騒乱編・始まりの時
「それじゃあ、お疲れ様リュウイチ……何かあったらいつでも連絡してね」
「必要があればな」
「素直じゃないんだからぁ♪ それともあたしがりゅうくんのお家にお泊まりしてあげようか?」
「それは絶対に必要ない。みぃ姉、気遣いには一応感謝しておくお前たちもあまり気負うなよ」
「ミツキの言う通りいつでも連絡してきて良いのよ。私はいつでも兄さんの味方だから」
僕は心配そうに見つめるみぃ姉とユマリの頭を軽く撫で「またな」と言ってガレージへと向かった。
「おかえりなさい、お兄ちゃん!」
バイクを置いてすぐ、ミナトが勢い良く扉を開けて出迎えをしてきた。
「ただいま、ミナト。また兄貴が来てるのか?」
「はい、お兄ちゃんが帰ってくる30分前くらいにお帰りになって、お夕飯を作ってくれました」
兄貴が料理なんて、ここへ帰ってくるよりかなり珍しい事じゃないか……どういう風の吹き回しだ?
「そうか、ならすぐに行かないといけないな、せっかくの夕飯が冷めてしまう」
「では急いでジャケットをお運びしますね!」
「ああ、ありがとう。ミナト」
にっこりと微笑むと、急ぎ足で家の中へと入って行った。僕もそれに続いて家の中に入る。
……ほお、ハンバーグか。
「おう!おかえりぃ!今日はお前の大好物のハンバーグだ、しかも俺のお手製のな!早く手洗ってこい!」
「兄貴、気味が悪過ぎて逆に潔く感じるぞ」
「せっかく兄ちゃんが手料理を振る舞いに来てやったんだぞ?仕事の話は無しにしようぜ!」
はいはい……
僕は真っ直ぐ洗面所に向かい、手洗いを済ませた後、リビングへ移動した。テーブルの上には少し形が崩れて見かけの悪いハンバーグが置かれている。兄貴は料理は美味いが見栄えが悪い、そのせいでかなり損をしてると思う。
「兄貴は本当に不器用だな、一人暮らし生活をしたら少しは良くなると思ってたんだが」
「アホぬかせお前!ここにいる時よりすんげぇ上達したんだぞ!」
僕の目には前と変わらない様に見えるんだがな。
「おぉ!アキトお兄さんのハンバーグですね!前と変わらず、少し見た目が悪いですがきっと美味しいんですよね!」
「ミナトぉ……」
僕の目は確かだったみたいだな。
「兄貴、落ち込んでないで早く食べよう。料理が冷めるぞ」
「うっせー!分かってるよ!……ったく、少しは上達したんだぞぉ!」
兄貴はブツブツと文句を言いながら席に座り「いただきます!」と言って自分の作ったハンバーグを頬張った。
「んー!お兄ちゃん、やっぱりアキトお兄さんの料理はとても美味しいですね!」
「そうだな。ミナト、せっかくだから今の内にもう少し兄貴を褒めてやれ」
「もぐもぐ……アキトお兄さんの料理はとても美味しいです!」
「だろう!うんうん、やっぱり兄ちゃんが最高だよな!」
単純なやつ……
ーー
ーー
「ごちそうさまでした!アキトお兄さん、ありがとうございました!」
「おう!ご馳走致しました」
「ごちそうさま、見た目はともかく味の方は前より上達していて美味しかったよ、兄貴」
「へっへぇん!だろぉ?お前もこれくらい美味く作れるよう頑張れよ!」
はいはい、勝手に言ってろよ。
僕は自分の皿を流しに置き、二人の食器もまとめて洗おうと蛇口に手を伸ばした。
それと同時にミナトが「あの!」と、声を上げたので伸ばした手を離した
「……あの……今日はユキタカお兄さん帰って来ないんですよね?」
……やはり僕の妹だな、勘が鋭い。
ミナトの必死に振り絞ったような細い声を聞き、キッチンから移動し再び自分の席に腰をおろした。
「ああ、しばらく留守にするみたいだ。連絡もとれないと思う」
「リュウイチ、本当に"しばらく"なのか?お前たちがそう思いたいだけで、現実から目を逸らしているだけなんじゃないのか?」
「……っ!」
「知ったふうな事を言うじゃないか……なら、兄貴が知ってる事を教えてもらおうか」
隣に座っているミナトが僕に寄り添い腕にしがみついてきた。しかし僕は兄貴から目を離さず真っ直ぐ見つめる。兄貴も極たまにしか見せない真剣な面持ちでこちらを見つめ返している……さすが兄貴、威圧感が他とは違う
「俺が言わなくても、お前ならもう大体の予想はできてるんじゃないのか? まあいい……ユキタカは無事だよ。紅として正式に迎え入れられた。あいつと少し話してみたんだが、恋人の事をすんげぇ心配してたぜ。 早くあいつを迎えに行きたいだの安心させたいだのってな」
どうやら僕が思っていた以上に兄貴は紅と密接してるみたいだ。それにユキタカも……心の拠り所を無くしたアイツはこのままだと自我が破綻してしまうかもしれないな、アイツの抑止力になるやつが誰もいないのだから……
「アホなやつだ、そんな事言うなら最初から紅に入らなければ良いものを……で、兄貴はその事を言いに来たのか?」
「そんなとこだ、お前やミナトが心配してるんじゃないかと思って遊びに来てやったんだ、ありがたく思えよ!」
「ああ、助かったし料理作ってくれて嬉しかったよ……ありがとう、兄貴」
「お兄ちゃん……」
兄貴もミナトも面食らったように驚いている、僕が素直な気持ちを口にしたのがそんなに驚く事なのか?
