172 エドワードの報告
エドワード王子はすぐには口を開かずにもったいぶったような笑顔を見せている。
アンジェリカ王女との婚約が決まったからそんなに嬉しそうな顔をしているんだろうか?
それに比べてエドワード王子の隣に座るブライアンは、僕達から顔をそらして明後日の方向を向いている。
エドワード王子にベッタリのブライアンとしては、アンジェリカ王女にエドワード王子を取られたような気分になっているのだろうか?
そんな事を考えつつエドワード王子をじっと見つめると、エドワード王子はようやく口を開く。
「エドアルドが私の代わりをしてくれたおかげで、アンジェリカ王女とブライアンとの婚約が決まったんだ」
「は?」
今、ブライアンと言ったのか?
「アンジェリカ王女とブライアンの婚約? え? なんで?」
耳に入った言葉が信じられなくて、思わずエドワード王子に確認してしまう。
何が嬉しいのかエドワード王子はずっとニコニコ顔のままだ。
「そうだよ。ブライアンとアンジェリカ王女が婚約したんだ。先日、サウスフォード王国から正式な打診があってね。どうやらアンジェリカ王女は私ではなくブライアンがお気に召したらしいんだ。ブライアンの家は公爵家だし、過去には王女が降嫁した事もあるからね。隣国の王女が嫁ぐには申し分ないと判断されたようだ。それに…」
一旦言葉を切ったエドワード王子はチラリと隣のブライアンに視線を向けた後、内緒話をするように口の横に手を当てた。
「ブライアンもアンジェリカ王女に一目惚れしたそうだよ」
「エドワード王子!」
ブライアンがエドワード王子の名前を呼ぶがその顔は真っ赤になっている。
さっきからブライアンの態度が妙だと思ったら、自分がアンジェリカ王女と婚約したからだったんだな。
それにしてもブライアンがアンジェリカ王女に一目惚れねぇ。
道理で晩餐会でもお茶会でもアンジェリカ王女と積極的に話をしていたはずだよ。
こんな事ならわざわざ僕がエドワード王子の身代わりなんてする必要はなかったんじゃないだろうか?
それにしても、エドワード王子はアンジェリカ王女との婚約話が流れて良かったのだろうか?
ブライアンに横取りされたような形になって悔しくないのかな?
「エドワードはアンジェリカ王女と婚約しなくて良かったのか?」
「まぁね。そもそも会ってもいないアンジェリカ王女と婚約と言われてもピンと来ないしね。それよりもエドアルドこそアンジェリカ王女の事は良かったのか?」
エドワード王子の顔が一瞬真顔になるが、そんな気遣いは不要だ。
「端から僕の相手ではないとわかっているから、そんな目でアンジェリカ王女を見てはいませんよ。それに僕の好みのタイプではなかったので…」
「そうなのか。良かったな、ブライアン」
エドワード王子のからかうような口調にブライアンはますます僕達から顔をそらしている。
あんまりからかわない方がいいと思うけどね。
どっちにしてもサウスフォード王国の王女とこの国の宰相の息子が婚約した事で、両国の友好はますます深まっていくことだろう。
将来、冒険者になったとしても隣国と行き来がしやすいのは良いことである。
「おめでとう、ブライアン」
ブライアンに祝福の言葉を述べると、ブライアンはようやく僕に視線を合わせてきた。
「…ありがとうございます」
ペコリと頭を下げたブライアンの顔は相変わらず真っ赤だった。




