177 国王の告白
三年ぶりに顔を見る国王陛下は、記憶の中の姿より若干老けて見えた。
毎日顔を合わせていれば多少の変化には気づかないだろうけれど、久しぶりに見るから余計に老けて見えるのかもしれない。
国王陛下はすぐには口を開かずに、まっすぐに正面を向いていたが、すぐ横にいるらしい宰相に促されて重い口を開く。
「全国民の諸君。フィリピン・アルズベリーである。本日は私の罪を告白するために今ここにいる」
『私の罪』!?
その言葉に僕の心臓はドクリと脈を打つ。
まさか!?
僕の事を公表するつもりなのか!?
国王陛下の言葉にホール内にもざわりとした空気が漂う。
そんな空気が伝わっているかのように、一瞬黙った国王陛下が再び口を開く。
「私は今から十五年前、生まれたばかりの私の息子を手放した。何故なら私の息子は双子で生まれたからだ。アルズベリー王国の国民ならば誰もが知っているだろう。かつて双子の王子が王位を争い、その結果多くの血が流された事を! 私は何としてもそんな事態を回避したかった。王妃が双子を産んだ自覚がないのを良いことに、双子のうちの一人を手放したのだ!」
国王陛下の告白を受けてホール内には大きなざわめきが走る。
「お静かに! まだ国王陛下の話は終わっていませんよ!」
ディクソン先生の注意を受けて、ホール内に少しばかりの静寂が戻る。
「私は人知れず息子の一人を郊外の孤児院に連れて行くように命じた。貴族の養子にすれば、また新たな火種になりかねないと判断したからだ。王子とは知らずに育った方がその子にとって幸せだと思い込んだのだ。だが、その途中でその息子は誰かにさらわれてしまった!」
はあっ!?
何嘘ついてんだよ!
あの時、サラはちゃんと孤児院の前に僕を置いていったぞ!
思わず心の中でツッコんだが、「待てよ」と思い返した。
ここで正直に言えば、すぐに僕がその王子だと特定されてしまうだろう。
そもそも、本当に公表するのなら、僕とエドワード王子を一緒に並べてお披露目をすれば済む話だ。
そうなれば僕は王子として王宮に入らざるを得なくなるだろう。
すると当然僕とエドワード王子の間で王位継承権争いが生まれる。
いや、僕とエドワード王子が争わなくても、他の貴族達がどちらを次期国王にするかで争いが起きないとも限らない。
だからこそ、もう一人王子がいるとは告白しても、それがどこの誰かを公表しないのだろう。
「私は攫われた子を探さなかった。それがきっと神からの思し召しだと思ったからだ。神もまた、王位継承権争いが起こるのを危惧されていたのだろう」
国王陛下はそこで一旦顔を伏せると、徐に顔を上げて力強い目で正面を見据えた。
「もう一人の私の息子よ! 私を許してくれとは言わん! だが、今も何処かで元気で暮らしておると信じている! どうかそのまま自由に暮らしていってほしい! 私と王妃は心からそう願っておる!」
そう訴える国王陛下の目から一筋の涙が零れ落ちた。
途端にしんと静まり返ったホールのあちこちからすすり泣きのような声が上がる。
え?
なにこれ?
まさかのお涙頂戴?
周りの反応に驚いていると、僕の隣からも鼻をすする音が聞こえた。
えっと思って隣を見ると、目をウルウルさせたアーサーが鼻をすすっている。
「エドアルド。いい話だったね。もう一人の王子も幸せだといいね」
いや、ちょっと待て!
アーサーはその王子が僕だと知っているはずだろう!?
なんでそんな言葉が出てくるんだよ!
そうツッコみたいけれど、ツッコめない。
そんな事をしたら僕がその王子だとみんなにバレてしまう。
僕は頬を引き攣らせ「…そうだね」と答えるだけだった。