ともあれ……また家族で食事したいな……できる事なら……
「……へっ、珍しくリュウイチが素直になったから、もう少しだけ詳しい状況を言っておいてやる……リュウイチ、今の俺にはお前に対し、勧誘と抹殺命令と保護命令が出ている、どれを選ぶかは俺次第ってわけなんだが……さあ、どうする?俺を敵と断定して戦うか?それとも大人しく俺たちについてくるか?」
勧誘と保護令を出してるのが誰だかは大体分かる。恐らく勧誘令をだしてるのはアウラで、保護令を出しているのはマスターだろう。しかし、抹殺命令は一体誰が……賢者たちか?それとも……とりあえず、勧誘には乗るつもりは無いことを伝えておくか
「仮に紅以外のどんな組織だろうと勧誘に乗るつもりはない、ヘヴンで十分事足りている。兄貴がどの勢力にいるかは何となくでしか分からないが、何があっても僕は兄貴やユキタカを止める……必ずな」
「そう言うと思ったよ……ミナトはどうする?兄ちゃんたちについてくるか?それともリュウイチとここに残るか?」
「……ミナトのお願いは聞いてくれないのですか?アキトお兄さんもユキタカお兄さんも、自分たちで決めた道にミナトをお誘いするだけで、ミナトが決めた道にお兄さんたちは来てくれないのですか?」
ミナトは半泣きの状態で訴えかけている。兄貴はすこし驚いているようで、口が半開きになったままミナトを見ている……成長したな、ミナト。
「……確かにミナトの信じる道は俺にとっても心地いいかもしれない。けど、それを踏みにじろうとする連中もいるんだ。それらを消さないと、俺たちはミナトの理想に身を寄せられないんだよ」
「……」
兄貴の発言を聞いたミナトは唇を噛み締め、再び黙り込んでしまった。
「……まあ、ミナトの処遇については今んところ保護令しか出ていないから危害を加えるつもりは無い……俺だって無抵抗の妹に手を出すのは性にあわない、例え命令が出ていようともな。だからその辺は安心していいぞ」
……とりあえずミナトの安全は確認できたな。
「一番の問題はリュウイチ、お前さ。勧誘を蹴られたとなったら、実力行使しなきゃいけなくなる。俺としてはかわいい弟を失いたくないんだが……どうしても断るか?」
「ああ、これ以上同じ事で問答するつもりはない」
僕の返答を聞き、兄貴は「そっか」と言いながら立ち上がり、廊下の方へ歩き始めると同時に僕を見て「ついて来い」と促してきた。
「お兄ちゃん……!」
「ミナトは留守番を頼む……すぐに戻ってくる」
兄貴に続き立ち上がった僕の腕を引いたミナトは、心配そうな表情を浮かべ、瞳には涙をためこんでいた。
僕はそんなミナトを安心させようと、震えるミナトの手を握り返し一言声かけた後、兄貴と共に外へ出た。
「そう言えば、ガレージにも車が無かったがどこに停めてあるんだ?」
「車だとミツキたちに勘づかれると思ってな、今日は歩きで来たんだ。だからお前もバイクに乗らず俺と歩きで移動しろよ」
なるほど、誰にも邪魔させないって事か
少し前を歩いている兄貴に続いて僕もそのまま足を運ばせた。
「ほっほお……この辺りも俺がここに住んでいた時より随分変わったなぁ、けどなんとなぁく足が覚えているみたいだ、スラスラ歩ける……リュウイチはこの辺よく来るのか?」
「僕もこの辺りは久しぶりだ。兄貴が家を出て以来かな」
