179 国王の告白の裏側(サイラス視点)
サイラスはスクリーンへの魔力の供給のスイッチを切って、映像が遮断されたのを確認するとホッと安堵の息を漏らした。
少し離れた場所に座る国王も、少し疲れたように額に手を当てている。
(やっと終わったか…。このスクリーンを開発してくれた魔道具師達には相応の報酬を与えないとな…)
サイラスは改めて正面に設置されたスクリーンを見つめた。
この部屋にも国内各地に設置した物よりコンパクトなスクリーンが置かれている。
それを見て今どんな映像が流されているのかを確認していたのだ。
サイラスは椅子から立ち上がると疲れた様子の国王のもとに近寄った。
「陛下、お疲れ様でした。お茶を入れさせましょうか?」
サイラスの声がけに国王は顔を上げたが、すぐに軽く首を横に振った。
「いや、いい。このまま執務室に向かう」
「かしこまりました。私はここの片付けをしてから向かいます」
サイラスは後ろに控える護衛騎士に合図を送って、国王の近くに来させた。
国王は立ち上がると護衛騎士達を連れて部屋から出て行く。
その後ろ姿を見送ってサイラスは今一度、スクリーンに目をやった。
(このスクリーンを開発するのに三年近くかかるとは…。長かったな…)
サイラスはその三年の年月に思いを馳せた。
元々サイラスは現在の王家の状況に危機感を持っていた。
いつエドアルドという存在がいる事を誰かに嗅ぎつけられるのではないかと危惧していた。
ましてや、国王自らが自分の息子を捨てたなどと言う事が発覚しては、今後の王政にも差し障りがある。
いかに国王の行動を正当化させるかをサイラスは模索した。
初めは国内に文書で通達する事を考えた。
だが、国民の中には文字に疎い者もいる。
そんな人物に人伝えに話が伝わっては、どこかで歪曲されないとも限らなかった。
(国民に一斉に話が出来ればいいのだが…)
流石に国内全部を渡り歩いて話をするわけにもいかなかった。
悩んでいるサイラスの目にふと、壁にかけられた肖像画が映った。
(…あんなふうに国王の絵をあちこちに置いて、その絵が喋ってくれたらな…。そうだ!)
サイラスは肖像画のように、国王の姿を何かに移して話をさせる事を思いついた。
だが、魔道具に明るくないサイラスには至難の業だった。
そこで国内にいる選りすぐりの魔道具師達を集めて開発を行わせた。
その結果、出来たのが国内各地に設置された大型スクリーンである。
馬鹿みたいに魔力を使うが、各地を行脚して回る事を思えば安いものだった。
そして、今日こうして全国民に向けて話をしたのである。
ただ話をさせただけではなく、スクリーンからは暗示の魔術が放出されるようにした。
国王がエドアルドを捨てたのは、この国の未来を案じたためであり、苦渋の決断であった事を強調するためだ。
その上で、成りすましを避けるために、『王子の名を騙った者は厳罰に処す』と告げたのだ。
もっとも、エドアルドが何処にいるかは既に把握しているので、偽物に騙される事は無い訳だ。
こうして国王が自らの罪を国民に向けて発信するという前代未聞の出来事が行われた。
エドアルド本人には事前に伝えなかったが仕方がない。
サイラスにとって一番大事なのは王国の安定である。
これで国王が糾弾される事はない。
サイラスはスクリーンをそっとひと撫ですると、執務室へと向かうべく部屋を出た。




