表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

184/208

184 卒業式

 ホールの入り口付近に到着すると、そこには既に上位貴族の卒業生達が待機していた。


 それぞれ在校生達によって制服の左胸に花の形のコサージュを付けられている。


 在校生達は僕達が到着したのに気づいてこちらに寄ってきた。


「ご卒業おめでとうございます。コサージュを付けさせていただきます」


 コサージュを付けてくれるのが男子生徒なのは色気がないけど、変に男子生徒と女子生徒が密着するのを避けるためだから仕方がない。


 コサージュを付けてもらうと僕達は整列をしてホールへの入場を待った。


「それでは卒業生の皆さんにご入場いただきます」


 ホールの中から高らかな声が聞こえてホールの入り口が開けられた。


 先頭にいるのは勿論エドワード王子だ。


 皆が見守る中、卒業生達が入場するのだが、僕は正面にあるスクリーンを見てギョッとした。


 以前、国王の告白の際に設置されたスクリーンはそのまま撤去もされなかったが、そこに僕達が入場する姿が映し出されていたのだ。


 まさか、この卒業式を国内全体に中継しているわけじゃないよね?


 誰かにそう聞きたかったが、そんな状況でないのは明白だ。


 僕は必死に表情を取り繕うと自分の席へと足を進めた。


 卒業生全員が入場を終えるといよいよ卒業式が始まった。


 開式の言葉が述べられた後、卒業証書の授与式である。


 一人一人の名前が呼ばれ、壇上に上がって学院長から卒業証書を受け取る。


 当然の事ながら、そのシーンも後ろのスクリーンに映し出された。


 真っ先に名前を呼ばれたのはエドワード王子だ。


 名前を呼ばれたエドワード王子は「はい」と返事をすると壇上に上がっていった。


 エドワード王子の顔がスクリーンに大写しになると、一部の女子生徒から「ほう」とため息が漏れている。


 本当にあのエドワード王子と僕が瓜二つなんて信じられないな。


 学院長から卒業証書を受け取ったエドワード王子はホール内を軽く見回してニコッと笑顔を見せた。


 その笑顔にまたしても女子生徒達からため息が漏れる。


 何とも気障な奴だな。


 エドワード王子が壇上から降りると、ブライアン、クリフトンと続いていった。


 上位貴族が終わると今度は僕達の番だった。


 子爵家の生徒達の後で僕の名前が呼ばれた。


「はい」と返事をして壇上に上がったが、緊張していたのかどうかはわからないが、何故か足がつんのめってしまった。


「うわっ!」


 必死に体勢を立て直したのですっ転ぶ事はなかったが、何故か黒縁眼鏡が顔からずり落ちそうになった。


 すぐに何事もなかったかのように眼鏡の位置を戻したから、誰にも見られなかったに違いない。


 正面にいる学院長も澄ました顔を崩していない。


 僕は卒業証書を受け取ると、少し顔を伏せるようにして自分の席へと戻った。


 ******


 エドアルドが危惧したとおりに国内に設置されたスクリーンには学院の卒業式の様子が映し出されていた。


 人々は皆一様に集まって卒業式を見届けていた。


「あれが、エドワード王子様? とっても素敵な方ね」


「お若い頃の王妃様によく似ていらっしゃるわ」


「いや、国王陛下の面影もあるぞ」


 人々はそのうち、一人の男子生徒を見てハッとした。


 その男子生徒は壇上に上がると何かに躓いたようで転びそうになっていた。


 体勢は立て直したものの、かけていた黒縁眼鏡が顔から盛大にズレていた。


「あ、あれは!」


 エドアルドはすぐに眼鏡を直したつもりでも、その素顔は間違いなく全国民にさらけ出されてしまっていた。


 人々はすぐにそれが『もう一人の王子』だと悟ったが、誰も声に出して言ったりはしなかった。


(国王陛下が公表しない以上、自分達が声を上げるわけにはいかない)


 そこには確かに暗黙の了解が交わされていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