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愛する旦那様が死んでしまいましたが、過去をやり直しますか?  作者: 名録史郎


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7.戦闘


 巨大な二つの魔力がぶつかり合います。庭園を包む木々は揺れ、大地がひび割れ、まるで世界が裂けそうな緊張感が漂いました。


聖剣変形「四神(ホワイトタイガー)白虎(クロー)


 エドヴァン殿下が聖剣を掲げると、剣の刃が輝きながら裂け、二つに分かれました。それは大きな鉤爪へと姿を変え、殿下の両手の甲にしっかりと装着されます。白虎の名にふさわしく、鋭い爪が闇を切り裂く力を宿しているようでした。


聖剣変形「運命の剣(ウィ―ザルソード)


 一方、ニルナ様の剣は、透き通るような薄刃に姿を変えました。まるで命の糸を断ち切るために存在しているように威厳を放っています。


「いきますよ」


 ニルナ様の声とともに、二人の姿が瞬時に消えた。次の瞬間、鋭い金属音が響き渡る。


 エドヴァン殿下のクローが弧を描きながら、ニルナ様のウィ―ザルソードと激突する。力の余波で庭園の花々が吹き飛び、周囲に砂塵が舞い上がった。


「速い……!」


 あまりの速さに、衝突の瞬間しか、私の目では追えません。


 ニルナ様は、軽やかに後方に跳躍したかと思うと、地を蹴りエドヴァン殿下に一直線に迫ります。

 そのスピードは風のようにしなやかながら、破壊力に満ちていました。


「させるか!」


 殿下は白虎の鉤爪を構え、一閃。五本の爪が空間を引き裂きます。だが、ニルナ様は容易に見切り、体を捻りながら華麗に躱します。


「流れるような動きですね。なら、これならどうですか?」


 ニルナ様の魔力が研ぎ澄まされるように、刀身に集まっていきます。


「飛翔斬!」


 ウィ―ザルソードから、不可視の刃が大地をえぐり飛ばしながら、殿下に襲い掛かります。

 殿下は白虎の鉤爪を交差させて防御して反らそうとするものの、防ぎきれず殿下の肩を浅く斬り裂いた。


「くっ……!」


 肩から血が滴り、殿下の足が止まりました。


「どうしましたか? 来ないのなら、こちらからいきますよ」


 ニルナ様は、剣を軽やかに回転させながら上方に投げ上げました。


聖剣変形「雷神の鉄槌(ミョルニル)


 投げられた剣はニルナ様の魔力を吸収し、まばゆい光を放ちながら瞬く間に形を変えていきます。

 まずは刀身がゆっくりと縮み、中央に向かって集束。次に、柄の部分が一気に伸び、両端に重厚な金属の塊が形成されていきます。それをニルナ様は、空中でつかみ取りました。


「この重み。あなたに耐えられますか?」


 ニルナ様は、そのまま豪快にミョルニルを振り下ろします。


聖剣変形「四神(ブラックタートル)玄武(シールド)


 エドヴァン殿下は、鉤爪の形状を解除すると、そのまま亀の甲羅のような模様の大きな盾へと聖剣を変形させました。盾から魔力によるシールドが展開されます。


 轟音と共に衝撃波が周囲を駆け抜けます。衝撃で飛ばされた砂埃が視界を覆いました。


 しかし視界が晴れると、そこにあったのは砕け散ったエドヴァン殿下の大盾でした。


「な、なぜだ、玄武の魔法効果は絶対防御。盾が壊れるなど、ありえない……!」


 ニルナ様は、エドヴァン殿下の言葉に丁寧に答えます。


「ミョルニルの魔法効果は、粉砕。つまり、完全破壊です。最強の盾と矛。魔法効果が矛盾したときは、魔法力が上の者が勝ちます。つまり」


 ニルナ様は、間をあけ含みを持たせて言いました。


「単にあなたの力量不足と言うことです」


「ふざけるな!」


 エドヴァン殿下の叫びと共に、彼の魔力がさらに膨れ上がります。その圧倒的な気配に周囲の空気が震え、地面がひび割れていきました。


「この私が力量不足だと? ならば証明してやろう!」


 殿下は聖剣を再び掲げ、その形状を激しく変化させました。


聖剣変形「四神(フェニックス)朱雀(キャノン)


 その瞬間、聖剣が眩い光を放ち、形状を大きく変化させました。刀身がまるで翼を広げるように展開し、柄の部分から炎の尾を引く砲口が現れます。


「この一撃で終わりだ!覚悟しろ、魔王」 


 エドヴァン殿下が銃口をニルナ様に向けました。さらに射線上に私がいます。


聖装変形「戦乙女(アイギス)の盾」


 ニルナ様のバングルが、盾の形状に変形すると同時に、砲口に圧縮された魔力が燃え盛る朱雀の形を取り、咆哮と共に放たれます。朱雀キャノンの一撃は、灼熱の火柱となり、ニルナ様へと迫りました。


「ふふ、素晴らしい威力ですね。ですが」


 盾から放たれる凶悪な赤き魔力が、炎を弾き飛ばします。


「私に属性魔法は効きません」


 二週目の灼熱の業火の中で、人々に絶望をまき散らしていた時のように、私の前に、傷一つついていない魔王がたっていました。


「さあ、これがあなたの限界ですか?」


 エドヴァン殿下の表情には焦りが浮かびます。


聖剣変形「四神(ブルードラゴン)青龍(ソード)


 エドヴァン殿下は、聖剣をさらに大きな剣に変形させました。


「なんなんだ。お前は!」


 激昂したように叫ぶエドヴァン殿下にニルナ様は言います。


「私は、魔王。魔王とは、どれだけ他国の者に悪だと言われようとも、自分の国を守る者のことです」


 誰よりも国を愛する者が王。

 私もその通りだと思います。


「なのになんですかあなたは! 自国を守るどころか疲弊させている!」


「うるさい。黙れ! この俺の国だ。どうしようと俺の勝手だ」


「人の大切なものを奪い、そしてなにより自分を愛してくれた者を蔑ろにする愚か者に告げます」


 ニルナ様の瞳がより一層、紅く輝きました。


「私は、魔王ニルナ・サンヴァーラ。愚かな人間は殲滅です」


 魔王は怒っていました。

 私の為に。


「全てよ。滅べ」


魔力解放『滅びの宴(ラグナロク)


 世界を滅ぼさんとする凄まじい魔力が解き放たれました。


聖剣変形「裏切者の義兄弟(ロキ・レーヴァティン)


 ニルナ様の剣が、闇の力を放つ暗黒剣へと姿を変えます。


「ふざけるなああああ!」


 エドヴァン殿下は咆哮を上げ、聖剣を振り上げました。

 

 青龍ソードがさらに巨大な刃を展開し、砲塔のように魔力を圧縮。次の瞬間、猛烈な衝撃波と共に蒼い龍が吼えるかのように突撃します。


「終わりです、エドヴァン殿下」


 ニルナ様が全身の力を込めて、剣を振るいました。

 暗黒の剣から放たれる闇の奔流は、青龍を真っ二つに引き裂くと、魂を破壊するほどの一撃が、エドヴァン殿下を貫きました。


「なぜ……俺が負ける……?」


 エドヴァン殿下は朦朧とした声で呟き、崩れるように倒れました。

 ニルナ様はその背を一瞥し、静かに呟きます。


「愛する者を失い、守るべきものを見失ったあなたに、王たる資格などありません」

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