騒乱編4
ーー翌日、ホーリーヘヴン・メディカルルームーー
……やはり治癒術じゃ効果が無い様だな、傷口はなんとか塞げるみたいだが
ガラ……
「あ、りゅういちお兄ちゃん!来てくれてたんだね……お姉ちゃんは?」
「まだ意識は戻っていないみたいだ、眠ってるようにみえるのにな」
トモカちゃんの方を見ながら僕はアカリちゃんの質問に答えた。当然の如く、アカリちゃんの表情は暗くなる。この子にこんな表情をさせたくないのに……
「そっか……でもありがとう、お姉ちゃんのお見舞いに来てくれて。お仕事の方は良いの?」
「それはこっちのセリフだ、お前だって職務があるだろうに」
「まあね、でもお仕事の前に少しでもお見舞いに来たいなと思って……ほら、綺麗な花でしょう?お姉ちゃんこういうの好きだから」
そう言って、手に持っていた花束を僕に見せてきた。確かにトモカちゃんが好きそうな綺麗な花束だ。
「本来ならあいつも持って来るべきなんだろうが……」
「……そうだね。ねえ、りゅういちお兄ちゃんは本当にユキタカお兄ちゃんの事信じてるの?」
「一応あいつの兄さんだし、僕が信じてやらないと可哀想だろ……家族だしな」
そう、家族だから僕は……
「あ、ごめんね。ユキタカお兄ちゃんを信じてないわけじゃないの!ただ、少し気になって……」
アカリちゃん自身気づいていないか?それとも薄々感じ始めてるのだろうか?ユキタカに対する不信感を……ん?
コンコン
サツキたちか。
「失礼しまぁす……りゅうくん、アカリ、トモカちゃんの容態はどう?」
「サツキ先輩!お見舞いに来てくれたんですね、ありがとうございます!お姉ちゃんはまだ……」
アカリちゃんの声が徐々に小さくなっていき、視線をトモカちゃんのいる方へと流れていった。そんなアカリちゃんを見て、サツキとみぃ姉は察した様で表情が暗くなる。
「……傷の具合はどうなの?もうちゃんと回復したのかしら?」
「あ、はい。さっきここへ来る時に先生から聞いたんですが、傷口はほぼ塞がって来てるみたいです。そうだ、りゅういちお兄ちゃんの怪我は?」
アカリちゃんそう問いかけてくると三人とも僕の方に視線を向けた。
「僕は大丈夫だ、トモカちゃんと同じ様に傷が塞がりつつあるんだろう。痛みはあまりない」
「あまりって……じゃあ少しは痛みがあるって事?どうしてそれを早く言ってくれないのよ!」
「ミツキさんの言う通りだよ、イブキ先生に診てもらった方が良いんじゃ……!」
僕の隣に来ていたみぃ姉が僕の手を握ると、心配そうに顔を覗き込んできた。
アカリちゃんやサツキも似たような表情で僕を見つめている。
「痛むと言っても本当に大したことはない、そんなに心配する事じゃないさ。そんな事より今はリュウガの事を考えるべきだろう?奴とユキタカたちの動向を少しでもつかまないとな」
「それは……そうだけど……でも、りゅうくんの事も心配だよ」
サツキたちの気持ちは理解できないでもない、しかしリュウガが動き出した以上、問題視するべきは僕の事じゃない。
「その分、トモカちゃんの事を心配しておけ……じゃあ、僕はそろそろ仕事に戻る……またな」
アカリちゃん達が何かを言おうとしたが、僕はそれを無視して病室から出て行き、その足で訓練所に向かった。
「(……リュウイチ、傷口が悪化するわよ?)」
「(ユリナか……問題無い、悪化しない程度に動くだけだ)」
「(……でも、お兄ちゃんすごく疲れてる……)」
さすがにお見通しか
「(あのトモカという子に力を行使して治癒術を施していたのよ?いくら貴方でも体力が相当消耗しているはず……傷口だって塞がっていないでしょう)」
「(リュウガを相手にするんだ、これしきの傷で立ち止まる訳にはいかない。その為に訓練してるんだ……あの日からずっとな)」
ユリナにそう返答すると同時に、ヒメカやベルクレア様達の事を思い出した。あの日僕の目の前で起こった事が鮮明によみがえる……
……くそっ!
