199 反省
ギルドマスターがテーブルの上にある呼び鈴を鳴らすと先ほどの受付の女性が箱を持って現れた。
ギルドマスターはその箱に切り落としたドラゴンフライの羽根と頭と身体を入れた。
受付の女性は手早く蓋を閉めると箱を抱えて僕達に向かってお辞儀をすると応接室から出て行った。
彼女が応接室から出ていくとギルドマスターは再び僕達の向かい側に腰を下ろした。
「さてと」
ギルドマスターは僕とアーサーを交互に見つめる。
僕達はお説教を受ける子供のように身体を縮こませた。
「駆け出しとはいえ冒険者になった以上は責任を持って依頼を達成してもらいたいね。今日のように第三者の手を煩わせるのはルール違反だぞ」
ギルドマスターに指摘され僕とアーサーはますます身体を縮こませる。
ギルドマスターの言う事は至極真っ当で僕達は何の反論も出来ない。
「Eランクの依頼に手こずっているようではDランクに上がると苦労するぞ。何しろほとんどが魔獣に関する依頼だからな」
ギルドマスターの言う通り、植物採取、昆虫採取を経たからにはその次に来るのは魔獣なのは間違いない。
それなのにこんな昆虫採取で躓くようでは先が思いやられる。
「今は依頼が少ないからこそ、受けた依頼は確実にこなしてもらわないとね」
ギルドマスターはフッと口元を緩めた。
「それじゃ受付で報酬を受け取って帰り給え。次からはこういう事がないようにな」
「は、はい。ありがとうございます」
僕とアーサーは立ち上がってギルドマスターに頭を下げると応接室を後にした。
そのまま受付に向かうと受付の女性が僕達に報酬を渡してくれた。
「こちらが今回の報酬になります。ありがとうございます」
受付の女性に頭を下げられ僕は何ともいたたまれない気分になる。
「…どうも」
それだけを告げて報酬を受け取ると僕とアーサーは冒険者ギルドの建物を後にした。
いつもはあっけらかんとしているアーサーも今日ばかりは無言で僕の隣を歩いている。
どちらからともなくピタリと足を止めて盛大なため息をついた。
「…なんだか自信をなくしちゃうな」
ポツリと呟くアーサーに僕もしみじみとうなずいた。
「…そうだね。だけどギルドマスターの言う通り、きちんと依頼をこなさないと駄目だよね。今日みたいに他人の力を当てにするなんて事をしちゃいけないよね」
ドラゴンフライを結界に閉じ込める事が出来たのだから、そこから自分達でどうにかして羽を切り落とせば良かったのだ。
誰かにどうにかしてもらおうなんて甘い考えを持つべきじゃない。
すると、突然アーサーが「うー」と唸り声をあげたかと思うとパッと顔を上げて叫んだ。
「やめたやめた! こんな風に落ち込むなんて僕らしくもない! 過ちは繰り返さなきゃいいんだ!」
思い切り叫んだおかげで吹っ切れたらしく、アーサーはいつものようにニッと笑った。
「エド。報酬も貰った事だし、何か美味しいものでも食べに行こうよ。ちょっとくらい奮発してもいいよね」
アーサーのいたずらっぽい笑顔に僕の気分も随分と和らいでいく。
「そうだね。たまには贅沢しても怒られないよね」
僕とアーサーは飲食店が並ぶ通りへと足を向けた。




