嵐の前編・親友
ーー同日、ホーリーヘヴン・執政官専用食堂ーー
「ん〜ここも落ち着くけど、やっぱリュウイチの執務室の方が居心地良いなぁ」
「私はまだここのヘヴンに来て間もないけど、何となく分かる気がする。なんて言うか、心が安らぐというか、まるでもう一つのお家に居るみたいな感じ」
おっ!ハクもそう思い始めてたのか、リュウイチの執務室はリラクゼーション効果があるのかってくらい落ち着けるんだよなぁ
「あ〜あ……早く話し合い終わらないかなぁ……あ、おばちゃ〜ん!たこ焼きのマヨネーズ無しもうワンパックちょうだ〜い♪」
「私も青海苔無しのたこ焼き下さい!」
本当にこいつらたこ焼き大好きだな、大好きな人の好物は自分の大好物ってか?
まあ、これも見慣れた光景だけどさ……
「はいよー!にしてもあんた達がこの時間帯にここにいるなんて珍しいねぇ、リュウイチ君の執務室へ行かなくて良いのかい?」
「その本人から入室禁止令が出てるのさ、一時的にな……で、11時30分になるまで俺たちはここで待ちぼうけってね」
「そうなのかい、珍しい事もあるもんだねぇ……ほい、サツキちゃんとミツキちゃんのたこ焼きだよぉ!これはリュウイチ君用ね、後で渡してあげな」
「わ〜い!ありがと〜おばちゃん♪」
リュウイチ用って言ってるのに、まるで自分が貰ったかのように喜ぶサツキ……あいつリュウイチの分まで食わないだろうな……?
「良いの?おばちゃん、リュウイチの事だから焼きたてじゃないとか、またブツブツ言われるかもしれないわよ?」
「良いのいいの!焼き立てが欲しかったらまたここへ来るだろう?その時に、焼きたてのたこ焼きを食べてほしくてねぇ、だからこれで良いんだよ!」
あっはっはっ!なるほど、リュウイチの性格を良く理解した作戦だな。あいつがこの事を知ったらどう思うかこりゃ見ものだな。
「リュウイチ君ってそんなにたこ焼き好きなの?」
「ああ、好き過ぎてたこ焼き中毒かって思えるくらい食うんだよ、一日に10パックは食べるのが普通なくらいだ」
そんなに!?と驚くハク、そしてすぐに指で数えだした。
「えっと10パックという事は、ワンパック8個入りだから……80個?!それであの体型なんて……どんな運動したらあの体型維持できるんだろう……」
はは……この前似たような会話をリュウイチたちとしたな。
「ん〜美味しい!♪ パクパク……あ、ちなみに言うとねりゅうくんの体重は50kgジャストなんだよ!♪」
「……うそみたい……」
嘘じゃなくて本当なんだよなぁ、この前それを証明されたし、当たり前だと言わんばかりに……!
「リュウイチはよく自宅の庭とか、地下室のトレーニングルームで体を動かしてるし、普段もヘヴンでシュミレーションやミッションで運動してるし、その分カロリーを消費するからプラマイゼロになるんじゃないかしら?」
リュウイチが近い事言ってたなぁ、俺もトレーニングは結構してるつもりなんだが……何が違うんだか……天性の体質なのかもしれないな
「へぇ、そうなんだ!でも、それだけトレーニングしてたらもう少しガッチリした体型にならない?リュウイチ君は細身に見えるけど……」
「あっと!ハク、それは多分本人の目の前で言わない方が良いぞ。あいつその事気にしてるみたいだから」
はっとした様な表情で口を抑えるハク……罪悪感を感じさせるその表情はなんとなく可愛く見えた。
「あぁ見えてりゅうくんはかなり力持ちなんだよぉ、あたしとみぃ姉がタッグ組んでもノーダメで攻撃を受け止めたりするし!かっこいいよねぇ♪ 」
「彼はパワータイプのモンスターを相手にするときも全然苦戦したりしないし、あの細身な身体のどこからあんな力が出るのかしらね」
言われてみると、二千年前前からあいつが苦戦してる姿は見た事ないな……リュウガとの戦い以外では……
「……?カイ君、どうかした?顔が暗いよ?」
「あ、いや……例のアイツとリュウイチの戦いの事を思い出しててな、リュウイチは前からアイツとの戦い以外で苦戦してなかった。だからあれだけの死闘になるなんて思わなかったよ……」
護衛なんていらねぇんじゃないかってくらい強かったよなぁ、リュウイチは……一族を壊滅させるくらいな
「あぁ、アイツの事ね……あの人が擬似バーサーカーになっても勝てなかったアイツ……今改めて考えてみるとゾッとしないわね」
「あの人だけじゃなく、色んな人達も参戦してたんでしょ?反則だよ……そんな強さ」
"いいか!絶対に生き延びてすーーしろ!カイ、頼んだぞ!"
