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155 異変

 月日が流れるのは早いもので、僕は十二歳になり三年生へと上がった。


 以前から言っていたとおり、エドワード王子は時々公務に出るようになり、学院を欠席する事が増えた。


 エドワード王子の欠席に伴い、ブライアンとクリフトンも食堂に顔を出す事はなくなった。


 と言いたいが、ブライアンはともかく、クリフトンはエドワード王子がいなくても僕とアーサーの前に姿を現した。


 今日もまた、僕とアーサーが座っているテーブルにクリフトンが躊躇いもなく座ってくる。


「どうしてエドワード王子がお休みなのにクリフトンはこちらにやって来るんですか?」


 カトラリーを手にしようとしたクリフトンに質問をぶつけると、クリフトンはニコリと笑い返してくる。


「別に私はエドワード王子と行動を共にしているわけではありませんからね。私は私の意思でこちらに来ているんです」


 そんな爽やかな笑顔を向けられてもどう返してよいのか返答に困る。


 何が目的で僕に近づいてくるんだろう?


 まだエドワード王子と行動を共にしてくるブライアンの方がよっぽどマシだ。


 かと言って本人の意思でここに来ているのなら僕にそれを止める権利はない。


「そうですか。それならば僕には何もいう事はありません」


 クリフトンが勝手にここに来ているのなら、僕だってクリフトンの相手をしなくてはならないという義務はない。


 ただ単に同じテーブルについて食事をしているだけに過ぎないのだ。


 実際にクリフトンにしたって一緒に昼食をとるだけでそれ以上は僕に踏み込んできたりはしない。


 だが、それを言うならエドワード王子も一緒だな。


 この食堂に来て昼食を食べるけれど、特に僕に話しかけてくるような事はない。


 もっとも周りに他の生徒達がいるので、他人に聞かれて困るような話は出来ないと言った方がいいだろう。


 そんな日々が続く中、バッタリとエドワード王子が姿を見せなくなった。


 公務に出るにしても大概一日だけしか休まないのにもう三日も姿を現さなかった。


 来たら来たで煩わしく感じるが、急に姿が見えなくなると逆に不安を感じてしまうとは不思議なものだ。


 クリフトンもエドワード王子からは何も聞いていないようで「いったいどうしたんでしょうね」なんてこぼしていた。


 同じクラスのクリフトンが知らないのに僕にわかるわけがない。


 エドワード王子が姿を見せなくなって三日目の放課後、スクール馬車に乗ろうとした僕の前にブライアンが現れた。


「エドアルド様。申し訳ありませんが、これから私と一緒に来てください」


 周りに聞こえない声で僕に告げてきたが、その声には有無を言わさない響きがあった。


「…わかりました。アーサー、悪いけど僕の家に…」


「エドアルド様の家には既に連絡を入れてあります。アーサーはそのまま帰られて構いません!」


 アーサーに僕の家へ伝言を頼もうとしたが、ブライアンがピシャリと遮った。


 既に僕の家に連絡が行っているなんて、いったいどういう事なんだろうか?


 わけがわからないまま、僕はブライアンと一緒に歩きだした。


 着いた先に家紋の入っていない目立たない馬車が待っていた。


 御者が開けてくれた扉から中に入ると、そこにはブライアンの父親である宰相の姿があった。


「エドアルド様、直接お迎え出来ずに申し訳ありません。流石に他の生徒達に私の姿を見られるわけにはいきませんのでブライアンを使いに出しました」


 馬車に乗り込んだ僕に宰相が頭を下げてくる。


 確かにこんな場所に宰相が来たとわかったら騒ぎになりそうだ。


 それにしても、宰相が僕にいったい何の用事があるんだろう?


 不安に思いながらも僕は宰相とブライアンに向かい合う形で腰を下ろした。


 

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