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196 ドラゴンフライの捕獲

 大きなトンボは僕達の方に向かって飛んできた。


 僕が慌てて身体を避けると僕の脇をかすめるようにスッと通り過ぎて行く。


 その横幅はかなり大きく50センチはありそうだ。


 大きな目玉はピンポン玉くらいの大きさでギョロリと僕を睨んでいった。


 通り過ぎる瞬間、透き通るような羽がキラキラと七色に輝くのが見えた。


 アーサーもドラゴンフライの大きさにポカンと口を開けている。


 ドラゴンフライはそのままどこかへ飛び去って行ってしまった。


「…な、なんだあれ?」


 ドラゴンフライが飛び去ってしばらくしてようやくアーサーが絞り出すように呟いた。


「…あれがドラゴンフライ?」


 僕の声もなんだかかすれている。


 あんな大きさならば「ドラゴンフライ」と呼ばれる事にも納得だ。


 だが、あんな大きなトンボをどうやって捕らえたらいいんだろうか?


 依頼書には「ドラゴンフライの羽根」とあったが、どのような状態で採取したものが必要なんだろうか?


 羽根を一切傷つける事なく採取するのなら、ドラゴンフライを生け捕りにするような形にしないといけないんだろうか?


 どんな状態の羽根でもいいのなら、飛んでいるドラゴンフライを攻撃して倒してから採取も出来るが…。


 その場合、必要なだけの羽根が取れるという保証はない。


「アーサー、依頼書を見せて」


 アーサーは一瞬、虚を突かれたような顔をしたが、すぐに「ああ」と応じた。


 ポケットから出した依頼書を僕に手渡してくる。


 僕は依頼書を受け取ると「注意事項」と書かれた箇所を読んだ。


『注意事項:ドラゴンフライの羽根は完璧な状態のものを一匹分採取する事。傷一つない状態である事』


 そう書かれていた。


「何だよ。何が書いてあったんだ?」


 依頼書を覗き込んでくるアーサーに僕は注意事項の部分を指差した。


「ほら、ここ。どうやらあのドラゴンフライは生け捕りにしないと駄目らしいよ」


 依頼書に目を通したアーサーは「ええっ!」と素っ頓狂な声を上げた。


「何だよ、それ! あんなにドラゴンフライが大きくて、しかも生け捕りにしないといけないとわかっていたら、この依頼書を受けなかったのに。こんな小さな文字じゃなくてもっとデカデカと書いてくれよ」


 そんなに文句を言っても、その依頼書を剥がしてきたのは君だからね。


 まあ、僕もその場で確認しなかったのだから、アーサーだけを責められない。


 それにしてもこの世界の昆虫はどうしてあんなに大きいんだろう?


 何か特別に大きくなるような条件でもあるのかな?


 そんな疑問はさておいて、あの大きなトンボをどうやって生け捕りにするかが問題だ。


「…いっその事、この依頼書を元に戻すかな…」


 そう呟くとアーサーは首をブンブンと振って否定した。


「駄目だよ! 一度はがした依頼書を元に戻したら、ポイントが減らされるんだ」


 え?


 そんな話は初耳だ。


 ただの紙切れだと思っていたが、どうやら魔道具の一種らしい。


 せっかく貯めたポイントが減らされるのはちょっと癇に障る。


 だが、どうやってあの大きなトンボを生け捕りにしたらいいんだろ?


 普通の大きさのトンボなら網を使って捕まえる事も出来るが、あの大きさのトンボを捕まえるには相当大きな網でないと無理だ。


 それに、そんな大きな網を振り回したってドラゴンフライが捕まるわけがない。


 そうなると罠を仕掛けてドラゴンフライを捕まえるのが一番確実だ。


 だが、どんな罠を仕掛ければいいのか?


 今この場で出来る罠って何があるんだろう?


 悩んでいる僕の視界にドラゴンフライの姿が見えた。


 何かの虫を捕まえて捕食しているようだ。


 じっとその場から動かないドラゴンフライを見て僕はある方法を閃いた。


 そうだ!


 この方法なら…。


 僕はそっとドラゴンフライに近づくと、ドラゴンフライに向けて手のひらを向けた。



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