"カイ、あなたは死んではいけない!ーーを必ずーーのよ!あなたならできるわ!!"
……くっ!!
「あらあらあら、ここも変わり映えしないわねぇ!キラに会う時間まで少し余裕を持って来たから少し探索してたんだけど……ま、そんな劇的に変化しないか」
……?!この声は?
俺はハッとして声の主の方を向くと、そこには懐かしい姿の自分が立っていた。
「ミラーじゃないか!久しぶりだな!」
「ん?あんたは……誰だっけ?」
えっ……!?おいおい、覚えてないのかよ……!
「俺だよ、リュウイチのガードをしてるカイだ!」
「……誰だっけ?……あっ!あなたのことは覚えてるわよ、久しぶりねぇミツキにサツキ!相変わらずリュウイチにくっついてるの?」
……俺の存在ってそんな薄いのか……
「久しぶり、ミラー!くっついてるんじゃなくて護衛してるのよっ!何度もそう言ってたでしょ?」
「うふふ、はいはい……あなたのそういうところ、昔と同じね!」
「ミ〜ちゃん久しぶりぃ!ミ〜ちゃんは相変わらずキラ君ラブみたいだねぇ♪」
「なっ!?そ、そんなんじゃないわよ!!た、ただ……そう、放っておけないというか……そんな感じよ!」
……完全に俺の事ないがしろにしてるし……
「それよりそこのカイとかいう人の隣にいる人って、もしかしてハクって人?」
「!?ど、どうして私の名前を!?」
「キラから聞いてたのよ、カイとハクって人が新しいカップルになりそうだよって!」
「カップル!?」
「カップル!?」
な、なんて恥ずかしい事を話してるんだ!キラは!!
「私はミラーよ、元ここの一等粛正官を務めていたんだけど、訳あってファクロム支部へ転任してたの。でもマスター直々にお呼びがかかってまたここへ戻ってきたのよ。まあ、私の足を引っ張らない程度によろしく!」
「キラ君と仲が良いって事はあなたも相当良い人なんだね!私はハク、こちらこそよろしくね!ミラーちゃん!」
「べ、別にあいつと仲が良いと言う訳じゃないわよ!あの子一人だと危なっかしいから一緒にいるだけ!」
相変わらずツンツンデレだな……向こうは俺の事をすっかり忘れてるみたいだけど……って言うかキラから連絡取り合って、俺たちの事話してたのになんで忘れてるんだよ……!
「はいはい……それよりそろそろお待ちかねの愛する人との再会タイムじゃない?私たちは11時半にリュウイチの執務室に行く予定になってるんだけど……」
「あなた達も?私も同じ時間に待ち合わせてるんだけど……あなた達が追い出されるなんてかなり珍しいわね。そんなに大事な話なのかしら?」
俺はとっさに時計を見た
11時25分……確かにそろそろ向かっても良さそうだな。
「まあ、積もる話もあるだろうから、とりあえず執務室へ向かおうぜ。ミラー、改めてまたよろしくな!」
「はいはい、いいから早く行きましょう!おばちゃん、またね!」
「はいよ、またおいで!」
本当にクールレディだな……少し寂しくなるぞ……とほほ……
「ところでミラー、いつセントラルに着いたの?」
リュウイチの執務室へと歩きながらミツキがミラーに質問した。
「今朝9時頃よ、その後こっちで借りた自宅で色々支度してからここへ来たの……それでも時間余っちゃったから暇つぶしがてらヘヴン内を一通りまわってきたのよ」
「へぇ〜……ミラーちゃん、前より大胆になったねぇ、愛するキラ君のために早めに到着しちゃうなんて、かなり乙女じゃん♪」
うるさいわね!と言って照れ隠しするミラー、分かりやすいやつになったなぁ、ツンの方は健在だがデレの方も健在……ではなく、むしろ膨れ上がって来ている。しばらくキラと離れ離れだっからかもしれない。
「そういえば、マスターから連絡あった時にお聞きしたんだけど、ホーリーヘヴンの一等粛正官達が殺害されたんですって?」
「ああ……その時俺も現場にいたんだが、悲惨な状況だったよ」
「確か、ミソラが暴れてたのよね?前からいけ好かない女だと思ってたのよ、本当に最低ね!」
どうやらミラーは、ミソラ達がイレギュラーになった事に疑問や動揺などしていないようだ……神経の図太いやつだな。
「で、ジュンはキラが撤退させる程、強くなったんでしょ?あの子なら絶対やれると前から思っていたのよ!なんせ私が目をつけた人なんだから、それくらい当然よね」
これまた分かりやすい発言だな……ははは
「ふふ、ミラーちゃんはキラ君の事本当に大切にしてるんだね」
「えっ!?えっと……まあ、私が認めたんだから相応の見方をしてるだけよ!別にキラが好きだからではなくて……」
そこまで聞いてないってのに……少し認識を改めてみるか、おそらく今のミラーはツン・デレデレってところか!
