騒乱編
ーー翌日、マスタールームーー
「そうか……アキト君はリュウガの側に……」
「はい、先日リュウガと遭遇した際に確認しました。賢者達が優位にならぬよう、こうしてマスタールームにまで押しかけた次第です、お忙しい中申し訳ございません」
「いや、こちらこそ気を遣わせてすまない。君とて辛い心情の筈なのに……」
そう言って、マスターは申し訳なさそうに曇った表情を浮かべた。僕はそんなマスターに「いえ」と短く返答する。
「同じ特殊執政官として恥ずべき事だ……奴とは古い付き合いで、ずっと近くにいたのにそれに気づかないとは……これはマスターではなく、私の失態です。処罰は私が!」
「お前が処罰されたとしても、マスターへの信頼が保たれる訳じゃない。問題なのはこのヘヴンで4人も敵側に堕ちてしまったという事態だ。その内2人は既にイレギュラー化と断定されてしまっている、賢者達が出張ってくるのも時間の問題だろう」
アキトと同じ特殊執政官のリンの発言に対し、僕は否定的な言葉を述べると、当然ではあるがリンはそれに反発してきたので、続けて発言した。
「マスター、今回の件は私が全ての責を負いますユキタカもアキトも私の身内、それにミソラ達の件も薄々分かっていながら即座に断定することができなかった。私の不徳の致すことです」
「馬鹿な……お前が責を負ったら下手をすればお前とリュウガとの繋がりが露見してしまうかもしれないんだぞ」
「リン君の言う通りだ、そうなってしまったらミナト君も巻き込まれる事になってしまう。請け負うにはリスクが高すぎる。それに賢者達が表に出てきたときは私以外に防げる者は君しかいないのだから」
……?
「それはどういうーー」
ピー!
『こちらユウ。マスター、紅らしき団体の動きがありました。その中にホーリーバイタルの反応もあります……リュウイチ、恐らくユッキーよ』
僕の疑問を言う前に、通知音が鳴り響く
その主はマザーの一人であるユウのようだ。
「……リュウイチ君、出撃できるかい?」
「了解致しました、ただちに出撃致します」
晴れぬ心境のまま、僕はマスタールームを後にした。
……ユキタカ
「こちらリュウイチ、聞こえるかトモカちゃん、今どこにいる?」
『はい、こちらトモカ!聞こえます、今リュウイチお兄さんの執務室にお邪魔しています……ミッションですか?それにしてもどうしてシングルチャンネルで……』
「まだ全体警報は出ていないみたいだが、どうやら紅の連中に動きがあったらしい。そこにはホーリーバイタルの反応もあったそうだ」
『……ユキタカ君でしょうか』
「多分な、あいつが関わっている可能性があるからまずお前に連絡したんだが……来るか?」
僕は直通エレベーターに乗り、メインホールへ向かう途中、無線でトモカちゃんへ問いかけた。
数秒後、少し間を置いて「はい!」と、力強い返事を聞き僕は僅かに安堵する……覚悟はできてるみたいだな。
「よし、準備しておけ僕も直ぐに向かう」
『了解しました!』
ポン
『1階です』
トモカちゃんの返事とほぼ同時にエレベーターがメインホールに到着した。エレベーター内にある監視カメラに向かって僕は軽く頷いてみせた後、駐車場へと移動する。
『警報、第四地区にレベル3時空間異常を探知。各隊は出撃待機せよ。繰り返しますーー』
正式に警報を出したか、先程の合図をユウが確認したのだろう。
これで心置き無く通信できる。
僕はオープンチャンネルに切り替えカイ、レイ、ミツキに出撃令を出した。
このメンツなら十分冷静に対処できるだろう……ん?
