戦士たちの帰還編2
ーー ホーリーヘヴン・ネスト支部内ーー
「フューム、さっきミツキたちから連絡があって機密情報の収集に成功したらしい。後に来たイレギュラーたちも追い払ったそうだ」
『そうか、上出来だ。こちらもあの馬鹿デカい兵器の調査をしている最中だ。機密プロテクトを施されていて中々思うように情報を解析できんがな』
リョウマの報告にフュームは安堵した様に返答するが、すぐにつまらなそうな表情をしながら腕組みをした。自分でもプロテクトのかかる機密情報が気に入らないと言った感じのようだ。彼はその光景を目にして少し苦笑いを浮かべた。
「噂じゃ賢者たちが極秘に作った秘密兵器だと聞いてる。お前でもアクセスできないのは当然だろう、そんな顔をするな。今はミツキ達の無事を喜ぶべきじゃねぇか?」
『そうだな、しかし我にも優先順位という物がある。それを邪魔する者は誰であろうと許さん。我の邪魔をするなら切り刻んでしまいたいくらいだ』
イライラしたような口調でそう言うと、フュームは大剣を抜き、空を斬り裂いた。映像からでも伝わってくる気迫にリョウマは一瞬驚いたが、すぐ冷静に戻り言葉を続けた。
「怖い女だな。聞いた話だとその気迫で初対面のリュウイチに斬りかかったそうじゃねぇか」
『まあな。しかしあいつは手を抜いていた。こちらは全力で殺しにかかったというのに残酷な奴だ、あいつは』
「末恐ろしいな。しかしリュウイチが手を抜いているのはいつもの事らしいぜ、なんでも常日頃から手加減をして戦っているらしい」
ほお、とフュームは興味ありげにくいつく。抜いていた大剣を収め、リョウマの話しに耳を傾ける。
「これもミツキ達から聞いた話だが、どうやら奴はできる事なら戦いたくないらしい。ヘヴンにいるのも本当なら辞めたいとも思ってるようだぜ、まあ全てミツキ達の予想みたいだがな」
『なぜだ?』
「ミツキ達が推測するに、自分が強すぎて相手を殺める可能性が高いからだそうだ。あいつなりに思う事があるんだろう。嫌々戦ってる訳でもないみたいだがな」
『続けろ』と、フューム。
「本来左利きであるリュウイチが右手で戦うのはそれの表れらしい。なるべく穏便に済ませようとしているんだろう、俺と戦った時も右手を使っていたしな。だが、どうしても粛正しなければいけない者、あるいは、必ず粛正すると決めた時には利き手の左手や二刀流で戦うらしい。ミツキ達曰く、それは優しさだと言っていたぜ」
『本気で粛正するべき者か……我にもそういう者がいるから何となく分かる。王たるもの無闇に人を滅する事は、国民に非常に悪い印象を与えてしまうからな』
国王としての責務を配慮して戦うフュームには、リュウイチの気持ちを1番理解できるのかもしれない。フュームはそんなリュウイチの事を考えると、他人の事ではないように感じていた。
『だから上に立つ者として、リュウイチのその考え方に少なからず共感できる。やはりあいつとはもう一度語り合いたかった』
「そうだな、俺も同感だ。」
二人の脳裏にリュウイチと過ごした記憶が駆け巡る。しかし、どんなに待ってもどこへ行こうとも、彼とは二度と会えない、語り合えないのだ。そんな思いも懐かしさと同時に二人をおそった。
「だからこそ、あいつを殺ったイレギュラー達や紅の連中もタダでは済まさねぇ。必ず粛正する」
『我から言わせれば賢者共もだ、リュウイチがあんな事になったのは、賢者共が作り出したあの兵器が原因なのだから、謝罪だけで終わらせるつもりはない』
フュームはそう言うと舌打ちをし、嫌悪感をむき出しにする。
リョウマはそんな彼女を見てある疑問を口にした。
「前から思っていたんだが、まさかお前もリュウイチの事を?」
ストレートな疑問形にフュームは一瞬、目付きを鋭くしてリョウマを睨みつけた。
『……やつは我を初めて負かした男であり、我が認める高尚な考えを持つ男だった。そんな男に愛を抱かないという方がおかしな話だ』
「フッ そうかい。まあ、ミツキたちが愛した男だし俺も直接あいつの意志を痛感した者の一人だ、気持ちは理解できる」
当然だ、とでも言うかのように告白するフューム。その彼女をモニター越しに見るリョウマは何となく微笑ましく見えた。自分の家族が愛した男をこいつも同じく想っていた、そう思うとミツキ達に対して向けていた哀れみの思いが、フュームにも向けられたのだ。
「フューム、憎しみは憎しみしか生まない。それに俺たちは国を代表する者だ、個人の感情で人を殺めるのは……」
『分かっている!だからこうして地道に情報を探っているのだ!この剣を人に向けてしまうと、体が止まらなくなりそうだからな。デスクワークをしている方が多少気が逸らせる』
そうか、と一安心するリョウマ。彼女の気持ちが痛いほどよく分かったのは気のせいではない、なぜなら自分も同じ気持ちだったからだ。友の死を迎えて怒りに染まらないはずがない。自分が代表者でなければと考えるとゾッとした。
「俺たちにできる事を徹底的にしよう……この身分が失われる事になろうとも、な」
『そのつもりだ。真実を追って解消されるような身分に興味などない。その時は誰か代わりの者をこの地位に立たせるさ』
国民に軽蔑されないように振る舞うのが王たる者の覇道、しかしそれでも彼らには譲れないものがあった。それは友の死だ。彼らは今の地位を捨ててでも掴みたいものがあるのだ。
「また何かあればいつでも連絡してくれ、俺からも何か分かったら連絡する」
『ああ、互いにな。ではな』
そうフュームが言うと通信を切った。
二人は沈黙する、代表者としての責任を痛感していたのだ。以前から覚悟していた事だったが、あまりにも喪失したものが大きすぎたのだ。
「だからって諦めつくわけねぇよな」
「リュウイチ、我に知恵を貸してくれ」
リョウマはそう呟く。同時にフュームも拳を握りしめた。彼らは覚悟を決めたのだ。
自分たちの覇道を曲げない決意を、感情に任せて人を殺めない決意を。
それでも、例え地位を剥奪されるような事であったとしても
決して後悔しない事を。




