168 移動
翌朝、目覚めるとブライアンは既に起きていて着替えをしている途中だった。
「おはようございます。早く着替えないと間に合いませんよ」
そんな事を言うんなら起こしてくれてもいいのに、随分と冷たい奴だ。
そんな事をチラッと思ったが、必要以上に大きな音を立てて着替えていたところを見ると、ブライアンなりに僕を起こそうとしてくれたのだろう。
ベッドから起き上がって用意されていた服に着替えていると、ノックの音が聞こえてサラが入って来た。
朝食が乗ったワゴンを押して入ってくると、既に着替えを終えている僕達を見て軽く驚いていた。
「おはようございます。朝食をお持ちいたしました」
サラはテキパキと朝食をテーブルに並べながら僕達に話しかけてきた。
「先ほどエドワード様の様子を見に伺いました。片方の頬の腫れは引いていたのですが、後から腫れた方の頬はまだそのままでした」
つまり、こぶとりじいさん状態って事だな。
両方とも腫れが引いていたら、エドワード王子に出てもらいたかったのだが、そう上手くはいかないようだ。
それでも片方の頬の腫れが引いたとは順調に回復しているようで何よりだ。
今日のミッションが終わったら、家に帰る前にもう一度エドワード王子のお見舞いに行こう。
そう思いながら僕は朝食を食べ終えた。
朝食を終えてくつろいでいると、サラが宰相を連れて部屋に入って来る。
「おはようございます。王妃様のお茶会に参加されると聞いております。先ずは着替えに参りましょう」
宰相に促され、僕とブライアンは立ち上がって宰相に続いて部屋を出た。
本来は宰相がわざわざ迎えに来る事でもないのだが、僕とエドワード王子がこの棟に一緒にいる以上仕方がないだろう。
昨日と同じ部屋で、昨日とは違う衣装を着せられる。
一体エドワード王子は何着こんな衣装を持っているんだろう?
確かに同じ服ばかり着ていると、この国にはお金がないのかと邪推されかねないから、昨日とは違う服を着るのは当然だろうな。
ブライアンは今日は頭を整髪料で固められる事はなかった。
いつもの髪型にブライアンはどこかホッとしていた。
準備が終えて立ち上がった僕とブライアンの前に一人の侍女が進み出てきた。
「それでは、これより王妃様の所へご案内いたします」
「ああ、頼むよ。アメリア」
僕が彼女の名前を呼ぶと、アメリアは深々と頭を下げた。
あらかじめ宰相から、彼女の名前を聞いていたのだ。
アメリアはエドワード王子とは顔を合わせた事があるらしいが、僕がエドワード王子の替え玉だとは知らない。
そんなアメリアに僕がエドワード王子ではないと見破られないかとドキドキしたが、今のところアメリアは僕を疑ってはいないようだ。
アメリアに連れられて僕とブライアンは王宮の廊下を歩いて行く。
すれ違う使用人達に頭を下げられながら進むと、アメリアは一つの扉の前で立ち止まった。
その扉の前には護衛騎士が二人立っている。
アメリアは扉をノックすると部屋の中に向かって声をかけた。
「王妃殿下。エドワード様とブライアン様をお連れいたしました」
「どうぞ、入ってちょうだい」
部屋の中から王妃の声が聞こえた。
アメリアは扉を開けると、そのままそこに立って頭を軽く下げた。
僕とブライアンはアメリアが開けてくれた扉から中に入る。
そこはサンルームになっていて、庭に面した窓からは色とりどりの花が見渡せる。
窓際に据えられた丸テーブルには王妃が座って待っていた。
「おはよう、エドワード。よく眠れたかしら?」
扉が閉まったのを確認して王妃が声をかけてきた。
「おはようございます、母上。ぐっすり眠れました」
そう答えると王妃に促されるまま、王妃の向かい側に腰を下ろした。
ブライアンは僕と王妃の間に腰を下ろしたが、何処か居心地悪そうな顔が見え隠れしている。
そこへノックの音がして「アンジェリカ様がお見えになりました」と告げられた。
いよいよお茶会の始まりだ。