「なぁんだ、兄ちゃんがいなくなった寂しさから、何度か訪れた事があるとか無いのかぁ……いや、逆にお前がそんな事言ったらキモイか……」
そんな事思いつく兄貴の方がキモイぞ
「へぇ、二千年経ってもここは変わらねぇなぁ!昔ここでお前の修行に付き合ってやってたの覚えてるか?」
少し歩き、僕たち二人は周りには家も何も無い少し開けた場所に出た。二千年前や僕が再生して記憶を再起する前にも通っていた修行場所だ
「忘れる方がどうかしてる、僕もしばらく来てなかった……確かに変わらないな。ここでなら多少暴れても周りに被害は出ないかもしれない」
「だな……て言うか、やけに潔いいじゃねぇか。俺はまだ戦うなんて一言も言ってねぇぞ?」
何を今更
勧誘を断りミナトをおいて二人でこんな場所に来るって事は、もう一つの命令である抹殺令を実行するという事だろうが……保護令を優先するというなら、こんな所へは来ないし僕を連れて行かず一人でおとなしく帰って行ったに決まってる……僕の知っている兄貴ならそうするはずだ
「僕を抹殺するんだろう?悪いがこっちも易々と死んでやる気はないぞ、ミナトを残したままだしな……できる事なら兄貴とは戦いたくないが……仕方ないんだろ?」
「物分りが良すぎるというのも困りものだな……てか、こっちはもうとっくに戦う覚悟ができてるぜ?今更迷うなよ。じゃないと死ぬぞ、リュウイチ!」
そう言い終えると同時にアキトは瞬速と言える程のスピードで蹴りを繰り出し、僕は反射的に身体が動き、それを何とかガードできた。
(……相手の動きは昔から見てたから予想はできるが、思考が追いつかない!)
「俺の初手を防ぐとは……腕を上げたじゃねぇか!!」
(お褒めの言葉どうも!
けどこっちは反射的に防ぐのでやっとなんだよっ!)
「はあっ!!」
リュウイチはギリギリのところでアキトの攻撃を右腕で防いだが、アキトの攻撃が続く。
それもなんとか直撃する瞬間に防ぐ事ができ、リュウイチはカウンターで蹴り技をくりだす
「遅せぇよ! うおりゃ!!」
アキトはリュウイチの倍の速度で攻撃を躱し、再び連続攻撃をしかけるアキト。
(くっ!
やはりと言うかさすがと言うか、攻撃速度が僕とは段違いだ。以前より倍近く上がってる……!)
リュウイチの読みは正しかった。アキトの攻撃速度はリュウイチより上であり、相手の動きを先読みする事を得意とする彼の思考能力でさえアキトの攻撃は素早いものだった。
「どうした!?防戦一方じゃねぇか!言っただろ、半端な覚悟だと死ぬってな!!」
(言われなくても分かってる……!分かってるが……!)
家族と戦わなければならないと理解していたリュウイチだが、彼の胸中の奥底では僅かに迷いが潜んでいた。リュウイチはそれを割り切れないままでいた事に激しい嫌悪感を感じながら、アキトの猛攻を防いでいる。
「うおおおおぉ!!」
「はああああぁ!! 」
蹴りと蹴りが激突し凄まじい衝撃波が発生する。
その時、リュウイチは僅かにバランスを崩し、それを見逃さなかったアキトが追撃を放ち、リュウイチの腹部に直撃した。
彼は両足を地につきながら後方に吹き飛ばされ、更なる追い打ちに備えアキトを視界に入れる。
「……ぐっっ!!!」
「そろそろ終わりにするぜ!ナルミ流!!」
(ダメだ、このままじゃガードが間に合わない……!二発目をくらったら一溜りもない、ここはあえて攻める!!)
