193 ローリーポーリーの捕食者
草をかき分けながら進んでいくと、またしてものそのそと這っているダンゴムシを見つけた。
先ほど拾った枝でダンゴムシをチョイチョイと突いて刺激を与えると、クルリと身体を丸くして動かなくなった。
それを拾うとマジックバッグの中にポンと放り込む。
「なぁ、アーサー。ローリーポーリーがマジックバッグの中で這い回ったりはしないのか?」
マジックバッグに入れたものの、中でゴソゴソと這い回っているんじゃないかと気になった。
それに取り出す時にあの足が手に触れるんじゃないかと思うとゾワゾワとする。
アーサーは捕まえたダンゴムシを自分のマジックバッグに入れながら僕を振り返った。
「それなら大丈夫だよ。マジックバッグの中は時間が止まっているって聞くから、丸くなった状態のままのはずだよ」
そう言われて植物採取をした時の事を思い出した。
あの時もマジックバッグに入れた植物はまったくしおれていなかったっけ。
そこで僕はちょっと怖い事を思ってしまった。
マジックバッグの中に生きた人間を入れたら、齢を重ねることもなく何年も過ごせるんじゃないかと。
僕はその考えにブルリと身体を震わせると恐る恐るアーサーに問いかけた。
「ねぇ、アーサー。マジックバッグに生きている人間を入れたらどうなるんだ?」
アーサーは草をかき分けていた手を止めてまじまじと僕の顔を見つめてきた。
「何をバカな事を言ってるんだよ。生きている人間はマジックバッグに入らないようになっているんだよ。万が一間違って入ったとしてもすぐにマジックバッグから弾き出されるんだってさ」
アーサーの答えを聞いて僕はホッとした。
もしそんな事が出来るんだったら何に悪用されるかわかったもんじゃないからね。
マジックバッグの開発者もそれを考えたんだろう。
その後も順調にローリーポーリーを捕まえていると、向こうの方でガサガサという音が聞こえた。
「何だ? 何かいるのかな?」
アーサーが音のした方へと向かって行くが、何がいるかわからないのに無警戒な姿に僕は焦った。
「アーサー、気をつけ…」
「うわあああっ!」
僕の声とアーサーの叫び声が重なった。
僕はすぐにアーサーの所へ駆け寄った。
そこには大きなダンゴムシを捕食しているヘビがいた。
そのヘビは丸くなる前のダンゴムシを悠々と丸呑みにしている。
その異様な光景に僕とアーサーはその場に突っ立ったまま眺めている事しか出来なかった。
ヘビはゆっくりと時間をかけてダンゴムシを呑み込んでいった。
ヘビの身体の一部が少し膨らんでいるのはあそこにダンゴムシがいるからなのだろう。
ヘビはダンゴムシを捕食し終わるとじっとその場から動かなくなった。
「アーサー、今のうちにここから逃げよう」
僕はこっそりとアーサーに耳打ちをした。
ヘビが僕達を襲ってくるとは思えないが、万が一の時は警戒だけは怠らない方が良さそうだ。
「あ、ああ…」
放心状態だったアーサーは気を取り直したようにうなずくと、そっと後ろへと後ずさりをした。
ヘビから目を離さないように後ずさりをしていたが、何かに躓いたのかアーサーが不意にバランスを崩してその場に尻餅をついた。
「痛っ!」
アーサーの叫び声にヘビがサッと頭を持ち上げた。
僕達の姿を認めたのか「シャー!」と口を大きく開けてこちらを威嚇してくる。
その大きな口には鋭い牙がキラリと光っている。
まさか、僕達を襲うつもりなのか?
アーサーは尻餅をついたまま、立ち上がる事が出来ないようだ。
僕はアーサーの前に立つと、腰に下げた剣の柄を握った。