ふと見ると、僕のバイク近くに数名の人影が見えた。あいつらは……サツキ?それにキドとアカリちゃんまでいる
「お前らどうして……」
「お疲れ様ッス兄貴!」
「兄貴と呼ぶな」
「あ、すみません兄貴!」
理解してないなこいつ……
「お疲れ様!りゅういちお兄ちゃん!私たちもちょうどミッションから帰って来たところなの!そしたら警報が鳴ったから少しここで待機してたんだよ」
「そゆこと!ここに来たって事はりゅうくんも出撃するんでしょ?ならあたし達も行く〜♪」
偶然って怖いな……
「もう既にみぃ姉たちに要請を出している。お前たちまで出る必要はない、ベースで待機してろ」
「お待たせしました、リュウイチお兄さん……って、アカリ?それにサツキさんも……」
「お姉ちゃん!……という事はお姉ちゃんもりゅういちお兄ちゃんと出撃するの?」
はぁ……話がややこしくなりそうだ……仕方ない、時間が迫ってるから事情を粗方説明するしかないな
「三人とも、このミッションにはユキタカが関連している可能性が高い、あいつと戦う覚悟が無い者はここに残れ」
「ユキタカくんが!?」
「て事は……兄貴の弟さんと戦うことになっちまうって事ですか!?」
「……わ、私も行く!私だってユキタカお兄ちゃんに言いたいことあるし、ユキタカお兄ちゃんに帰って来てほしいもん!」
そう言うアカリちゃんの瞳はトモカちゃんのように澄んだ瞳をしている……さすがは姉妹だな。
しかし覚悟が足りてるかどうかは定かではない、一緒に連れて行くと更にショックを受けてしまう可能性がある。時間が無いのは確かだが、ここで安易に許可を出す訳にはいかない。
「ダメだ、アカリちゃんとサツキはここに残れ。サツキ、アカリちゃんを頼む。キド、お前は同行を許可する。しかしお前は援護に専念しろ、無闇に前に出るなよ。上官命令だ」
「了解ッス!」
「イヤだ!私も一緒に行く!!」
「そう反応する時点で、お前を連れて行く事はできない。ミッション中に独自の判断で周りをかき乱すような事は許さん」
「……っ!!」
「アカリ、りゅうくんを困らせたらダメだよ。あなたが思っている以上に仲間との戦いは辛いものだから……ね?」
「でも……!」
「アカリ、サツキさんやリュウイチお兄さんの言う通り、ここで待ってて……ユキタカ君の事は私たちに任せてほしい。お願い……」
アカリちゃんはサツキやトモカちゃんにそう言われ少しの間俯き、やがて顔を上げて少しだけ頭を縦に動かし頷いた。
「ごめんなさい……りゅういちお兄ちゃん……了解しました……」
そう返答したアカリちゃんの瞳には僅かに涙を浮かべていた。それが悔しさから来るものなのか、悲しさから来るものなのかは分からない……
僕はアカリちゃんの元へ歩み寄り、アカリちゃんの頭を軽く撫でた。
「お前の気持ちは僕が預かろう、アカリちゃんの思いを無駄にはしないし、アカリちゃんの分も僕がユキタカに説教してやる」
「りゅういちお兄ちゃん……うん!気を付けてね!」
少し痩せ我慢をしているのだろう、いつもの笑顔よりどことなく暗さを感じる。僕はそんなアカリちゃんに軽く頷いてみせた。
「さあ、行くぞ!」
「了解っ!」
「了解!」
「了解しました」
「了解ッス!」
僕たちはベースを後にして第四地区へと出撃した。
ーー数分後、第四地区ーー
「またこんな街中で暴れやがって、民間人なんてお構い無しって事か!?紅もイレギュラーとそう変わんねぇじゃねぇか!」
「カイさんの意見に同感ですね、幸い一般人は既に避難できているようですが……それを差し引いても少々やり過ぎですね」
カイとレイが街の惨状を見渡し、嫌悪感に苛まれる。
そんな二人の話を聞いていたリュウイチも同感したがまた少し複雑な思いを抱いていた。
(ユキタカ、こんな事をするのがお前の望みなのか?)