「ナルミ流!」
ーー閃光絶蹴覇!!ーー
ナルミ流の技と技の対決、リュウイチはアキトの動きをよみ、右足でアキトの蹴りを受け流し、懐に入るように体を捻り、彼の腹部周辺に左足で蹴りを入れた。
しかし、アキトはその攻撃をくらい後方に吹き飛んだが、すぐに態勢を立て直し、痛みに耐えながら突進してリュウイチの頭部目掛けて蹴りをくりだしたが、僅かにリュウイチの反射神経が早く、ギリギリのところでアキトの攻撃を回避してリュウイチはバックステップで距離をとった。
「ぐっ……なんとか一撃入ったか……けどさっきの一撃はかなり効いた……くそ……!」
「ってぇ……さすがに今のは響いたぜ ……お前もちゃっかり強くなってんじゃねぇか、リュウイチ」
リュウイチは改めて警戒心を強め、まだ終わってないと言わんばかりの目付きでアキトを睨みつけている。だが、アキトはそんな彼を見て、ほんの少し薄笑いを浮かべた。
「……やっぱお前の闘争心はすげぇな、この俺でさえちっとばかりおされちまう……とりあえず、お互いこのままじゃ戦えねぇし、今回は引き分けって事で丸く収めようじゃねえか」
アキトはその場で座り込み、折れているであろう足を軽く手で触れたその瞬間、激しい痛みが彼を襲い、思わず痛みで片目を閉じるアキト。
「引き分けだと……アキトにしては珍しい判断だな。昔はユキタカ並に勝ちに固執してたくせに」
「成長したって事さ……リュウイチ、二度と迷うんじゃねぇぞ、俺はもちろんユキタカもマジでお前を殺しにかかることになるかもしれねぇからな。生き延びたきゃ戦え……家族が相手でもな」
アキトの言葉を聞いてリュウイチは少し複雑そうな表情をしたが、すぐにその表情は消えた。
「僕はまだ生きてるぞ、抹殺令が出てるならそんな簡単に退いて良いのか?」
「別に今日中に殺せとは言われてないからな。それと、お前たちと今度会う時は戦場の中だろうから、それまでにちゃんと覚悟決めて戦えるようになっておけよ!」
リュウイチはアキトの言葉にハットし、一つの仮定が頭の中で構築された。
(……まさか、僕にアキトたちとしっかり戦えるかどうか試したのか?)
「僕は……」
「ぬるいな」
……っ?!
「お前は……リュウガ……!なぜこんな所に!?」
「こうして顔を合わせるのは久しぶりだね、リュウイチ。アキト相手にほぼ互角の戦いができるようになったみたいじゃないか……まあ、アキトが本気を出していたかは微妙だけどね」
目の前に突然現れたリュウガに僕は驚きを隠せなかった……だが、それ以上にミナトたちの方が気になった。こいつがこんな所に現れたのは僕の所在を知っているから……つまり一緒に住んでいるミナトや近所に住んでいるミツキたちの居場所も危険にさらされる恐れがある……!
「ふふ、安心していいよ。雑魚共相手に奇襲なんてしないさ、それにボク自身今は奴らを消そうとは思っていないからね」
「……」
言葉が出ない。
ずっと言おうとしてきた事が頭の中で嵐の様に渦巻いて、何から言えば良いか分からなくってしまった
「おいおいリュウガ、邪魔はしないって約束だろ?」
「邪魔をしているつもりはないよ?戦いは引き分けで終わったんだし、兄弟で話しをしても構わないはずだ」
何が兄弟だ!そんな事1ミリも思っていないだろうが!
「あれ?もしかしてまだ怒っているのかい?大昔に君の大切な者達を殺した事を」
貴様っ!!
「ははは、怖いなぁ……そんな顔しなくてもすぐに帰るさ……今日はね」
『リュウイチ様!?こちら本部です、その辺で凄まじい時空間魔法の反応を探知しましたが、ご無事ですか!?』
リュウガに向かって斬りかかろうとした瞬間、本部からの無線が入り、僕はその場で留まった。
「こちらリュウイチ、僕や周りにも被害は出ていない……交信終了」
僕は強制終了し無線を切った。
……目の前にいるのは確かに僕の知っているリュウガだ。こいつを前に無線なんてしてる場合じゃない!
「せっかくの気遣いだけれど、ボクたちはそろそろ帰るよ。今日は久々の顔合わせに来ただけだからね。それじゃあまたな」
「……つう訳だ、リュウイチ、さっき言ったことを忘れんなよ。じゃあな!」
……退いたか
アキトがリュウガと行動を共にしているということは、抹殺令を出しているのはリュウガか……しかし、なぜアキトがリュウガの勢力に入ったんだ?
……
……
……くそ、震えが止まらない
僕はしばらくその場で立ち尽くし、数分後やっとまともに動けるようになった足で帰路についた
ユマリ
「一つの物語小話劇場……どうしたの兄さん、今日はなんだか顔色が暗いわよ?体調でも悪いの?」
リュウイチ
「別に……ちょっと嫌な事を思い出してしまっただけだ、身体はいたって健康だぞ」
ユマリ
「……そう、じゃあ兄さんが元気になるように、今度お買い物に行かない?兄さんの好きなフィギュアが有ったのだけれど……」
リュウイチ
「ユマリ……子供をあやすような言い方をするな、僕は行かないぞ」
ユマリ
「残念……次回、一つの物語〜騒乱編〜……兄さんの好きなゲームキャラのフィギュアだったのだけれど……」
リュウイチ
「ユマリ、すぐに案内しろ」
ユマリ
「可愛い兄さん……」
次回掲載日10月20日予定




