ちるばかりでなかなか途切れない。
ふと、先ほどのキャラメル味を思い出した。
(バターを溶かしてハチミツと混ぜてみるのはどうだろうか?)
バターは冷えたら固まるから、ハチミツと混ぜたら一緒に固まるかもしれないと思ったのだ。
早速、フライパンにバターを入れて熱してバターを溶かす。
バターが溶けたらすぐに火を止めてそこにハチミツを入れてよく混ぜ、その後にポップコーンを入れて絡める。
バットに移してしばらく放置しておくと、やがてポップコーンの周りが乾いてきた。
「どうだ? これなら手が汚れる事もなさそうだぞ。バターとハチミツの相性もバッチリだ」
「おお、流石は料理長ですね。これなら手も汚れずにすみますね」
サミュエルとビリーがハチミツバター味のポップコーンを試食していると、他の料理人達もわらわらと群がってきた。
「これも甘くて美味しいですね。でも、甘い味ばかりじゃなくて、お酒にも合うような味付けってないですかね」
酒に目のない一人の料理人が、訴えかけるような目をサミュエルに向けてくる。
「酒に合うような味付けと言ったら少し辛めの味の方がいいか。…ブラックペッパーをかけてみるのはどうだ?」
サミュエルはポップコーンにブラックペッパーと塩を振りかけてよく混ぜ合わせた。
サミュエルがブラックペッパーがまぶされたポップコーンを口に入れると、ピリッとした刺激が舌を刺す。
「あ、良いですねぇ。今すぐにでもお酒を飲みたいくらいです」
「コラ! まだ勤務中だぞ!」
口では部下をたしなめながらもサミュエルの顔は笑っている。
「料理長! 新しく『カレー粉』という物が出たらしいんですけど、それも合いますかね?」
部下の一人が最近出回っている調味料を口にする。
まだサミュエルも使った事のない調味料だ。
「試してみて損はないだろう。誰か、一走り行って買ってこい」
サミュエルに言われて、一人の料理人がすぐに走って行く。
その間にも、溶かしたチョコレートを絡めたチョコレート味のポップコーンを作る。
やがてカレー粉が厨房に届く。
サミュエルはカレー粉の瓶を開けて匂いを嗅ぐ。
なんとも刺激的な香りが鼻をくすぐる。
ほんの少しをスプーンですくって舐めてみると、ブラックペッパーとは違った辛味が口の中に広がる。
「これはまた、癖になりそうな味だな」
早速ポップコーンに振りかけて食べてみると、サミュエルにとって一番好きな味だった。
こうしてサミュエル達によるポップコーン開発は延々と続くのだった。