「……とにかく先を急ごう、ここからは歩きで移動するぞ。警備隊、お前たちはこのままここで待機し警戒にあたれ、治癒術が使える者は負傷者の手当を優先しろ」
『了解致しました!』
リュウイチは警備隊に指示を出し仲間達と共に紅たちがいる地点へと走りだす。
そして、少し行った先に紅たちはいた。未だイレギュラーとの戦闘を繰り広げている紅たちが目に入るや否やリュウイチたちはイレギュラーと思われる者に攻撃を開始する。
「っ!お前はリュウイチ……思っていたよりお早いお着きだな」
「キドとレイは援護に専念しろ、残りの者は僕に続け」
「了解っす!兄貴、お気をつけて!」
「兄貴と呼ぶな」と、キドの発言にリュウイチは返事を返すと同時に剣を抜く。カイたちも戦闘体制に入る……すると仮面をしている紅の一人がリュウイチ達に向けて声をかけてきた。
「……トモカ、リュウ兄……」
「その声……ユキタカ君……!?」
「カイ、ミツキ、お前たちはイレギュラーの方を頼む。紅たちは僕とトモカちゃんが引き受ける」
「リュウイチ……分かったわ、気をつけてね……」
心配そうな面持ちでミツキは渋々指示に従い、同じく不安げな表情をしていたカイと共にイレギュラー掃討にあたる。
「ユキタカ、こんな所で何をしている?街を壊滅させるつもりか?」
「そんな訳ないだろ!!一般人たちは避難を終えたはずだ、だからこうしてイレギュラーと戦闘をしているんだ!」
リュウイチの冷静な一言にユキタカは大きな声をあげて反論した。しかしリュウイチはそんなユキタカの発言を聞いても尚、冷静に発言をする
「一般人が居なかったら思いっきり戦えると言いたいんだろ?ならそれは大きな間違いだな、例え誰も居なくても、人々の帰る場所を破壊しても良い理由にはならないぞ。お前たちのしている事は正義を語り力を振り回しているだけだ」
「ヘヴンのしている事と変わんねぇだろ!俺たちは被害を最小限に抑えて戦ってるんだ、リュウ兄たちと同じだ!」
「お前たちと僕を一緒にするな。被害を最小限に抑えているだと?ふざけるな。なぜ犠牲ありきで行動している?お前たちには犠牲を無くすという事を考えないのか?その時点で僕とお前たちは大きく違っている、二度とお前たちと一緒にするんじゃない」
リュウイチの言葉に、ユキタカは少し言葉につまった。そんな彼をリュウイチは真っ直ぐな眼で見つめている、その視線に威圧感を感じてたじろぐユキタカ。そしてそんなリュウイチたちのやり取りを見ていたレッカが口を開く
「綺麗事を言うな、犠牲無しに大義は成しえない!」
「だから、どうしてそういう考えしかできないんだ?あの男……お前たちのボスに洗脳でもされたのか?そういう先入観を持っているから感覚がおかしくなるんだよ。どうして犠牲無しに戦おうとしない?そんなに犠牲とやらが大事なのか?」
「私も……リュウイチお兄さんの考え方に賛成です……なんの犠牲もなく、私は……ユキタカ君を取り戻したい!誰かが傷ついたり、何かを犠牲にしたりしてユキタカ君を救い出したくない!」
「と、トモカ……!」
トモカの力強い発言にユキタカは驚きの表情を浮かべる。今まで見た事のない強い意志と力強い声が彼を圧倒した。
「……ユキタカ、お前なら分かるだろ?トモカの悲痛な呼び掛けが……お前に対するトモカの真っ直ぐな想いが!こんな事は終わらせたい、お前と同じ道を歩みたいというトモカの気持ちが!」
「お、俺は……そうだ、そうだよな……」
「ユキタカ……!」
「そうだよ……だから俺のところに戻って来てくれ!俺と一緒に平和な世界で幸せになろう!その為にイレギュラーを皆殺しにして世界を正常にしよう!その為なら、俺は誰とだって戦ってやる!邪魔するってんなら、リュウ兄とだって戦う!」
