ジョナ、城を攻める
「リン…ユウキ様は大丈夫かしら…」
ユウキ様と別れた後城に戻り待機している時に、リンさんに訪ねた。
ルナの死から立ち直ったユウキ様が私達に「城に戻って、帰りを待っていて欲しい」と言われた時、胸が熱くなったのを覚えている。
でも、ルナの死があったこそユウキ様は、私達に残るように言った。でなければ今までのように一緒に行こうと言って私達を連れて行っただろう。
「ユウキ殿の問題はユウキ殿にしか解決できません。しかし、私は大丈夫だと思います。マリア様が心配する事ではありませんよ。」
リンは微笑んで言ってくれた。
改めてリンは凄いと思った。私もリンのように強くなりたい。
ユウキ様を隣で支えたい…
ドーン…
遠い所で戦闘が始まったようだ。
今、私ができるのは“祈る”事だけ…
どうか光の精霊様、勇者ユウキをお守り下さい。
「それにしても今、城の中は誰がいるのですか? 近くの気配が全く感じませんが。」
リンさんがひと疑問に思った事を言う。
「少ないですが、100人位が城の護衛にいる筈ですよ。」
流石に城を無人にする訳にはいかないので、腕がたつ兵士がこの城に残って貰った。
今、城にいるのは私とリンさん、兵士達そして“お父様”がいる。
「……マリア様、“武器”を構えて下さい……」
突然、険しい顔をしてリンさんが私に指示する。私は指示通りに腰に帯刀していたレイピアを抜く。
「どうしたのリンさん…」
私は小声でリンさんに聞く。
「先程、小さかったですが“悲鳴”を聞きました。 “何か”がいるようです。」
何か…? まさか、暗殺者?
「ゆっくりと音を立てずに移動しましょう…」
私は頷いて返事し、リンさんを先頭に移動する。
廊下に出ると、人の気配がなくそのまま階段に進む。
コン…
階段を降りている時リンさんの足に“何か”が当たった。
暗くて見えなかったが、それはリンさんの足に当たった後、ボールのように階段を転がり落ちて行った。
次に足下で…
ヌチャ…
液体を踏んだ。
水? 水にしては…うっ!!?
さらに、異臭が私の鼻を襲った。
何この臭い!?
だけど、私はこの“臭い”を知っている。
ただ“城に何故この臭いがある?”という疑問の予想が私の頭でいっぱいだった。
階段を下りた時、リンさんが前方を見た後
「マリア様、“これは見ない方がいいですよ…”。」
立ち止まり、私に見せたくないのか。彼女は壁になり前方で何が起きているのかを遮った。
「大丈夫よリン……………えっ?」
私はリンさんの前に行き“その風景”を見た。
「おぇぇっ!!」
次の瞬間、私は耐えきれず胃の中にある物を嘔吐した。
「ハァハァ…何なのこれ…?」
私はその風景についてリンさんに訪ねると、リンさんは警戒しながら口を開き小声で言った。
「何かが“食事”をした後です。」
目の前で、バラバラになり兵士達の死体とその下で真っ赤な海が広がっていた。
『オナカ…空いた…』
!?
