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171 待ち伏せ

 ようやく、おたふく風邪による頬の腫れも引いて久しぶりに登校した。


 小さい頃から病気知らずで育ってきたのにこんなところで病気になるとは思わなかった。


 クラスの中でおたふく風邪に罹っていなかったのは僕だけだったらしく、他の人に広がる事はなかった。


 他の人に移してしまったのではと心配していたが、そんな事にはならなかったようでホッとした。


 アーサーも僕と出会うよりも前の小さい頃に兄から感染したそうだ。


 聞いたところによると、エドワード王子のクラスも他におたふく風邪に罹った生徒はいなかったようだ。


 とはいえ、エドワード王子がおたふく風邪に罹っていた事は内緒なので、流行しなくて何よりだった。


 教室に入ると、僕を目ざとく見つけた生徒に声をかけられた。


「エドアルド君、もう学院に来て大丈夫なのか?」


「ああ、おはよう。ようやく頬の腫れが引いたからね。お医者さんに『もう登校して大丈夫だ』ってお墨付きをもらったんだ」


「お墨付き?」


 しまった!


 この世界ではそんな言葉は使わないんだっけ!?


「い、いや、許可をもらったんだ」


 慌てて言い換えると、その生徒は少し首をひねりながらも「そうか、良かったな」と言ってまた他の生徒と話し出した。


 余計な詮索をされずにホッとしつつ、僕は自分の席に着いた。


 



 授業を終えて帰ろうとスクール馬車に向かっていると、またしてもブライアンに捕まえられた。


「エドアルド様、私と一緒に来てもらえますか?」


 そう言ってきたブライアンだったが、なんだかちょっと目が泳いでいる。


 そんなブライアンの表情を不思議に思いつつも、僕とアーサーはブライアンについていった。


 前回のように無理難題を言われるのかと身構えつつも、アーサーも一緒に呼ばれた事でそれはないとも思った。


 ブライアンについていくと、またしても目立たない馬車がそこに待機していた。


 ブライアンが開けてくれた扉から馬車の中に入ると、そこにはやはりエドワード王子が座っていた。


「やあ、エドアルド。アーサー君も早く乗ってくれ」


 渋々と僕とアーサーが馬車に乗り込むと、ブライアンも最後に乗り込んでエドワード王子の隣に腰掛けた。


 僕達が腰を下ろすと馬車はゆっくりと走り出した。


 今日のお昼休みに食堂で会わなかったからホッとしていたら、まさかの待ち伏せである。


 もしかしたら、授業には出ていなかったのかもしれないな。


 一体何の話があるのだろうかと身構えていたら、向かい側に座ったエドワード王子がクスッと笑いを漏らした。


「そんなに身構えなくて大丈夫だよ。食堂で出来るような話じゃないからここに呼んだんだ」


 エドワード王子の言う通り、食堂では他の生徒達がいるから、込み入った話が出来ないのはわかる。


 だからといってこんな馬車の中で話しても大丈夫なんだろうか?


 御者の人が聞いていたりしないのかな?


 僕がチラリと御者がいる方に視線を向けると、エドワード王子は僕の考えを察したようだ。


「大丈夫。この馬車には声を遮断させる魔道具が使われているからね。御者には僕達の話は聞こえないよ」


 流石は王宮で使われる馬車だな。


 そんな仕様が施されているとは驚きだ。


 だからこそ内緒話をするにはもってこいの場所だな。


 だけど、一体どんな話があると言うのだろうか?


「なるほどね。それで? 一体何の話があるんだ?」 


「先日、僕の代わりを務めてくれただろう? だから、エドアルドにもあれからどうなったかを報告しないといけないと思ったんだよ」 


 ニンマリと笑うエドワード王子に、僕はアンジェリカ王女との婚約話だと悟った。


 もしかして?


 アンジェリカ王女との婚約が決まったのか?


 僕は固唾を呑んでエドワード王子の報告を待った。



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