203 帰還
森を抜けて街道に出るとそこには二頭立ての馬車が待っていた。
手持ち無沙汰に立っていた御者が僕達の姿を見て破顔する。
「無事に見つかりましたか。さあ、どうぞ。乗ってください」
どうやら僕達の捜索のために馬車まで出してくれたようだ。
なんだかちょっと大げさ過ぎるような気もするが、ここは甘える事にしよう。
先に乗るように促されて僕とアーサーは馬車に乗り込んだ。
進行方向を背にする側にアーサーと腰を下ろすとギルドマスターが乗り込んでくる。
僕達が御者側に座っているのを見てちょっと口元を緩ませたが、すぐに向かい側にドカッと腰を下ろした。
馬車がゆっくりと走り出し、徐々にスピードをあげていく。
あっという間に王都に入る門へと辿り着き、冒険者ギルドの前で止まった。
御者が開けてくれた扉からギルドマスターは颯爽と降り立つ。
僕とアーサーもその後に続いて冒険者ギルドの中に入った。
「こっちに来なさい」
先日案内された応接室へと通され、三人でソファに腰を下ろす。
どう見ても既視感が拭えない。
二日続けてこんな状況になるなんて予想すらしていなかった。
腰を下ろすとギルドマスターが僕達に手を差し出してきた。
「君達が持っている依頼書を見せてもらえるかな?」
「あ、はい」
アーサーがポケットから依頼書を取り出してギルドマスターに渡す。
ギルドマスターはそれを受け取るとテーブルの上に広げた。
「…ランクの文字を書き換えた跡があるな」
ギルドマスターの言う通り、ランクの表示の所に書き換えた跡が見えた。
下の文字までは判別できないが、消して書き換えたというのは判断出来る。
ボードに貼ってある時には気にならなかったが、こうして改めて見てみると違和感がぬぐえない。
「…誰が一体こんな事を…」
思わず呟いたけれど、個人の特定は出来なくてもギルド関係者である事は明白だ。
冒険者の誰かがランクを書き換えて、AランクからEランクに貼り替えるなんて業が出来るとは思えない。
ギルドマスターもそれがわかっているから、先ほどから苦虫を噛み潰したような表情を見せている。
「身内を疑いたくはないが、十中八九うちの職員の仕業だろうね。ランクを書き換えるなんて、一体どういうつもりでこんな事をしたのか問い質す必要があるな」
そういうとギルドマスターは自分の右手を横の何もない空間に伸ばした。
ギルドマスターの右手が空中で消えたように見える。
「「え?」」
僕とアーサーの驚きの声が重なる。
すると、空中に消えたギルドマスターの腕が再び現れたかと思うと透明な水晶玉がその手に握られていた。
ギルドマスターは僕達に向かって人差し指を口元に当てた。
「僕が亜空間を持っているのは内緒だよ」
なんと、ギルドマスターは亜空間ポケットなるものを持っているそうだ。
何とも羨ましい話ではある。
ギルドマスターは取り出した水晶玉を依頼書の上に乗せた。
「この依頼書がどんな時を過ごしてきたのか、この水晶玉に映るようになるんだ」
そう言ってギルドマスターは水晶玉に魔力を流し始めた。