「(……リュウイチ)」
「(……お兄ちゃん……)」
僕は二人の声を聞き流し、到着した訓練所でシュミレーターを起動させた。
『レベル8、シュミレーションスタート』
ーー
ーー
ーー
ーー
『レベル9、シュミレーションエンド』
「はあ……はあ……はあ……」
滴る汗を拭わず、僕はその場で立ち尽くす。
呼吸をする度、腹部の傷口がズキズキと痛む……しかしそんなものは大した事ない、トモカちゃんやユキタカはもっと苦しく辛い思いをしているのだから……
「30分連続で高レベルをクリアし続けるなんてさすがですね、リュウイチ隊長」
「……僕に何の用だ?……ヤマギシ」
シュミレーションルームに入ってきたその人物に僕は問いかけた。
「わぁ!名前覚えて下さったんですねぇ!感激ですぅ!」
リク・ヤマギシ
以前研修に来ていた女子だ。こいつはなかなかの観察力と運動神経をしていたので頭の片隅に記憶していたが、こいつもここへ配属していたんだな。
「用がないなら自分の訓練を再開するなりオフィスに戻るなりしろ……僕に話しかけるな」
「す、すみません……でもぉ、隊長が何かすごく辛そうにしてたのでつい……あのぉ、大丈夫なんですかぁ?」
そう言いながら僕の肩に手を当ててきたので、僕はすぐさまその手を振りほどいた。
馴れ馴れしいやつだな……どっかのデビル達にそっくりだ。こいつこんな性格だったのか
「問題無い、僕に触れるな……」
そう一蹴し僕はシャワールームへと移動を始めた……が、ヤマギシはしつこくついてきた。
なんなんだこいつは……
「大丈夫なら良いんですけどぉ……あ、タオルいりますよね?私の貸しましょうかぁ?」
「タオルは自分のを持ってるから必要無い、お前とのおしゃべりはここまでだ。もうついてくるな」
しつこいヤマギシにそう言い放ち、僕は男性用シャワールームに入る。流石に中までついて来る事はなかった、当然の事なのだが、あいつなら何となくやりかねないと思っていたので少し安堵した。
「はぁ……つうっ!」
シャワーの湯が傷口に当たり、痛みのあまり少し声がもれた。先程より痛みが増している様だ……傷口に手を当て、治癒術を発動させる。
……やはりこの程度では効き目が薄いな。
リュウガとの力の差が嫌でもわかってしまう……どれだけ訓練しようと僕はあいつに勝てないのか?
シャワーを軽く済ませ、着替えた後外へ出る……よかった、ヤマギシは居ないようだ。一体なんだったんだ、あのしつこさは
『リュウイチ君、私だ、聞こえるかい?』
この声はマスターか?
「こちらリュウイチ、聞こえます……なぜマザー通信からあなたが?」
『ユウから情報が来てね、急いでマザールームまで駆けつけたんだ……君にも関係している情報だよ』
僕に関係している情報……紅かリュウガについての事か
『先程入ったばかりの情報なんだが、紅らしき者達に動きがあった。その中には淡い青色の大剣を持つ者がいたそうだ……恐らく……』
ユキタカ……
「僕が出撃します、よろしいですか?」
『ああ……この事を君に知らせなかったら、盛大に仕返しが来ると思ってね……無茶はしないでくれたまえ、上司として……友としてお願いする』
「了解致しました、感謝します」
ーー
ーー
ーー
ーー
ーー
「こちらリュウイチ、目標地点に到着した」
『こちら本部、了解致しました。幸運を』
……ここでイレギュラーと交戦でもしていたのか?やはりやつらは加減というものを知らない、盛大に暴れたようだ……ユキタカ
「りゅういち隊長、どうかしましたか?」
アカリちゃん……今のままでユキタカたちと接触したら心のバランスを崩してしまうかもしれない。できることならベースで待機させたかったんだが……
「なんでもない、先を急ごう」
ーー数十分前、ホーリーヘヴンーー
「なんでこの子がここにいるんだ?」
「ごめんね、りゅうくん……何度も来ちゃダメだって言ったんだけど、アカリがどうしてもって言うから……」
僕が叱るようにサツキに問いかけると、いつもの明るい雰囲気は姿を隠し、本当に申し訳なさそうな雰囲気を出している。
「サツキ先輩を責めないで!……私が……私も関係者だし、私にだってこの件を詳しく知る権利あるでしょう!?だから私も同行する、絶対に!」
権利か……確かにこの子にもその権利はある。だが……
「だからお願い、私も連れて行って!」
「……分かった、だが向こうに着いたら僕の指示に従え、それができなければ追い返す」
「了解です!!」
ーー
ーー
ーー
ーー現在、第40地区ーー
「リュウイチ隊長、警備隊に連絡し終わりました……紅はもうこの辺りには居ないのでしょうか?」
「いや、奴らはまだここに居る……なぁ、レッカ!」
僕は倒壊した建物の陰に潜んでいた人物に呼びかけると、その人物はゆっくりと姿をあらわした
「なるほど、気配には敏感の様だな」
「あれが……紅!くっ……!」
「待て!……レッカ、ユキタカは何処だ?」
駆け出しそうだったアカリちゃんを制止し、僕はレッカに問いかける。
「……俺ならここだよ、リュウ兄……」
「ユキタカ……お兄ちゃん……!」
そう言いながらユキタカが姿を現すと、アカリちゃんが重い口を開けて愕然としている。
やはりこれ以上この子を刺激するとまずいな……
「ユキタカ、おとなしく投降しろ。そしてさっさとトモカちゃんの元に帰ってやれ」
「トモカの……あいつは無事なのか!?」
「トモカちゃんは意識不明のままよ……ユキタカ、もう馬鹿な真似はやめなさい!リュウイチの言う通り投降して!」
「あいつが……俺のせいで……」
僕とミツキの言葉で明らかに動揺している……リュウガの意識は表面化していないようだな。
「ちゃんとあの子やアカリちゃん達に謝れよ、お前のしでかした事は相当大きいぞ。だから素直にーー」
「あら、本当にユキタカ君が戻るべきところがあるのかしら?」
っ!!
