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208 内緒話

「アーサー君には申し訳ないが、ちょっと彼の体調に干渉させてもらったよ。少しトイレにこもるだけで大した実害はないけどね」


 ギルドマスターはしれっとした顔で言うけれど、魔法で他人の体調に干渉するなんて、どこでそんな魔法を習得したのやら。


 ふと、とあるエルフの顔が浮かんだけれど、まさかね。


 それよりもアーサーを遠ざけてでも僕と話がしたかったのだから、今のうちにさっさと済ませてしまおう。


「エドアルド君、大丈夫か? 今の君は『周りの人間はすべて敵』だと言わんばかりの顔をしているぞ」


 ギルドマスターに指摘されるが、当の僕にはピンと来ない。


 けれど、この国のどこかに僕を排除しようと目論んでいる人物がいる事はひしひしと感じていた。


 そんな僕とパーティーを組んでくれているアーサーにも、とばっちりが向かうかもしれない事も…。


「…ギルドマスター。僕はこのままアーサーと組んでいても大丈夫なんでしょうか? いっその事、僕だけで王都の街を出て他の街で冒険者として暮らして行こうかと思っています。この王都の街にいたら、いつ僕の家族にまで迷惑がかかるかわかりませんから…」 


 アーサーは優しいから僕と一緒に行くと言ってくれるかもしれない。


 だけど、万が一アーサーを盾に取られたらどうしよう。


 それで僕の身に何かあったら、アーサーは自分を責めまくるに違いない。


 アーサーにそんな後悔はしてほしくない。


 それならば、いっその事アーサーとのパーティを解消して僕だけがこの王都の街を出て行った方がいい。


「エドアルド君がそう決意しているならば、僕に何も言う権利はないよ。だけど、本当に一人でやっていける自信はあるのかな?」


 ギルドマスターに問われたけれど、一人でやっていける自信なんて正直に言えば殆どない。


 だけど、こうしている間にも僕を排除しようとしている人物が、次の手を考えているかもしれないと思うとうかう

かしていられない。


 一刻も早くこの王都の街から出て行く事が先決だ。


「自信はありませんが、僕を排除しようと目論んでいる人物が次の一手を打ってくる前に行動すべきだと考えています」


 そう決意を固めるとギルドマスターは深くうなずいた。


「そうだな。リリザの場合も君達がこの冒険者ギルドに出入りするようになってからこのギルドに就職しているからな。その人物に嗅ぎつけられる前に行動を起こした方がいいだろう。…ま、こう言っている僕の事も信用出来ないかもしれないがね」


 最後の方はちょっとおどけなような口調のギルドマスターに僕はちょっと笑みを浮かべた。


 ギルドマスターが関わっているのなら、わざわざ僕達を助けに来たりしないはずだ。


 その点からしてもギルドマスターが関与しているとは考えにくかった。


「一人でこの王都の街を出て行くのなら、学院のマーリン先生に助言を請うといいだろう。きっと力になってくれるさ」


 突然、ギルドマスターの口から『マーリン先生』の名前が出て来て僕はびっくりした。


「え? マーリン先生?」


 すると、ギルドマスターは「ふふっ」と笑いを漏らした。


 そのギルドマスターの耳が一瞬だけ尖ったかと思うとまた元に戻った。


 まさか、エルフ?


「あ、あの…」 


 そう言いかけたところで、扉がバタンと開いてアーサーが戻ってきた。


「いやー、スッキリした!」


 サッパリとした笑顔で戻ってきたアーサーに和らぎつつも、僕は顔を引き締めた。


 ここから僕は心を鬼にしてアーサーに伝えなければならない。




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