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185 卒業式の後

 卒業生の全員が卒業証書を受け取ると、学院長からの祝辞となった。


「卒業生の皆さん、ご卒業誠におめでとうございます。これから皆さんは様々な方面へと進んでいかれますが、学院の卒業生として立派にやっていかれる事と信じております」


 そこまで言ったところで、学院長は突然ポロポロと涙をこぼし始めた。


 まさか学院長が泣き出すとは思っていなかったから、誰もが皆唖然とした顔になった。


 学院長は胸ポケットからハンカチを取り出すとゴシゴシと目元を拭った。


 あまり強く擦ったので目の周りが真っ赤になっている。


 その顔があまりにもおかしくて笑いそうになったけれどグッとこらえた。


 周りの皆も笑いを堪えているのか、キュッと唇を噛み締めている人もいる。


「いや、失礼しました。私が学院長を務めている間にこうして王族の方の卒業式を行えるなんて…。これ以上の喜びはありません。エドワード王子、誠におめでとうございます」


 やれやれ。


 学院長が特定の生徒の卒業を祝っても良いのかな?


 そう思っていると、学院長も流石にマズイと思ったのか、コホンと一つ咳払いをした。


「と、とにかく、これからの皆さんのご活躍をお祈りいたします。本日は誠におめでとうございます」


 学院長はそう告げると一礼してそそくさと壇上から降りていった。


 少し呆れたような顔をしていたディクソン先生だったが、学院長が壇上から姿を消すと気を取り直したようにマイクの前に立った。


「学院長、ありがとうございました。以上で卒業式は終了いたします。これから卒業生の皆さんが退場されますので拍手でお送りください」


 ディクソン先生に促され僕達は立ち上がった。


 入場の時と同様にエドワード王子を先頭にして出口に向かって歩き出す。


 退場するのはいいんだけれど、保護者や在校生の顔が僕達の方に向いているからちょっと気恥ずかしいんだよね。


 なるべく座っている人達の顔を見ないようにまっすぐに前を向いて歩き出した。


 ホール内に拍手が鳴り響く中を歩く僕の目の端に義両親の姿がチラリと見えた。


 義母様はハンカチを握りしめていて目を赤く潤ませていた。


 その顔を見た途端、鼻の奥がツンとしてきたが、グッとこらえてホールを後にした。


 そのまま校庭の方に向かい、家族がホールから出てくるのを待った。


 女子生徒の中には鼻をグズグズ言わせている人がいた。


「母上ったら鼻を真っ赤にして泣いてるんだけど…」


 アーサーがブツブツ言っているけれど、そういうアーサーだって目の端が赤くなっているんだけどね。


「やあ、エドアルド。卒業おめでとう」


 そんな言葉が僕の耳に飛び込んできた。


 誰の声かなんて振り返らなくともわかるけれど、無視していると余計に面倒な事になりそうだ。


「またまたそんな事を。そういうエドワードだって卒業じゃないか」


 声がした方に顔を向けると、エドワード王子がブライアンとクリフトンと共に立っていた。


「明日からエドアルドと学院で会えないなんて残念だよ。いっその事私も冒険者になろうかな」


 エドワード王子の軽口にブライアンとクリフトンが思わず目を見開いている。


「エドワード王子! 何を仰っているんですか!?」


「そんな危険な事はおやめください!」


 ブライアンとクリフトンの抗議にエドワード王子はヒョイと肩をすくめた。


「残念ながら私にはそんな事は許されないようだ」


 残念がってみせているけれど、許可されないってわかって言っているんだからたちが悪いよね。


 そんな僕達を他の卒業生達が何故か遠巻きに見ているのは気の所為だろうか?


 いや、きっと気の所為に違いない。


 だが、この時の僕は気づいていなかった。


 卒業生だけでなくその保護者達までもが僕達の事を微笑ましいものを見るような目で見ていた事を。


 こうして僕の学院生活は終わりを告げた。

 

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