「はいはい、ご馳走様っ!デレるのは本人と会ってからゆっくりしなさい……お疲れ様アンナ、良いかしら?」
「お疲れ様です皆さん。はい、少々お待ち下さい……リュウイチ様、ミツキ様たちがお見えになりました……はい、分かりました。お待たせいたしました、皆さま中へどうぞ」
「お疲れ〜りゅうく〜ん♪ 」
執務室に入るなり、元気よく高らかに甘えた声でリュウイチの名前を呼びはしゃぎだすサツキ。そんな彼女をリュウイチはいつものように軽くあしらった。
「ミラー!久しぶり、元気だったかい!?」
「当たり前じゃない!キラこそ、また女々しい姿晒してないでしょうねぇ!」
対照的な四人だな……
ミラーはキラとの再会を喜び、大満足と言わんばかりの明るい表情をしている……前はこんな表情した事なかったのに……こいつも丸くなったもんだ
そう思いながら俺は自分の席についた……ふぅ、やっぱここが落ち着くなぁ
「久しぶりね、ミラー。お茶どうぞ……」
「相変わらず余計な感情を出さないみたいね、ユマリ……ま、一応お礼は言っておくわ!」
ユマリとは性格が真反対のような間柄で、ミラーに敵視されていた時もあった。しかし、ミラーが一方的にそう見ていただけで、ユマリ自体はそんな事気にもとめていなかったらしい……と、いうことを以前ひょんなことからその事情をユマリから聞いた事があった。
「リュウイチこれ、食堂のおばちゃんから預かって来たの」
そう言ってミツキは先程頂いたたこ焼きをリュウイチに渡した。リュウイチはすぐさま開封したこ焼きを一つとりパクっと口に運んだ。
「……ほう、以前より水量を微調整したみたいだな。焼き立てなら味も違っていたかもしれないが、それでもまだまだだな……まあいい、後で行ってやるか」
はは、さすがの上から目線だな……でも食堂のおばちゃんの言っていたとおりの流れになったのは、お互いが認めあってて通じあっているからだろうな。
「……ん?カイ、どうかしたのか?いつもより表情が暗いぞ」
えっ!?
リュウイチの発言に俺は少し動揺した、自分でも気づかない内にそんな顔にさせてしまっていたのだろうか?
「えぇ……?そぉかなぁ、あたしにはいつもと変わらないように見えるけど?」
「……カイ君、ここまで来る間はもっと暗かったよ。今は少し落ち着いてるみたいだけど……」
ハクはリュウイチと同じ見解みたいだ……
「いや、なんでもないさ!あえて言うなら、その……リュウイチ、ミラーには……」
「共に戦うにあたり、ある程度の事はマスターから説明があったはずだが……ミラー、リジェネレーションという単語は知ってるか?」
「知ってるわよ、あなたやリュウガ、あとその他複数人が行った再生システムでしょ?最重要機密レベルの」
そこまで知ってるなら大丈夫そうだな。
俺がそう思いながらリュウイチの方に視線を向けると、軽く頷いた。よしという合図だろう。
「ちょっとリュウガについて考えてたんだ、あいつの目的は今でも変わってないのかってな」
「世界の浄化と再生……アイツはそう言っていたな。以前ランドル付近でガラドたちが言っていただろう?"偉大なる世界のため"と、それにガラドたちは自分達のことを"再生の使徒"と名乗っていたし、おそらく前と変わっていない可能性がある」
やっぱそうか……世界を創り直すなんて事、本当にできるんだろうか?二千年前の当事者である俺ですらにわかには信じ難い……でも、父上たちは本気で恐れていたようだったし、間違いないんだろうけど……
……父上……母上……
「……」
「(カイ、御親族について考えているのか?)」
っ!?これは、リュウイチの声!!という事は……リュウイチ、力を使っているのか?
