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197 捕獲完了

 僕はドラゴンフライに向けて手のひらから魔力を放出させた。


 手のひらからあふれ出た魔力がドラゴンフライの身体を丸く包み込む。


「…出来た」


 先日、ビッグアントの巣を包み込んだのと同じ結界でドラゴンフライの身体を包み込んだのだ。


 結界に閉じ込められたドラゴンフライはそこから逃げようと結界に体当たりしているが、そんな事で壊れるような結界ではない。


「…エドってば…」 


 アーサーの呟きに振り向くと、何とも言えない表情をしたアーサーがいた。


「今、僕が頭を悩ませている間にあっさりとドラゴンフライを捕まえちゃうんだからな。しかも何だよ、あの結界は! 結界を作れる事にも驚きだけど、あんな形に出来るなんて聞いてないよ?」


 アーサーは一気にまくし立てると、「はぁー」とこれ見よがしなため息をついてみせる。


「まあ、今更エドに言っても仕方がないか。やっぱりその規格外なのは…」


 そう言いかけてアーサーは口をつぐんだ。


 アーサーが何を言いたいのかは嫌でも僕にはわかった。


『王族の血を引いているから…』と言いたいのだということも。


 やはり王族の血を引いているというのは特別な事のようだ。


 学院の魔法の授業でも、他の生徒達は魔力の限界に達していても僕だけは平然としていられた。


 そんな僕を見てマーリン先生は嬉々としていた。


『流石はヴィーの血をひいているだけはありますね。それではこちらも教えてみましょうか』


 そう言って他の生徒達が魔力を回復させている間に次々と新しい魔法を僕に叩き込んだ。


 えこひいきをされている感が否めなかったが、クラスメイト達は誰一人としてそんな不満は口にしなかった。


 大概こういう待遇の差に敏感な奴がいて凶弾してくるのがクラスの中に一人や二人は居そうなものだが、僕のクラスにはそんな奴はいなかった。


 皆きっと精神が大人だったんだろうか?


 そんなクラスメイトの態度に首を傾げつつも僕は次々と新しい魔法を習得していった。


 今使った結界の魔法もそのうちの一つだ。


 もっともマーリン先生に教わったのは地面にドーム型に作る形の結界だった。


 その結界を更に進化させて、結界を壊す事なく魔法を注ぎ込めるようにもした。


 今、ドラゴンフライを包んでいるような球体は今回初めて作った。


 成功するかどうかは分からなかったが、なんとかドラゴンフライを生け捕りに出来てホッとした。


「捕まえられて良かったよ。ドラゴンフライは一匹でもいいのか?」


 そう尋ねるとアーサーはガサガサと依頼書を開いた。


 依頼書の文字を目で追っていたアーサーは、読み終えると顔を上げた。


「特に何匹とかの指定はないな。この一匹だけで十分みたいだね」


 それを聞いて僕はホッとした。


 こんなデカいトンボにうじゃうじゃ出て来られるのは勘弁してほしい。


 ドラゴンフライが入った結界を持ち上げると、ドラゴンフライはさらに結界に向かって突進してくる。


 ギョロリとした目が僕を睨みつけている。


 ちょっと可哀想な気もするが、依頼を受けた以上仕方がない。


「それじゃギルドに行こうか。ギルドならこれをどうしたらいいか知っているだろう」


 僕はマジックバッグを開けるとその中に結界の球体ごとドラゴンフライを放り込んだ。


 アーサーはそんな僕を見てヒョイと肩をすくめると僕と並んで歩き出した。



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