子供のような声が広間に響き渡り、私とリンさんはとっさに影に隠れる。
「こらこら、さっき食べたでしょ!!」
声の主を見るとユウキ様が“混沌の使者”と呼んでいた“ジョナ”という少年が、“巨大な黒い塊”と話していた。
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【“劫火光炎”
かつて光の精霊が創った最強の天使ルシファーが、“悪そのもの”に自ら契約し創った兵器。 卵型だが移動する速さや砲撃の攻撃は、簡単に大陸を炎で燃やしつくす事ができる。
劫火光炎には様々な兵器が搭載されており、中でも“天獄騎士団”と“極獄弾”は強力です。】
【“虚栄の魔城”
霧を操る暗殺者が“悪そのもの”と契約し創った兵器。 正体は城ではなく“霧”。霧はどんな形状になる事ができ本物と区別がつかない。
さらに、所有者(管理者も含む)が指定した物、または生物を霧がある所に限り移動できる。】
この2つの宝具を活用してセプンテント帝国を落とす為に、僕はまず“虚栄の魔城”で魔物の群と空飛ぶ船を創った。
セプンテント帝国の兵士や勇者が“囮”に夢中になっている隙に、僕は“劫火光炎”をセプンテント帝国の上空に移動させた。
まぁ、姿を出して兵士を同士討ちさせたのは、僕の趣味だからスルー。
“本物”を知ってそうな奴がいたから一石二鳥だ。
そして、予想通り戦いが始まると僕は“偽物”を“本物”に見せる為に虚栄の魔城の霧を劫火光炎の砲台先にセットし、砲弾を“移動させた”。
砲撃を受けた勇者達は“偽物”だけど劫火光炎へ向かって行く。
その隙に僕が“帝国皇城”を落とす。
という訳で帝国皇城にいるんだよね〜。
さて、さっそく生命受肉で創ったオリジナルモンスターを使ってみようか。
『生命受肉』
【10pt使用しました。】
【残り300,246,800ptです。】
空間が裂けて中から高さ1m位の黒い塊が出てくる。
『ハラ…』
うん、上出来だ。
では僕の想像通りなら…
「“形状変化:コート”」
僕が黒い塊にそう言うと、塊は僕の体に纏わりついてコートの形になっていく。
『ヘッタ…』
よしよし、すぐ“食べさせてあげるからね〜”
そう言って僕は始めに帝国皇城の中庭に侵入した。
「おい!! そこのお前何している!」
あっ…さっそくバレた。
やっぱりダンボールを用意するべきだったか?
いや、この世界にダンボールは無いからすぐバレるか…
「貴様、ここは帝国の一番…「五月蠅いよ」ガっ…」
なんか説教をしようとしたからコートを脱いでかけてあげた。
ガブっ!!ガジ!!ブチ!グチャグチャ…
コートから“捕食”する音が聞こえる。
頭からかけたから即死だったな…
「じゃあ、“一階”にいる生物を食べてきなさい“クリーチャ”。」
『ハ〜イ…』
“クリーチャ”は黒い塊になり中へと入って行った。
さて、僕は何をしようかな?
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何だあれは!?
私は逃げていた。
ほんの短い距離だが時間が長く感じる。
中庭からハーベの怒鳴り声がしたから扉に行こうとしたら、ハーベの声が突然遮られて次の瞬間、扉の隙間から黒い液体が溢れてきた。
そして、まず近かったロバーツが“喰われた”。
黒い液体に突然、無数の“歯”が出てきてロバーツの上半身を一口かじった。
一口でロバーツは上半身を失い血飛沫をまき散らして倒れた。
それから、“退治”しようと剣を抜いた者もいたが、ソイツも“喰われた”
私はすぐに体の向きを変えて二階へ行く階段に向けて走りだす。
私の後ろでは…
『アハ…美味シい…』『ギャハ…マジイ…』『固い…』『柔らかい…』『甘い』『辛い』『あれ御飯ハ?』『モウねエ…』『まだアるヨ』『本当ダ……』
『『『『イタダきます』』』』
振り向くと“歯”が迫ってきていた。
嫌だ!嫌だ!嫌だ!
死にたくない!死にたくない!
助けて!助けて!
私は階段にようやくたどり着き登りだす。
『あっ…逃げラれタ…』『一階ジャアない…』『ドウシヨ…』
“歯”は私を追うのを止め、どうしようと言っている。
助かったのか……
「こら、“それ”もちゃんと食べなさい。」
突然、人の声がして見ると怪物の横に黒い短髪の少年がいた。
「まだそこは二階“じゃない”」
その声を聞いた怪物は“歯”を私に向けて…
『『『『イタダきます』』』』
「嫌だあぁぁぁァァ!」
城に私の最後の絶叫が響き渡る。




