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206 リリザの最期

 僕ががっくりとうなだれている間にもギルドマスターの取り調べは続いていた。


「排除だと!? まったく…。余計な事を考える連中もいたものだ。それで? お前を雇ったのは誰だ?」


 黒幕の名を明かすように言われてリリザはギュッと唇を噛み締める。


 何が何でも明かしてやるものかという気持ちが透けて見える。


 このままでは埒が明かないとみたギルドマスターは更に威圧を高めていく。


 僕達に背中を向けているにも拘わらず、その威圧の強さに僕達までその場にひれ伏してしまいそうだ。


 散々粘っていたリリザだったが、ギルドマスターの威圧に耐えきれなくなったようで唇を震わせながら言葉を発しだした。


「わ、私の雇い主は…」


 そこまで告げたところでリリザは突然「グフッ」と声をあげると悶絶の表情を見せた。


 リリザの口の端から一筋の血が流れ落ちていく。


 そのままリリザはバタリと地面に倒れ込んだ。


「しまった!」


 ギルドマスターが慌ててリリザの身体を抱き起こしたが、その目は既に焦点を無くしていた。


 まさか!?


 自害した?


 僕は慌ててソファから立ち上がるとリリザの身体に向けてヒールをかけようとした。


 だが、バチッという音と共に僕の魔法が弾かれた。


「エドアルド君、駄目だ! リリザの身体には他の魔法を受け付けないようにされている!」 


 ギルドマスターに言われて僕は改めてリリザの身体を見直した。


 よく見るとリリザの身体をうっすらとした膜のようなものが覆っている。



 リリザは既に事切れたらしくぴくりとも動かない。


 見開かれたままのリリザのまぶたをギルドマスターはそっと閉じさせた。


「黒幕の名を明かそうとしたら毒殺されるように仕組まれていたみたいだな」


 ギルドマスターは立ち上がると扉の外に待機している警備兵を呼び入れた。


 警備兵の二人は応接室に入るとリリザの遺体を見てギョッとした。


「こ、これは!?」


 ギルドマスターは軽く息を吐くとフルフルと首を振った。


「尋問中に毒を飲んだ。リリザの自宅に送ってやってくれ」


 ギルドマスターの簡素な説明にも警備兵は納得の顔を見せた。


 二人でリリザの遺体を抱えると応接室を出て行く。


 床にはリリザの口から落ちた血痕が残っていたが、ギルドマスターは素早くクリー魔法をかけた。


 ギルドマスターに促されて僕はソファへと座り直した。


 自分が王子だと知られていた事に僕は少なからずショックを受けていた。


 そんな僕の感情が表情に表れていたらしく、ギルドマスターはちょっと哀れむような目を見せる。


「以前、国王陛下が国民に向けて公表しただろう? あの時に何人かの貴族達はもう一人の王子について調査をして

いると思う。その結果、エドアルド君に行き着いているのは間違いない」


 ギルドマスターに断言されて、ますます僕は落ち込んでしまう。


 お家騒動に巻き込まれたくないから王族になりたくないと告げたのに…。


 国王もそんな僕の気持ちを汲んでくれて、敢えて『探さない』と言ってくれたのに…。


 どこの世界にも余計な事をしてくれる連中はいるものなんだな。


 僕はこれ以上ないくらいの深いため息をつくのだった。


 

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