「(そうだ、この会話は僕とお前にしか聞こえていない)」
「兄さん、お茶のおかわりよ」
「どうも」
「(だから安心して良い……それで?どうなんだ?)」
……ああ、そうだ
「(やはりな……カイ、それについて少し話がある。僕に合わせて部屋を出るぞ)」
わ、わかった……
「さて、そろそろ昼時だし、食堂のおばちゃんにも呼ばれているみたいだから、食堂に行ってたこ焼きを受け取ってくるか、カイ、お前もついてこい、荷物持ちとしてな」
「あ、じゃあ私たちも……あっ……と、思ったけどやっぱり止めておくわ……二人とも気をつけてね」
ミツキはリュウイチの表情を見ると、何かを悟ったように見えた……察しがいいよな、ミツキは。
「じゃあ、お前らゆっくりして行け……アンナ、茶葉の補充を頼む」
『了解いたしました、ただいまお持いたします』
「ユマリ、アンナから茶葉を受け取っておいてくれ。さあ、行くぞ、カイ」
「分かったわ」
「おうっ」
俺たちはそう言って部屋から出て、少し歩くと近くの誰も使用してない、会議室に到着した。
リュウイチは会議室の鍵を開けて中に入った。
バタン……俺とリュウイチしか居ない部屋に扉を閉めた音が鳴り響いた。
「……リュウイチ、なぜお前が俺たち一族の事を……あれはナルミ家でも当主しか知らない繋がりだぞ」
「バックアップメモリで記憶を取り戻してしてすぐさ、あの戦いのときの犠牲者一覧を調べ、コウガ家の中にお前の名前……本名が記されていた。コウガ家はナルミ家の護衛や親衛も兼ねて、ナルミ家を守護してきた一族だった。だが、それを殺害したのは……暴走してい僕……」
……っ
「僕が暴走しリュウガと戦闘していた時に破壊された建物のせいでお前たち一族は孤立してし……そして追い討ちをかけるように瓦礫の雨が降り、その場にいた一族は全滅してしまった」
「だが、そうじゃなかった。俺は父上と母上たちに守られて一命を取りとめた。そして誓った……お前たちを殺すことを……復讐する事を……!それが俺の生きがいだった。そしてそれを成した時は家族のいるところまで行くってな……」
「……自分の犯した事について弁解はしない、お前が僕を殺したいと言うならそうしても構わないしそうされるだけの理由は十分にある」
なに?
「……だから僕が道を誤った時は僕を迷わず殺せ、お前達にはそうする資格がある。自分の選択に後悔しないのなら、いつでも僕の命を狙っても構わない」
「リュウイチ、お前そこまで知っていてどうして俺をガードとして受け入れたんだ?!」
「親友として間違った僕を斬るため、そして僕がお前の仇だからだ」
っ!?
親……友……
「僕のしでかした事は到底許されるものではないと自覚している。だからお前が僕をいつでも殺せるように、お前を僕のガードとして受け入れた。もっとも、親友と思っているのは僕だけかもしれないがな」
「……なんだよ、なんでそこまで言い切れるんだよ……!俺はずっとお前を殺そうとしてたんだぞ!そんな奴だと分かってて、なんで俺を親友だなんて言い切れるんだ!!」
「二千年前からのつきあいだ、流石の僕でも仲間意識くらい抱くさ」
「お前がそう思ってる間も、俺はお前を殺そうとしてたんだぞ、お前も分かっていたんだろう!?それなのになぜ……!?」
「そうだな……でも共に過ごして来た日々の中で一つでも本物は無かったと、お前は言い切れるか?」
っ!!
「……お前が御母堂達の事を思うのなら、いつでも殺れば良い。だがそれまでは仲間としてリュウガ打倒に力をかしてくれ」
……俺は、リュウイチ達といて良いのか……?
トモカ
何があってもずっと一緒にいたい、それは私の願いの一つ……でもその願いが音を立てて崩れていくような気がした……
どこに行っちゃうの……?
一人で遠くへ行かないで!
私たちを置いて行かないで……
私を……置いて行かないで……!
あなたがどんな道を行こうと
私はあなたの最愛の人でありたい……
次回、一つの物語〜嵐の前編・恋人〜
ユキタカ君……何処にも行かないで……
掲載日9月25日