この声は……!
「久しぶりね、リュウイチ君。でもあなたたちが思ってるより、ユキタカ君の犯した罪は相当重いと思うわよ?」
「確かあなたはミソラ……一体どういう事!?」
時空間魔法で転移して来たであろうミソラがいつもの軽快な口調でそう発言すると、アカリちゃんが最もな疑問を投げかけた
「トモカちゃんをあんな目にあわせたのが本当にリュウガ様だけの意思だと思う??そう思ってるなら大きな間違えだと思うなー」
……
「ふふ、リュウイチ君はもう気付いてるんじゃない?あの時の真実を……」
「リュウイチ隊長が?真実?ミソラ、君は一体何を言っているんだ!?」
キラが問い詰めるとミソラはクスクスと嘲笑うかのように微笑んだ。
「ふふ、じゃあリュウイチ君の代わりに教えてあげましょうか?」
ミソラは微笑みながら発言を続けた
止める事も出来たが、アカリちゃんの言う"知る権利"の事を思うと、黙って見てる事しかできなかった……
「あの時、トモカちゃんを貫いた剣を握っていた手……そしてその剣を抜いた手は、ユキタカ君の意思だったという事を!★」
ミソラの発言に一同は絶句している様だった……
そして、その発言は僕が思っていた事と相違なかった
「……え?……じゃあ……ユキタカお兄ちゃんが……お姉ちゃんを殺そうとしたって事……??」
「そんな……ウソだ!!ユキタカくんがそんな事するはずない!!そうだよね?りゅうくん!?」
「……」
「りゅういちお兄ちゃん……どうして黙ってるの?違うって言ってよ……ねぇ……りゅういちお兄ちゃん!!」
「……ミソラの言う通りだ、リュウガと共鳴したユキタカが……二人の意思が共鳴し合って招いた出来事だ……リュウガはあいつの意思を後押ししたに過ぎない」
「そんな」と言って、アカリちゃんはその場で崩れ行き、座り込んでしまった。
その瞳には大粒の涙をため……そして流れ落ちた
「……ユキタカ、戻って来い」
「え……?りゅういちお兄ちゃん、何にを……」
「お前の居るべき場所はトモカの隣だ。あの子の傍に戻ってやれ!」
「何言ってるの!?お姉ちゃんを殺そうとしたんだよ?!なんでそんな言葉が出てくるの!?りゅういちお兄ちゃん変だよ!お姉ちゃんを傷つけたのに、そんな事言うなんておかしいよ!!」
「ユキタカ、さっさとしろ!」
「りゅういちお兄ちゃん!!」
これでいい……そのまま矛先を変えろ
「ユキタカ、僕はお前を信じてやる。お前ならきっとやり直せる事を、お前ならトモカを守れるという事を!」
「お、おれは……!!」
「随分ユキタカ君の肩を持つのね、正直兄弟同士殺し合うと思ってたのに……少し残念だわ……」
ミソラが煽るようにそう言うと、ため息をついて心底残念そうにどんよりした。腹ただしい奴だ
「レッカ、お前たちは何故イレギュラーであるミソラ達と行動を共にしているんだ?お前たちの信念とやらに反しているような気がするんだが?」
「……」
黙りか……あいつ自身、迷っているのだろうか?
「あら、私たちからすればあなた達の方がイレギュラーだとおもうんだけどなー。だってこの素晴らしき世界を汚しているんですもの!」
こいつらの言う浄化というやつか
「人々の抹消……いや、全世界の人々を初期化するというのがお前たちのいう浄化とやらか?ある意味似てはいるが、お前たち紅が締結するとは思えないな。紅のやる事とリュウガたちが起こしている事件や破壊はだれのためにもならない。人々の安寧……そんな世界が紅が目指している理想なんじゃないのか?!」
「黙れ!!私は私は……!」
「はぁい、今日はここまで!次回は本気で殺しにかかるからちゅういしてね、リュウイチ君!★」
「逃がさない!」
「待て、深追いするな!今のお前たちではミソラには敵わない!……また会う機会があるみたいなんだし、それを待とう」
それに、今は戦えそうにないやつがいるしな……
放心状態のアカリちゃんに歩み寄り、声をかけると僕を鋭い目で睨みつけた。
……僕はサツキに声をかけてアカリちゃんの事を任せた。
いつもの日常が変わる……僕はそう思うと、ため息をつかずにいられなかった……
フューム
「一つの物語小話劇場……これで良いのか?」
リュウイチ
「まあ良いんじゃないか?それが正式名称かどうかは知らないがな」
フューム
「では正式名称はなんなのだ?」
リュウイチ
「決まってるだろ、それは……それは……えっと……」
フューム
「お前も分かっていないではないか」
リュウイチ
「う、うるさい!次回、一つの物語~騒乱編5~!とにかく、正式名称じゃないんだ!」
フューム
「ふふ、はいはい……」
次回掲載日
11月10日予定