ユキタカの返答を聞いたトモカは愕然とし涙が溢れ出した、彼女の知っているユキタカではなくなってしまったような、そんな悲しみがトモカを襲った。
そしてリュウイチは、彼の返答に違和感を感じた。
(なんだ……?何か引っかかる)
「ユキタカ君……」
「なっ!?だから一緒に来てくれ、俺と一緒に世界を浄化しよう!」
「お前……まさか……」
「ユキタカ君……私は……」
「トモカ……?」
「私は……今のユキタカ君とは一緒にいられない……」
「……っ!?」
「ごめんなさい……今のユキタカ君は何か変だよ、どうして……どうしてそんなに変わっちゃったの!?自分の肉親を犠牲にするような人じゃなかったのに、どうしてそんな簡単に戦うなんて言えるの!?」
トモカの悲痛な叫びを聞いたユキタカは混乱し始めた、何があっても共にいると思っていたはずの彼女に自分の全てを否定されたような気持ちになり、彼もまた涙を流し始める。
「ユキタカ、トモカの言う通りだ。今のお前はどこかおかしい、なぜそこまで紅やイレギュラー殲滅に拘るんだ?」
「うるせぇ!!てめぇは黙ってろ!!……トモカ、どうして俺を否定するんだ!?俺たちはずっと一緒にいようって言ってたじゃないか!あんなに気持ちが通じあっていたのに、なんでなんだよ!!?」
リュウイチは更に疑問を抱いた、最初は自分の力を思う存分活かせられそうな紅に共鳴したのだと確信していた。しかし今のユキタカはそれだけではないと感じ始めた。彼の中で一つの可能性が構築されていく。
「ユキタカ君……これ以上私から離れないで……」
「何言ってるんだ!?俺は……!!」
「トモカ、武器を構えろ。今のこいつに話なんて通じない……一度痛い目にあわないと分からないみたいだ」
「……はい……!」
「なんでだよ……なんで……リュウ兄、あんたのせいだ!!あんたのせいでトモカは変わっちまった!!力さえあればイレギュラーたちを消すことができる、力さえあれば……あんたを……!!」
ユキタカから殺気を感じたリュウイチ、そしてトモカ……彼女はユキタカの変わりようにショックを受けたが、武器を構える手に緩みはない。
「レッカ、手だすなよ!?こいつは俺が殺る!!こいつを倒して、トモカを正気に戻すんだ!!」
「……いいだろう」
レッカはユキタカの発言をおとなしく受け入れ、武器をおさめた……そして、彼女はリュウイチの方に視線を向ける。彼はその視線に気づき見つめ返すがレッカはそっぽを向いた。
ユキタカはリュウイチを睨みつけて、やがて大剣を構えた。
「リュウイチぃ!!行くぞ!!」
サツキ
「一つの物語小話劇場!今日はお留守番のサツキちゃんでぇす!♪」
アカリ
「同じくお留守番のアカリでーす!」
リュウイチ
「マジか……デビルがそろうとかなり面ど……やかましいんだよなあ……」
サツキ
「あ〜!今『面倒』って言おうとしたでしょ〜!!こんなに可愛いレディースがりゅうくんを優しく包み込んでるんだよ?少しは喜びなよぉ!」
アカリ
「そうだよ!りゅういちお兄ちゃん、私たちの価値が分からなすぎー!」
リュウイチ
「あーやかましい、これだから面倒とか言われるんだよ。それに僕は騒ぐ女が好きじゃないんだ、アカリちゃんはともかく、サツキならよく知ってるだろう」
サツキ&アカリ
「私たち騒がしくないもん」
リュウイチ
「はいはい……次回、一つの物語〜騒乱編2〜。大体お前らの価値が分かるからなるべく遠ざけてるんだろうが……」
サツキ&アカリ
「デレた!!!♪」
リュウイチ
「やかましい!!」
次回掲載日10月25日




