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205 リリザの言い分

 リリザという女性職員がいない事を知ったギルドマスターは厳しい声を発した。


「すぐに警備兵をここへ!」


 ギルドマスターの剣幕に女性職員は「は、はい!」と上ずった声で返事をするとそそくさと応接室を出て行った。


 しばらくして足音が近づいてくると、警備兵二人が応接室に入ってきた。


「ギルドマスター、お呼びですか?」


 年かさの警備兵がギルドマスターに問うてくる。


「リリザが行方をくらませた。彼女は規則違反を犯した。すぐに捕らえてここに連れてきてくれ」


「はっ!」


 警備兵は手を胸に当てて敬礼をすると応接室から出て行った。


 扉が閉じられるとギルドマスターは「ふうっ」と大きく息を吐き出した。


「随分と逃げ足の早い事だな。私が君達を追いかけて行ったのを見ていたから、逃げ出すチャンスを伺っていたんだろう」


 ギルドマスターはやれやれとばかりに頭を振る。


 どのくらい時間が経ったのだろうか。


 やがて複数の足音が入り乱れる音がして応接室の扉がノックと共に開かれた。


「ギルドマスター。リリザを連れてきました」


 先ほどの警備兵二人に挟まれる形で水晶玉に写っていた女性職員が連れてこられた。


 よく見ると後ろ手に縛られているようだ。


 ギルドマスターが『捕らえて』と告げたのだから当然と言えば当然だろう。


 リリザは忌々しげな顔でこちらをキッと睨んでいる。


 どちらかと言えば美人の部類に入るだけに、そんな顔をしていると凄みを増してくる。


「ご苦労だった。リリザをそこに座らせて君達は出て行ってくれ」


 ギルドマスターはテーブル横の床を指差した。


 だが、警備兵達は少し躊躇した様子を見せる。


「え? しかし…」


「大丈夫。リリザは何も出来やしないさ。万が一を考えて君達は扉の前で待機していてくれ」


 警備兵達は渋々リリザを床に座らせると応接室から出て行く。


 リリザは相変わらずきつい目をしているが、その視線は僕に向けられている。


 彼女は何か僕に恨みでもあるのだろうか?


 ギルドマスターは立ち上がるとリリザに近づいていった。


 途端にリリザは怯えたような様子を見せる。


「さて、リリザ。どうして依頼書のランクを書き換えたのかな?」


 声だけは優しそうだが、ギルドマスターからの圧力が凄まじい。


 おそらくリリザに対して威圧をかけているのだろう。


 リリザはブルブルと震えながらもギルドマスターから目を離さない。


 いや、離さないのではなくて離せないのだろう。


 リリザは唇を震わせながら話し出した。


「…エドアルド様が邪魔だから排除するように頼まれました」


 え?


 僕が邪魔?


 すぐにはリリザの言葉が理解出来なかった。


 隣に座るアーサーも驚いたようにポカンと口を開けている。


 ギルドマスターは眉間にシワを寄せてなおもリリザを問い詰める。


「エドアルド君が邪魔? 一体どういう事だ?」


 リリザは躊躇いながらも口を開く。


「エドアルド様がいると、いつエドワード様からエドアルド様に王位継承権が移るか分からないから、今のうちに排除するようにと…」


 その言葉に僕は更に驚きを隠せなかった。


 こうして眼鏡をかけていても、僕が王子だとバレていたなんて!


 それにしても国王は僕を王子として公表しないと宣言したにも拘わらず、僕を排除しようとする輩がいるなんて…。


 その事実に僕はがっくりとうなだれた。



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